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人間ドラマと最高のアクション!映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』感想
九龍城砦――。
わたしはこの地名を聞くだけでワクワクしてしまいます。
数十年前まで香港に実在したその一角には、無秩序に建てられたビルが折り重なるようにそびえ、人々がひしめき合って暮らし、昼間でも薄暗い迷路のような通路には無数の電線が垂れ下がって視界を塞ぎ、そして建物の間から見える狭い空の上ギリギリを轟音を挙げながら飛行機が通過していく。
そんな混沌とした、たまらなく危険でありながら魅惑的な場所、それがわたしにとっての九龍城砦のイメージでした。
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現在では跡地には公園が作られ、かつて「魔窟」とまで呼ばれたあの面影はどこにも残っていないと聞き、どこか寂しいような思いを抱いてきました。
ですがこの『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』では約10億円の製作費を投じ、カオス極まる九龍城砦の在りし日の姿を再現して見せてくれたのです。
魅力的なキャラクターの織り成す人間ドラマ
香港にやって来た難民である主人公の陳洛軍は、とある組織に追われて九龍城砦に逃げ込みます。
危険極まりない土地に思えた九龍城砦の中ではただの一般人である老若男女がごく当たり前に生活を営んでおり、商店街には駄菓子屋や点心の店などがひしめき合うように並び、この上なく活気に満ちあふれています。
主人公もいろいろな店の手伝いをしながら人々に受け入れられ、そして九龍城砦に居場所を見つけていくことになるのです。
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この映画の登場人物は2世代に分かれていて、かつて九龍城砦で激しい闘争を繰り広げ勝利し今は九龍城砦の顔役となった「龍兄貴」こと龍捲風を中心としたおそらく60代以上の年上世代と、主人公陳洛軍や龍兄貴の片腕である信一からなる20代ぐらいの若者世代、それぞれの結束や因縁などが語られていきます。
どちらかといえば復讐や決別などの重めのエピソードは年上世代が担っており、若者世代は和気あいあいとした微笑ましいやりとりが多く、彼らの登場する場面はホッとできる癒しタイムでもありました。
ですが個人的には年上世代の過去の因縁話、九龍城砦の覇権をめぐる戦いにまつわるエピソードが一番心に残りました。
この抗争については冒頭で簡単に語られ、そして回想シーンで断片的に分かるのみです。
ネタバレ防止のため具体的な話は伏せますが、その過去における龍兄貴とある人物とのやりとりが、個人的にこの映画いちばんの名場面だと感じています。
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当時の戦いに参加したメンバーは今も交流があり、固い結束を誇っています。
彼らの年を重ねた者にしか出せない貫禄、そして哀愁や悲しい過去はこの作品に深みと苦み、そしてどっしりとした安定感を加えてくれたと思います。
見ごたえ抜群!流れるようなアクションシーン
そしてなにより、見ごたえのある激しいアクションについて語らないわけにはいかないでしょう!
開幕ほどなく始まる九龍城砦の狭く曲がりくねった廊下で繰り広げる息をもつかせぬ猛スピードの応酬には息を飲み、この映画のアクションシーンの方向性も理解しました。
そして九龍城砦というロケーションを存分に活かした、庇や電線だらけのビルとビルのわずかな隙間を落下したり駆け上がったり、無数に伸びる壁のパイプを引きちぎって武器にしたり、脆くなった壁を突き破って吹っ飛ばされたりするダイナミックな演出にも引きつけられました。
格闘も素手のカンフーだけでなくナイフなど刃物も駆使した魅せるアクションが随所に盛り込まれ、流れるような動きで次から次へと攻撃が繰り出される様は見事としか言いようがありませんでした。
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また、カンフー映画お約束の手近なものを使ったアクションもあり、棚や机を利用して1対多数の戦いを切り抜けるなど「待ってました!」と声を挙げたくなるような見せ場も用意されていたのはカンフー好きとしてはうれしかったです。
年上世代も若者世代もみんな戦いに参加し、「このキャラ強かったの!?」と驚くような人物までバトルに加わり、どの場面も思い返すとテンションが上がってくるほど白熱していました。
戦うシーンが多くてもPG12(12歳以下の方には保護者等の助言・指導が必要)指定の作品なので流血表現などは控えめで、刃物で刺されても血はほとんど出ず、衣服に滲んだり床に滴り落ちたりという程度なのでそこまでバイオレンスというわけでなく、純粋にアクションを楽しむことができたのも良かったです。
激しい抗争が描かれるのでもちろん死人も出るのですが、カメラアングルが工夫されており、グロテスクとは感じませんでした。
あくまで活劇として格闘シーンをいかに魅せるかに注力されていると思いました。
まとめ
年上世代の滅びゆく九龍城砦を体現するかのような哀愁に満ちた安定感のある渋さと、若者世代の熱い友情と未来への希望に満ちたカラッとした明るさ、その2つを同時に描くことで物語に奥行きと爽快感を出しており、人間ドラマとしても見ごたえのある作品になっていたと思います。
また、激しくダイナミックに繰り広げられる流れるようなバトルシーンは一瞬も目が離せないほど魅力的で、九龍城砦というロケーションを存分に使った見せ場も多く、アクション映画好きの方も満足できるはずだと感じました。
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リアルに再現された在りし日の九龍城砦にどこか郷愁を覚えながらも、そこで活き活きと暮らすたくましい人々を見ているとなぜか励まされるような気持ちにもなりました。
125分の鑑賞を終えた後は、登場人物と一緒に戦っていたかのような心地よい疲労感を覚えるとともに、まだ九龍城砦に心が残ったままどこかぼうっとして帰路に着きました。
時間が経ち落ち着くにつれいくつもの名ゼリフや鮮やかなアクションが脳内で蘇り、「あのシーンがもう一度見たい!」という気分にもなってきました。
この映画にリピーターが多いというのも頷けます。
鑑賞できる映画館は少なめの様ですが、上映回数が多くなっているという話も耳にしますし、熱心なファンの口コミで観に行くわたしのような人も今後増え続けると思います。
ぜひ多くの人に見てもらいたい作品だと感じました!