数学屋ノート
概念系単発記事をこちらに格納。きちんとした定義は語らず日常感覚的です。なので厳密さはありません。そんなものがあるんだな、レベルのものです。
『同値関係と両立する写像』シリーズからやや接続した内容です。合同関係全体が成す束で代数学を進めていきます。準直積(subdirect product)、準直既約(subdirectly irreducible)など概念から、任意の代数が準直既約なものの準直積であることをみます。(主なソースはBirkhoff(1944)の論文を参考にしています。)
集合と写像から始まり、「同値関係と両立する写像」に関して考察を進めていきます。一般的な代数的構造を付与したものでも考察は続き、合同関係というすべての演算と両立するという強力な同値関係を導入します。この概念が群、環、R加群では正規部分群、イデアル、部分加群と自然に引き起こされる対象であることをみます。また第1・第2同型定理も言及します。最後に単位的半群ではどうなるだろうと考え、この場合はきれいな1:1対応の付かない反例を一つ作ってみました。
自然数での素因数分解の一意性の仕組みを、「可換な単位的半群」というモデルの中で考察する物語です。
はじめまして。「数学屋ノート」です。 私は学生時代は数学専攻で京都大学大学院を修了後、システムエンジニア職として一般企業に就職しました。いろいろ頑張って7年ほど勤めましたが数学世界を探求したい気持ちと、またいくつかの諸事情により脱サラを決行。現在は自営業のカフェ経営と、地域の小・中・高生、高専生、一般の社会人の方まで広く数学個別指導塾をしています。一時的に再びエンジニアとしてしばらく仕事していることもあります。 数学探求を行いながら得た数学諸概念ネタをうまく発信できたらと
久々に投稿します。ここ最近はコロナ禍にあって自営のカフェ経営で奮闘中です。しかしそんなときだからこそ、自身の哲学をもっと広く捉えなおして確立させることが大切なのだと思っています。なぜなら、経営をしていくことは、様々な場面で判断しながら進めるものだからです。 通常は経営的には多くのお客様に来てもらうように、店のコンセプトにあった企画を作って、販促活動して、企画を実施するのですが、コロナ収束を優先するとなると、遠方からお越しいただくような企画は今実行されるときではないと考え、そ
前回に引き続き、漸化式の特性方程式に関して、今回は隣接3項間漸化式について考えよう。2つの解法を示そう。まず「解法1」では高校数学の範囲で、「解法2」では線型代数の理論を使って解き、それぞれ特性方程式の意味を考える。解法1での意味も解法2の観点からもう少し探ってみる。 数列a[n](n=1,2,3,・・・)がa,b,p≠0,q≠0を定数として次を満たすとする。 a[n+2] = pa[n+1] +qa[n] ・・・① a[1] = a a[2] = b 数列a[n]の
高校数学で習う数列の漸化式の問題について、特性方程式の話がよく出る。「よくわからないが、そういうものとして解法を真似ればよい」というスタンスでも記述式の試験には対応できるから、特段記述試験では困らない。とはいえ、「よくわからないが」という部分が気になるかもしれない。そこでこれを説明したい。 高校数学の問題で出て来るものとしては2項間ないし3項間漸化式が多い。これらを例にしたいが、本記事としてはまずは2項間漸化式の話からしよう。 次のような問題を考える。 数列a[n](n
最近は工業専門学校(通称、高専)の生徒に「線形代数」の個別指導をしていて、そのための線型代数のテキストを2、3取り寄せて理論的な進め方を比較しつつ調べている。物語を自分なりに構築するのに参考になるからだ。 ところで学部の頃の線形代数の本をみつけて当時を思い出した。私は大学初年次、線形代数がとても苦手だったということを。ところどころの余白に汚い字で書きなぐったような行列の計算がある。心理的にも「イヤ」だったことが字を見ればわかる。 今でこそ個別指導塾として数学を教える側にな
縦と横が「2×1」または「1×2」の形のドミノをいくつか使って、図のような「8×8」の枠の中に升目に沿って隙間なく敷き詰めてみよう。 これは難なく敷き詰められるだろう。 では、この枠の1つの対角線にある角2つを取り除いた枠の中に、ドミノを隙間なく敷き詰めることはできるだろうか。 ドミノは面積が2だから敷き詰められるとしたら、面積が偶数でなければならない。そして上の例はもともと「8×8」の形をした枠であり、そこから角の2つを取り除き、面積は64-2=62で偶数である。
今回はすぐに帰結する準直既約に関する簡単な一般的性質を少しみよう。次に可換環の場合の話に移り、合同束がイデアル全体が成す束に対応することを確認しよう。今回の定理としては、準直既約な被約環(0以外にベキ零元を持たない可換環)のとき、体となることを証明しよう。従って、特に準直既約な整域は体である。 なお、諸々の用語・記号は前回等と引き続き用いることにする: 1.諸命題【命題1】 代数系Aが準直既約であるとき θ∩ψ=Δ ⇒ θ=Δ または ψ=Δ (θ,ψ∈Con(A))
