もっと分かりやすく➆「定数 ω」について復習
ここでは、本シリーズでたびたび現れる定数 $${\omega}$$ について解説します。主に本シリーズ (2) の復習です。
定数 ω の定義
$${\omega}$$ とは、「3乗して $${1}$$ になる数のうち虚数である定数」、つまり「1の3乗根のうち虚数であるもの」を表します(注で数の分類)。具体的には
$$
\begin{align*}
\omega=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2}
\end{align*}
$$
または
$$
\begin{align*}
\omega=\dfrac{-1-\sqrt{3}i}{2}
\end{align*}
$$
という定数です。
この定数 $${\omega}$$ の値は、$${x^3=1}$$ を解くことによって得られます。まず、高校1年で習う因数分解公式
$$
\begin{align*}
a^3-b^3=(a-b)(a^2+ab+b^2)
\end{align*}
$$
を用いると $${x^3-1}$$ は、$${a=x, b=1}$$ として
$$
\begin{align*}
x^3-1^3=(x-1)(x^2+x\cdot1+1^2)
\end{align*}
$$
より
$$
\begin{align*}
x^3-1=(x-1)(x^2+x+1)
\end{align*}
$$
と因数分解されるので、$${x^3=1}$$ は次のように変形できます。
$$
\begin{align*}
&x^3=1\\
&x^3-1=0\\
&(x-1)(x^2+x+1)=0
\end{align*}
$$
これを解くと
$$
\begin{align*}
x-1=0 または x^2+x+1=0
\end{align*}
$$
より、前者 $${x-1=0}$$ の解は、$${x=1}$$ となります。
後者 $${x^2+x+1=0}$$ の方は
<2次方程式の解の公式>
2次方程式 $${ax^2+bx+c=0}$$ について
$$
\begin{align*}
x=\dfrac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}
\end{align*}
$$
を用います。$${x^2+x+1=0}$$ より、$${a=1, b=1, c=1}$$ として
$$
\begin{align*}
x&=\dfrac{-1\pm\sqrt{1^2-4\cdot1\cdot1}}{2\cdot1}\\
&=\dfrac{-1\pm\sqrt{1-4}}{2}\\
&=\dfrac{-1\pm\sqrt{-3}}{2}
\end{align*}
$$
正の数 $${a}$$ に対して
$$
\begin{align*}
\sqrt{-a}=\sqrt{a}i
\end{align*}
$$
より
$$
\begin{align*}
\sqrt{-3}=\sqrt{3}i
\end{align*}
$$
よって
$$
\begin{align*}
x&=\dfrac{-1\pm\sqrt{-3}}{2}\\
&=\dfrac{-1\pm\sqrt{3}i}{2}
\end{align*}
$$
$${\omega}$$ は「3乗して $${1}$$ となる数のうち虚数である定数」なので、この値が $${\omega}$$、つまり
$$
\begin{align*}
\omega=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2}
\end{align*}
$$
または
$$
\begin{align*}
\omega=\dfrac{-1-\sqrt{3}i}{2}
\end{align*}
$$
となります。
3乗して $${1}$$ になる数として、すぐに $${1}$$ が浮かびますが、$${1}$$ は虚数ではないので $${\omega=1}$$ とはなりません。
ここで $${\omega}$$ について、次の2つの公式を覚えておきましょう。本シリーズで頻繁に出てくる公式です。
ω の重要公式
次の2つの式は公式として覚えておきます。
$$
\begin{alignat*}{2}
&\omega^3=1 & &\cdots ①\\
&\omega^2+\omega+1=0 & &\cdots ②\\
\end{alignat*}
$$
順に証明していきます。
(①の証明)
$${\omega}$$ は「3乗して $${1}$$ となる数のうち虚数である定数」なので、明らかに3乗すれば $${1}$$ になります。よって
$$
\begin{align*}
\omega^3=1
\end{align*}
$$
(②の証明)
$${\omega}$$ はそもそも
$$
\begin{align*}
x^2+x+1=0
\end{align*}
$$
を解いて得られたものなので、この式に代入して
$$
\begin{align*}
\omega^2+\omega+1=0
\end{align*}
$$
より証明されました。
合わせて、次の計算も押さえておきましょう。
ω に関する重要計算
次のような計算は頻繁に現れます。
$$
\begin{align*}
\omega^4&=\underset{1}{\underline{\omega^3}}\cdot\omega=1\cdot\omega=\omega\\
\omega^5&=\underset{1}{\underline{\omega^3}}\cdot\omega^2=1\cdot\omega^2=\omega^2\\
