ことばあそび
「便器のように真っ白なカップ」。
多和田葉子さんの作品『雲をつかむ話』に登場する一節である。
初めて彼女の著作を手に取り、この表現に出会ったときの衝撃は今でも忘れられない。
食器を形容するのに便器という言葉を使うなんていう発想、普通あります??
少なくともわたしにはなかった。
にもかかわらず、ひとたびそう表されるとそれ以外の適切な言葉が何ひとつ思い浮かばないのだから不思議なものだ。
独特にして的確。
一瞬にして魅入られてしまった。
そんな多和田葉子さんの『太陽諸島』を読み終えた。
相も変わらずすべての言葉が軽やかに舞い、予想外の方向から飛び込んできては、ひらりと着地する。
こんなにも自由に言葉と戯れることができたならどんなに楽しいだろう。
わたしの拙い日本語では表現しきれないが、言葉を愛するすべての人に是非とも直接彼女の世界を味わってほしいと思う。
ちなみに、『太陽諸島』の登場人物ノラによればユニクロをドイツ語読みするとウニクロで、ウニは大学、クローはトイレという意味らしい。
トイレ大学。たのしい響きだ。
多和田氏はトイレが好きなのだろうかなどと栓のないことをぼんやりと考えたりしたが、たぶんトイレが好きなのは冒頭で紹介した一節に魅入られてしまったわたしの方である。
ちなみにちなみに、『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』『太陽諸島』のこの三部作、単行本の佇まいも非常に美しいのだが、扉のページに装幀/佐々木 暁 装菓/彗星菓子手製所、とあった。
装菓…?
そう、各作品の表紙の結晶たちはイラストではなく、彗星菓子手製所さんによって創られた何とも繊細で美しい和菓子なのである。
こんなところにも新鮮な驚きがひとつ。
一冊の本によるひっきりなしのサプライズ、めくるめく魔法のような言葉たちの世界。
この感動を共有できるのもまた言葉の力で、自分もそんな言葉の海を自由に泳げるようになりたいと夢見て日々を過ごしている。
もっとも、noteの文章の締め方すらうまいこといかないのだから道のりは長い。
わくわくする。