ここまで3回にわたって準直積と、準直積の既約性(準直既約)という概念を定義し、いくつか例を見て来た。 代数系が準直積の形に分解され、そして準直既約であればもうこれ以上の有意な分解を持ちえない。 ではいつでも準直既約の形に分解できるのか、そして分解できるならば一意的かという疑問が湧いてくる。 今回は、まず分解できたとしても一意的とは限らない例を先にみよう。次に実はいつでも準直既約なものの準直積に分解が可能であることを証明しよう。 なお証明中の注意事項については証明の後に
前回までで準直積(subdirect product)という直積(direct product)よりは弱い条件の直積のようなものを定義し、例をみてきた。 ところで位数が素数pの巡回群が準直積で表されるならば、各因子のうちどれかは自分自身と同型であることがわかる。 従って、準直積による分解表示でこれ以上意味のある分解を引き起こさないものがある。そこから準直既約(subdirectly irreducible)という概念を定義しよう。また、これを合同束の言葉で言い換えてみよう
今回は前回の「定理(Birkhoff)」から同型の場合を考えることで1つの系を導こう。また、準直積に関してアーベル群ℤを例に考えてみよう。 1.定理の系準直積の定義の条件(1)より、 i:B→ΠA(γ) が単射準同型であるから Δ=Ker(i) である。 また、定理でA=Bの場合によって Ker(i)=⋂Ker(π[γ]◦i) となる。 よって ⋂Ker(π[γ]◦i)=Δ である。 一般には定理の条件(Ⅱ)で準同型 φ:A→B が同型である場合、 ⋂K
合同関係の全体と全射準同型の全体とが1:1対応し、合同関係全体における包含関係(順序関係)により全射準同型全体に順序を引き起こした。これらは束構造として互いに同型となり、それぞれを合同束、全射束と呼んだ。 束として同型だから下限は下限に、上限は上限に対応し合う。では、合同関係の上限、下限に対応する全射準同型の上限、下限は何だろうか。 今回は下限を構成する中で準直積(subdirect product)という概念が現れることをみよう。下限の特徴づけが準直積への全射準同型とし
代数系を1つ固定したとき、その上の合同関係の全体と、その代数系を始域とする全射準同型の全体とが1:1対応していることを前回みた。 一方、合同関係は直積の部分集合とみなせるから、集合の包含関係によって、ここに半順序構造を定めることになる。この半順序構造はさらに、どの2元についても下限および上限をもつことをみよう。したがって「束」と呼ばれる構造を持つ。これにより「合同束」と名付けよう。 そして全射準同型全体への1:1対応によってやはり束の構造を引き起こすから、こちらは「全射束
2つの同じ代数系の間の準同型写像というのは、その代数系に付随するすべての演算構造を保つような写像であった。演算構造を保ちながら、どれくらい写像の精度が良いのかという指標として、「核」を見ればよいというのが前回の『核』で述べた。 ところで準同型の核は、全ての演算と両立するような同値関係(つまり合同関係)であるが、逆にどんな合同関係も「ある準同型の核」とみなせる。従って両者を考えることは本質的に等価である。 今回はこのことを確認しよう。 1.合同関係と全射準同型の対応まずA
何かしらものの本質に近づくときは、「核心に迫る」という。余計なモノを取り払って大事な部分だけを残した先に真の姿が現れる。 今回の「核」は英語で「kernel」の方で、「柿の種」のような「中心」をもつようなものを絵としてイメージすることがある。中心に据えるということは、やはり「大事なもの」という心の表れであろう。 そのような、自然に大事であると意識にのぼるような対象を示す言葉が「核」というのであれば、今回定義しようとする準同型の核というものが、自然に意識の向かうべき重要な対
前回と前前回では2つ代数系の直積についての話であった。 今回は任意個(有限でも無限でも)の代数系の直積に拡張しよう。 任意個になっても形式的には前回と同じ道をたどればよい。 1.直積上の合同関係の定義集合Γを添え字集合とし、Γの元γに応じて代数系A(γ)が対応しているとする。 そして{A(γ);γ∈Γ}は互いに同様な代数系の族で、A(γ)上の合同関係θ(γ)がそれぞれに与えられているとしよう。 このとき、直積ΠA(γ)上に xΠθ(γ)y ⇔ 各γ∈Γについて、x
今回は前回『同値(合同)関係の直積』において「心」で定義したものを、証明によってうまく定義されていることを念のために確認してみようという話である。 証明を与えるのは単に技術上の話に過ぎない。しかし「証明」が本当に与えられることを確認しないと、心と数学がうまく両立していない場合にあとで痛い目に合ってしまう。自明であるなら証明があるだろうから、証明を与えようということである。 1.定式化A上の合同関係θと、B上の合同関係ψがあるとき、A×B上の合同関係θ×ψ: (a,b)θ