\omega^6&={(\underset{1}{\underline{\omega^3}})}^2=1^2=1\\
\omega^7&=\underset{1}{\underline{\omega^6}}\cdot\omega=1\cdot\omega=\omega\\
&\hspace{5pt}\vdots
\end{align*}
$$
このように、次数の大きいものでも、$${\omega^3=1}$$ を用いて次々と次数を下げていくことができます。
また、次の定理も覚えておきましょう。
ω に関する重要定理
次のように、$${\omega}$$ と $${\omega^2}$$ には対応関係があります。
$$
\begin{align*}
\omega=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2} のとき \omega^2=\dfrac{-1-\sqrt{3}i}{2}\\
\omega=\dfrac{-1-\sqrt{3}i}{2} のとき \omega^2=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2}
\end{align*}
$$
(証明)
さきほど証明した $${\omega^2+\omega+1=0}$$ より
$$
\begin{align*}
\omega^2=-\omega-1
\end{align*}
$$
$${\omega=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2}}$$ のとき
$$
\begin{align*}
\omega^2&=-\omega-1\\
&=-\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2}-1\\
&=\dfrac{-(-1+\sqrt{3}i)}{2}-\dfrac{2}{2}\\
&=\dfrac{1-\sqrt{3}i}{2}-\dfrac{2}{2}\\
&=\dfrac{1-\sqrt{3}i-2}{2}\\
&=\dfrac{1-2-\sqrt{3}i}{2}\\
&=\dfrac{-1-\sqrt{3}i}{2}
\end{align*}
$$
より
$$
\begin{align*}
\omega^2=\dfrac{-1-\sqrt{3}i}{2}
\end{align*}
$$
となり、前者が証明された。
一方、$${\omega=\dfrac{-1-\sqrt{3}i}{2}}$$ のとき
$$
\begin{align*}
\omega^2&=-\omega-1\\
&=-\dfrac{-1-\sqrt{3}i}{2}-1\\
&=\dfrac{-(-1-\sqrt{3}i)}{2}-\dfrac{2}{2}\\
&=\dfrac{1+\sqrt{3}i}{2}-\dfrac{2}{2}\\
&=\dfrac{1+\sqrt{3}i-2}{2}\\
&=\dfrac{1-2+\sqrt{3}i}{2}\\
&=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2}
\end{align*}
$$
より
$$
\begin{align*}
\omega^2=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2}
\end{align*}
$$
となり、後者が証明された。
以上のことから、$${1}$$ の3乗根は次の3つとなります。
1の3乗根
$${1}$$ の3乗根は、次の3つである。
$$
\begin{align*}
1, \omega, \omega^2
\end{align*}
$$
先ほどの<$${\bm{\omega}}$$ に関する重要定理>
$$
\begin{align*}
\omega=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2} のとき \omega^2=\dfrac{-1-\sqrt{3}i}{2}\\
\omega=\dfrac{-1-\sqrt{3}i}{2} のとき \omega^2=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2}
\end{align*}
$$
により、$${\omega}$$ と $${\omega^2}$$ はともに $${1}$$ の3乗根となります。
すると、3次方程式 $${x^3=1}$$ の解は次のようになります。
「3乗=1」の解
$${x^3=1}$$ の解は
$$
\begin{align*}
x=1, \omega, \omega^2
\end{align*}
$$
もちろん、$${x^3=1}$$ の解は $${1}$$ の3乗根です。
これをふまえると、$${a}$$ を実数としたときの3次方程式 $${x^3=a}$$ の解は、次のようになります。
「3乗=a」の解
$${x^3=a}$$($${a}$$ は実数)の解は
$$
\begin{align*}
x=\sqrt[3]{a}, \omega\sqrt[3]{a}, \omega^2\sqrt[3]{a}
\end{align*}
$$
なお、$${\sqrt[3]{a}}$$ は3乗して $${a}$$ になる数です。例えば $${\sqrt[3]{8}}$$ は3乗して $${8\,(=2^3)}$$ になる数なので、$${\sqrt[3]{8}=2}$$ となります。
つまり $${x^3=a}$$ の解は、
$${a}$$ の3乗根 $${\sqrt[3]{a}}$$
