子どもの好奇心を育てるための情報の差し出し方
「チ。-地球の運動について-」というアニメがある。
このアニメを見ていた子どもから、こんな質問をされた。
「このアニメの舞台っていうのかな。天動説とか地動説の繋がり?みたいなもの。それって何で勉強するもんなの?」
ほー、そんなことに関心持つなんて、今どきのアニメの影響ってすごいものだ。
この質問に答えるため、僕が真っ先に思ったこと。
それは、中世以降の科学史の系譜を、一体どこから伝えたらいいのかなということ。都合のよく、程よい感じにまとまったサイトなどあるわけもなく、見つけられても「文字の年表」みたいなものしか見当たらない。
「じゃあ、どんな本読んだらいいの?」
続け様にこの質問。
そして答えるのが難しい。
一番間違いがないのは「この本を読むことだ」と伝えた。
・コペルニクスの「天体の回転について」
・ガリレイの「星界の報告」
これらをそっと手渡したものの、全く読む気はおきないらしい。僕は、偉人の著作(本物)に触れることは大事だと思っているけど、だいたい原書は簡単な内容ではない。
子どもが知りたいことは、こうした"部分"の探究ではなくて、科学史全体のつながりにあるので、少し視点が異なるようだ。
紙とペンで偉人のあらましを作る
そこで、紙とペンを使って、「チ。」に関する人物をまとめていった。
・この人の名前は○○という天文学者で、
・だいたい何年ぐらいに生きていて
・こんな功績がある人なんだ
というような感じで、紙に書き出しながら教えていった。
例えば、地動説の提唱者として最重要人物のコペルニクス。おそらく、チ。でも登場すると思うが、彼を物語る"偉人カード"はこういう情報量になる。
コペルニクス
他にも、アリストテレス、ケプラー、ガリレイ、などと偉人カードを作っていった。
アリストテレス
ケプラー
ガリレイ
こうして説明すると、この偉人たちが生きていた間に、一体何を成し遂げたのかが伝わりやすいようで、「大体こういう人なんだな」というところを掴んでもらえた。納得感につながったようだ。
偉人カードのつながりを示してみる
次に、「チ。」に関連する偉人カードを手に取って、より関係が深い者同士を繋げていった。実際は紙に書き出したが、今回はnote用に整形した図を使って解説するとこういう感じ。
紀元前に、アリストテレスっていう偉大な哲学者(天文学者)がいてね。その当時の世界では、チ。と同じようにね。とある宗教観の影響で「神が想像した地球こそ、完全なもの。万物の中心にあるべきもの。」って考えられてたのよ。
だから、アリストテレスは「地球は完璧な球体」で、それが中央にどっしり座ってるイメージでさ。地球の周りを太陽とか他の惑星が回ってるって考えてたの。
時代が紀元後になっても、その考えは廃れてなくて。プトレマイオスっていう天文学者が「地球こそ中心」っていう宇宙観を数学的に証明しようとしてね。
という具合に解説していった。
なるほど、これはわかりやすいようだ。
歴史の教科書で「アリストテレスはこんなことやった人!」と解説されるよりも、はるかに記憶に残る模様。物事がどのように関係しているか?俯瞰してみてみることがとても大事だ。
ちなみに、チ。の後半で出てくる主要キャラのつながり
同様に、チ。の主要キャラについても解説した。
さっき説明したプトレマイオス。彼の数学的記述を体系化したのがプールバッハという天文学者でね。この二人の間には「1200年」以上の空白があるでしょ。
チ。の前半の登場人物は、1200年以上の時間に存在した(であろう)信念を持った天文学者であり、数学者であり、哲学者のことなんだと思うわけ。
そして、後半に出てくる「ブルゼフスキ」という偉人が超重要な人物で。当時の世界観ではタブー視されていた「天動説」に否定的な立場をとる。もちろん、真っ向から否定!というのではなくて、あくまでもプールバッハの惑星理論に「注釈」を加える形で、「実は天動説にも誤りがあるのでは?」という見解を述べていくの。
それを受けて、彼を師事していたコペルニクスが、「天球の回転について」っていう本を書く(冒頭で渡した本を手に取って、それがこれのことと指差す)。
すると、子どもの目つきが変わる。
なるほど、さっき手渡された本って、実はこういう系譜につながる重要な本なのか、ということをようやく理解し始めた。
そして、今日僕たちがスマホで通信できる理由
科学史におけるこうしたパラダイム転換で大事なものが2つあって、1つが今、説明してきた「天動説→地動説」までの流れ。
もう一つが、この偉人たちの登場で、僕らはみんなスマホを使ってネットを見たり、通信できたりしているのね。
りんごが落ちるのをみて、閃いたって言われるニュートンって聞いたことあるでしょ。万有引力の法則というのを提唱した偉人ね。彼が1つ目のパラダイム転換の地動説を物理的に解き明かすの。
そしてニュートンが構想した「力と場の概念」をヒントにして、ファラデーっていう化学者が、実験と観察を繰り返しながら、磁石の周りにできる謎の線(磁界)ってなんだろう?ということを考え続けて。それって、実は、僕らが生きているこの空間には、目に見えない「場」というものがあるんじゃないかって考えるわけ。
そして、実験を進めながら「磁場」と「電気(電場)」は、お互いに密接に関係しているようだけど、どうにも説明できない…って困ってたの。なぜなら、ファラデーはとても貧しくて、理論を証明する高等数学の知識がなかったの。
そこにマクスウェルという、とんでもない化け物みたいな物理学者が登場して。晩年、ファラデーの研究成果を数学的に証明する。
電場と磁場は密接に関連してて、この相互作用は「光速」をもって伝わる。
つまり、今見えている「光」って、実は電磁波という波の性質のことで。
この現象の一形態に過ぎないの。
それを証明したのがマクスウェル。
(そばにあったiPhoneを指差して)このスマホを使って、世界中の人と通信できるのは、こういう科学の挑戦と歴史があったからなの。
相手にあわせた情報の差し出し方
こうして、僕と子どもの「手書きの科学史講義」が幕を閉じた。
チ。というアニメをきっかけにした壮大なテーマの話し合い笑
それを改めて、整形してnoteにしようと思ったわけで、僕が作った中世の科学史の系譜はこういうものになる。学校の先生がいたら、ぜひ活用してください。
そして感じたことがある。
それは「情報の差し出し方」ということ。
中学、高校ぐらいで、こうした偉人の足跡を習ったり、具体的には彼らの作った公式というものを丸暗記したり。誰しも経験があると思う。
僕は、子どもに科学の興味を持たせるためには、実は今回説明した壮大な人間模様とか、彼らがどういう時代に生きて、何を考えてきたのか。
その深い繋がりと関係性こそ、重要なんじゃないかと考えている。
そして、そのつながりをわかりやすく、興味を持てるように伝える方法があって、それが「情報を再構成した差し出し方」にかかっているのではないか?と感じる。
ちなみに僕の子どもは、科学にそこまで興味を持っていなかったが、チ。という壮大なアニメを通じて、僕に冒頭の質問をしてきたわけで。
そういう瞬間に「差し出し方」さえ間違えなければ、子どもの好奇心をくすぐることは容易いことなのかもしれない。
おわりに
ちなみに、ガリレイの星界の報告。
これの第一章は「覗き眼鏡」というタイトルだが、これは望遠鏡のことを指している。現代では考えられない、こういう素敵な言葉や文章表現に触れたりできるので、個人的には彼らの書いた本も読んだ方がいい。