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同値関係と両立する写像(9)

前回までで群、環、R加群という個々の具体的な代数系の場合に合同関係が、正規部分群、イデアル、部分加群という「特殊な部分集合」と1:1対応したことをみた。

一方、『同値関係と両立する写像(3)』でみたように、合同関係があればその商集合への自然な全射が準同型となるように商集合上にすべての演算が引き起こされた。

群、環、R加群の場合に、引き起こされた商集合上のすべての演算によって成す代数系が、もとの代数系のもつ公理をすべて満足し、それぞれ再び群、環、R加群となることをみよう。

1.剰余群

群Gの合同関係~から、商集合G’(=G/~)上にもそれぞれの演算が同時に引き起こされる:
 ・乗法:G’×G’→G’
  [x][y]=[xy] 
 ・単位元:{*}→G’
  1=[1]   (※注意1)
 ・逆元:G’→G’
  [x]’=[x’]
そして合同関係~に対応するGの正規部分群をHとすると、Hの定義から
 H=[1]
である。

一般の同値類は
 [x]={g∈G|g~x}
   ={g∈G|gx’~1}
   ={g∈G|gx’∈H}
   ={g∈G|g∈Hx}
   =Hx
 (x∈G)
となる。

従って、
 G’={Hx|x∈G}
と書ける。(※注意2)

G’のこの乗法が結合法則を満たすことはGで満たすことから従う:
 (HxHy)Hz=HxyHz
         =H(xy)z
         =Hx(yz)  (∵Gの結合法則)
         =Hx(Hyz)
         =Hxyz
 (x,y,z∈G)

従ってG’はこの乗法によって群を成す。

G’=G/~のことをG/Hと書き、これはGのHによる剰余群,または商群(quotient group)と呼ばれる。

---------------------------------

※注意1:同じ1という記号を使うが、乗法の単位元を1と書くことにする。どこの世界における1なのか文脈から判断つく場合は特に断らずに使おう。また加法の単位元は0と書く。2節、3節も同様である。

※注意2:一般にはx≠yでもHx=Hyとなる場合がある。その場合、右辺の集合の元の表示はいくつか重複があることに注意。2節、3節も同様である。

2.剰余環

環Rの合同関係~から、商集合R’(=R/~)上にもそれぞれの演算が同時に引き起こされる:
 ・乗法:R’×R’→R’
  [x][y]=[xy] 
 ・乗法の単位元:{*}→R’
  1=[1] 
 ・加法:R’×R’→R’
  [x]+[y]=[x+y] 
 ・加法の単位元:{*}→R’
  0=[0] 
 ・加法の逆元:R’→R’
  -[x]=[-x]
 
そして合同関係~に対応するRのイデアルをAとすると、Aの定義から
 A=[0]
である。

一般の同値類は
 [x]={r∈R|r~x}
   ={r∈R|r-x~0}
   ={r∈R|r-x∈A}
   ={r∈G|r∈x+A}
   =x+A
 (x∈R)
となる。

従って、
 R’={x+A|x∈R}
と書ける。

群のところでも調べたように、このとき加法も乗法もRの結合法則がそのままR’に遺伝されて(R’,・)は単位的半群、(R’,+)は群である。さらに交換法則も遺伝されて(R’,+)は加法群となる:
 [a]+[b]=[a+b]
     =[b+a]
     =[b]+[a]
加えて、加法に対する乗法の(両側)分配法則:
 [a]([b]+[c])=[a][b+c]
         =[a(b+c)]
         =[ab+ac]
         =[ab]+[ac]
         =[a][b]+[a][c]
 ([b]+[c])[a]=[b+c][a]
         =[(b+c)a]
         =[ba+ca]
         =[ba]+[ca]
         =[b][a]+[c][a]
も成り立つ。従ってR’は環を成す。

R’=R/~のことをR/Aと書き、これはRのAによる剰余環,または商環(quotient ring)と呼ばれる。

3.剰余加群

左R加群Mの合同関係~から、商集合M’(=M/~)上にもそれぞれの演算が同時に引き起こされる:
 ・加法:M’×M’→M’
  [x]+[y]=[x+y] 
 ・単位元:{*}→M’
  0=[0] 
 ・逆元:M’→M’
  -[x]=[-x]
 ・a∈Rの左作用:M’→M’
  a[x]=[ax]

そして合同関係~に対応するMの部分加群をNとすると、Nの定義から
 N=[0]
である。

一般の同値類は
 [x]={m∈M|m~x}
   ={m∈M|m-x~0}
   ={m∈M|m-x∈N}
   ={m∈M|m∈x+N}
   =x+N
 (x∈M)
となる。

従って、
 M’={x+N|x∈M}
と書ける。

群のところでも調べたように、このとき加法はMの結合法則がそのままM’に遺伝される。よって(M’,+)が加法群となり、さらにM’はRの左作用は
 (ab)[x]=[(ab)x]
       =[a(bx)]
       =a[bx]
       =a(b[x])
 1[x]=[1x]
    =[x]
 a([x]+[y])=a[x+y]
        =[a(x+y)]
        =[ax+ay]
        =[ax]+[ay]
        =a[x]+a[y]
の3つの公理を満たす。従ってM’はR加群を成す。

M’=M/~のことをM/Nと書き、これはMのNによる剰余加群,または商加群(quotient module)と呼ばれる。

なお、右R加群、両側(L,R)加群の場合も剰余加群となることは同様である。

4.まとめ

商集合によって引き起こされる演算には、単位元の存在、逆元の存在、結合法則、交換法則、左および右作用が遺伝される。

特に、群、環、R加群(Rは単位的半群)の場合、合同関係によって商集合上に引き起こされた演算で再び、群、環、R加群となることを確認した。


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