$${\sqrt[3]{a}}$$ に $${\omega}$$ をかけたもの $${\omega\sqrt[3]{a}}$$
$${\sqrt[3]{a}}$$ に $${\omega^2}$$ をかけたもの $${\omega^2\sqrt[3]{a}}$$
と、3つ並べることのよって得られます(本シリーズ (2))。
例を上げましょう。
(例1)$${x^3=2}$$ の解は
$$
\begin{align*}
x=\sqrt[3]{2}, \omega\sqrt[3]{2}, \omega^2\sqrt[3]{2}
\end{align*}
$$
(例2)$${x^3=-8}$$ の解は
$$
\begin{align*}
x=\sqrt[3]{-8}, \omega\sqrt[3]{-8}, \omega^2\sqrt[3]{-8}
\end{align*}
$$
$${\sqrt[3]{-8}=\sqrt[3]{(-2)^3}=-2}$$ より
$$
\begin{align*}
x=-2, -2\omega, -2\omega^2
\end{align*}
$$
では、$${x^3=a}$$($${a}$$ は実数)の解は
$$
\begin{align*}
x=\sqrt[3]{a}, \omega\sqrt[3]{a}, \omega^2\sqrt[3]{a}
\end{align*}
$$
となることを証明します。
(証明)
3次方程式 $${x^3=a}$$ について、この両辺を $${a}$$ で割ると
$$
\begin{align*}
\dfrac{x^3}{a}=1
\end{align*}
$$
$${\sqrt[3]{a}}$$ は3乗して $${a}$$ になる数なので
$${a={(\sqrt[3]{a})}^3}$$(例 $${2={(\sqrt[3]{2})}^3}$$)
より
$$
\begin{align*}
\dfrac{x^3}{({\sqrt[3]{a})}^3}=1
\end{align*}
$$
$${\dfrac{x^3}{{(\sqrt[3]{a})}^3}=\left(\dfrac{x}{\sqrt[3]{a}}\right)^3}$$ より
$$
\begin{align*}
\left(\dfrac{x}{\sqrt[3]{a}}\right)^3=1
\end{align*}
$$
$${\dfrac{x}{\sqrt[3]{a}}=X}$$ とおくと
$$
\begin{align*}
X^3=1
\end{align*}
$$
すると、解 $${X}$$ は $${1}$$ の3乗根なので
$$
\begin{align*}
X=1, \omega, \omega^2
\end{align*}
$$
$${X=\dfrac{x}{\sqrt[3]{a}}}$$ に戻して
$$
\begin{align*}
\dfrac{x}{\sqrt[3]{a}}=1, \omega, \omega^2
\end{align*}
$$
両辺に $${\sqrt[3]{a}}$$ をかけて
$$
\begin{align*}
x=\sqrt[3]{a}, \omega\sqrt[3]{a}, \omega^2\sqrt[3]{a}
\end{align*}
$$
となり証明された。
最後に、本記事の内容をまとめておきます。いずれも本シリーズで頻繁に現れる $${\omega}$$ に関する性質です。
まとめ
<$${\bm{\omega}}$$ の定義>
$${\omega}$$ とは、「3乗して $${1}$$ になる数のうち虚数である定数」、つまり「1の3乗根のうち虚数であるもの」を表します。具体的には
$$
\begin{align*}
\omega=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2}
\end{align*}
$$
または
$$
\begin{align*}
\omega=\dfrac{-1-\sqrt{3}i}{2}
\end{align*}
$$
<$${\bm{\omega}}$$ の重要公式>
$$
\begin{align*}
&\omega^3=1\\
&\omega^2+\omega+1=0\\
\end{align*}
$$
<$${\bm{\omega}}$$ に関する重要計算>
$$
\begin{align*}
\omega^4&=\underset{1}{\underline{\omega^3}}\cdot\omega=1\cdot\omega=\omega\\
\omega^5&=\underset{1}{\underline{\omega^3}}\cdot\omega^2=1\cdot\omega^2=\omega^2\\
\omega^6&={(\underset{1}{\underline{\omega^3}})}^2=1^2=1\\
\omega^7&=\underset{1}{\underline{\omega^6}}\cdot\omega=1\cdot\omega=\omega\\
&\hspace{5pt}\vdots
\end{align*}
$$
<$${\bm{\omega}}$$ に関する重要定理>
$$
\begin{align*}
\omega=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2} のとき \omega^2=\dfrac{-1-\sqrt{3}i}{2}\\
\omega=\dfrac{-1-\sqrt{3}i}{2} のとき \omega^2=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2}
\end{align*}
$$
<$${\bm{1}}$$ の3乗根>
$${1}$$ の3乗根は、次の3つである。
$$
\begin{align*}
1, \omega, \omega^2
\end{align*}
$$
<$${\bm{x^3=1}}$$ の解>
$${x^3=1}$$ の解は
$$
\begin{align*}
x=1, \omega, \omega^2
\end{align*}
$$
<$${\bm{x^3=a}}$$ の解>
$${x^3=a}$$($${a}$$ は実数)の解は
$$
\begin{align*}
x=\sqrt[3]{a}, \omega\sqrt[3]{a}, \omega^2\sqrt[3]{a}
\end{align*}
$$
(注)数の分類
数の分類は以下の通りです。
$$
\begin{align*}
\boldsymbol{複素数 a+bi}
\begin{cases}
\overset{\small b=0 のとき}{\boldsymbol{実数 a}}
\begin{cases}
\underset{\scriptsize 分数で表せる数}{\boldsymbol{有理数}}
\begin{cases}
\boldsymbol{整数}
\begin{cases}
\boldsymbol{自然数} \scriptsize{(1, 2, 3, \cdots)}\\
\boldsymbol{0}\\
\boldsymbol{負の整数} \scriptsize{(-1, -2, -3, \cdots)}
\end{cases}\\
\boldsymbol{有限小数}\\
{\footnotesize 例 0.17 (=\dfrac{17}{100})}\\
\boldsymbol{循環小数{\scriptsize(循環する無限小数)}}\\
{\footnotesize 例 0.232323\cdots\left(=\dfrac{23}{99}\right)}
\end{cases}\\
\underset{\scriptsize 分数で表せない数}{\boldsymbol{無理数}}\\
{\scriptsize 例 \pi (=3.1415\cdots) のような \boldsymbol{循環しない無限小数}}\\
{\scriptsize e (=2.7182\cdots) のような \boldsymbol{循環しない無限小数}}\\
\end{cases}\\
\overset{\small b\ne0 のとき}{\boldsymbol{虚数 a+bi}} 特に a=0 のとき \boldsymbol{bi} を\boldsymbol{純虚数}という。
\end{cases}
\end{align*}
$$
(参考)各章の内容
(1)「2次方程式の解の公式」を式変形で導出
・平方完成
(2)「3次方程式の解の公式」を導出するための準備
・$${1}$$ の3乗根 $${\omega}$$
(3)「3次方程式の解の公式」を式変形で導出
・チルンハウス変換
(4)「解と係数の関係」と「対称式」の解説
(5)「対称式」を用いた「2次方程式の解の公式」の導出
(6)「解の置換」と「ラグランジュ・リゾルベント」の解説
(7)「ラグランジュ・リゾルベント」による「3次方程式の解の公式」の導出
(8)「遇置換」と「奇置換」の解説(ここから「アーベルの証明」の準備)
(9)「差積の2乗」が対称式となることを解説
(10)「平方根」「3乗根」と次々と累乗根を加えていくアイデア
(11)「アーベルの証明」のアイデアを用いて、なぜ「2次方程式の解の公式が存在するのか」を解説(添加する式について加筆予定)
(12)「アーベルの証明」のアイデアを用いて、なぜ「3次方程式の解の公式が存在するのか」を解説(前編)。「差積の2乗の平方根」を用いて対称性を保つ置換を「遇置換」にまで絞り込む(対称性の破壊)。
(13)「アーベルの証明」のアイデアを用いて、なぜ「3次方程式の解の公式が存在するのか」を解説(後編)。「ラグランジュ・リゾルベント」を用いて対称性を保つ置換を「恒等置換」にまで絞り込む(対称性の破壊)。$${\longrightarrow}$$ 3次方程式の解の公式の完成
(14)「アーベルの証明」の解説①。5次方程式の解の差積(または差積の2乗の平方根)を添加して、加減乗除ができる式の範囲を拡大。その結果、構成可能な式の対称性が5次置換(対称式)から遇置換シンメトリーへと破壊されることを解説。
(15)「アーベルの証明」の解説②。すべての置換は互換で表せることから、5次置換をすべて互換の積で表して、遇置換と奇置換に分類する。
(16)「アーベルの証明」の解説➂。「すべての遇置換は3次巡回置換の積で表される」ことの解説。
(17)「アーベルの証明」の解説➃(最後)。「任意の3次巡回置換が5次巡回置換の積で表せる」ことによって、5次方程式には解の公式が存在しないことが証明されることの解説。
(18)もっと分かりやすくシリーズ①「累乗根の添加」について重点解説。
(19)もっと分かりやすくシリーズ②「対称性の破壊」について重点解説。
(20)もっと分かりやすくシリーズ③「対称性を恒等置換まで破壊」することについて重点解説。
(21)もっと分かりやすくシリーズ➃ 何次方程式でも「最初に解の差積を添加して対称性を破壊すること」は常套手段。
(22)もっと分かりやすくシリーズ➄「解の和と差の連立」による2次方程式の解の公式の導出について。
(23)もっと分かりやすくシリーズ➅「対称式ではない解の公式を基本対称式で表す」ことのついて。
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