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2013年と2024年では事情が違う、京葉線の通勤時間帯快速廃止
ここ数日、JR京葉線の「通勤快速廃止」の話題が新聞、テレビ、ネット上のあちこちで大きくとりあげられています。
輸送量あたりの二酸化炭素の排出量が低いという特色を持つ鉄道の重要性はサステナビリティ担当者として意識しておりますので、本日はこの話題について調べ、学んでみることにしました。
会話がかみ合わない自治体首長とJR東日本
12月28日にはJR東日本の千葉支社長が千葉市長を訪問して面談が行われましたが、市長の理解は得られなかったようです。
「私としては非常に不満で、納得できない内容でした。承服できませんので、3月のダイヤ改正の撤回・再考を強く申し入れました」と市長が強い言葉で語ったのはなぜなのか。JR東日本側の説明はどのようなものだったのかを知りたくて記事を読んでみたところ、
JR東日本側の説明によれば、ダイヤ改正の目的は
混雑の平準化
各駅停車しか停まらない駅の利便性の向上
各駅停車の所要時間の短縮
の3つだとのことですが… あれれ?なんかヘンだぞ?というのが私の率直な第一印象でした。
京葉線の朝時間快速廃止は2013年にもあった
というのも私、京葉線沿線に住んでいたことがあるので知っているのですが…京葉線が平日朝の通勤時間帯の快速を廃止するのは今回が初めてではないのです。2013年にも同様のことがありました。
そして、前回実施された2013年、JR東日本・千葉支社が語ったダイヤ改正の狙いも今回と同じく「混雑の平準化」だったのです。
JR東の千葉支社はダイヤ改正の狙いを「快速と各停の混雑の偏りをなくすため。各停にして増発した方が運転間隔が縮まり全体の混雑を解消できる」と説明する。今改正では、午前7時半~8時半の上り運転本数を1本増やし22本にする。
でも、沿線人口が増え続けていた当時と、コロナ禍を経た現在とでは状況が違うはずでは?そこが疑問だったのでちょっと掘ってみることにしました。
乗降客数の推移データを見て気づいたこと
JR京葉線の停車駅の駅別乗降客数ランキングと、各駅の乗降客数推移(2011年~2021年)を見てみると、やはり、思った通りでした。
2011年から2018年頃までは駅別乗降客数が右肩上がり(角度に差はありますが)になっていること、コロナ禍を経て2019~2020年に激減した乗降客数が今なお大きく戻ってはいないであろうことが想定されるデータです。
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2013年改正の理由については「混雑の平準化」と言われても納得できるのですが、2023年発表の改正理由を同じく「混雑の平準化」と文字通り受け止めるのは難しいです。
では、何が理由なのか?その手掛かりを探していたとき、目に留まったのが「2018年」でした。
いくつかの駅のデータを見ていて気付いたのですが、2011年から2018年頃までは駅別乗降客数が右肩上がりで推移しているのですが、2019年には横ばいになっているのです。そこをさらに調べてみて気づいたのは…
2018年にはすでにスタートしていた経営改革
…JR東日本が、実は2018年7月の時点でグループ経営ビジョン「変革2027」を発表していたということでした。
その資料には、少子高齢化を受けた人口減少の進展や、移動手段の多様化・自動運転技術の実用化などによる鉄道移動ニーズの減少といった「今後の経営環境の変化」が描かれていました。
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JR東日本グループ経営ビジョン「変革2027」
近い将来、鉄道を利用する人の数は減少傾向に転じる。だからそれを見越して自分たちのビジネスモデルを変えなくてはならない…
そうした見通しに基づいて、JR東日本は2018年時点ですでに、10年先を見据えた経営改革として収益源の多様化や輸送サービスの高度化等を進めようとしていました。
「30年先の世界が一気に訪れた」
その矢先に発生したのが新型コロナウイルスによるパンデミックでした。これにより「30年先の世界」が一気に訪れてしまったのです。
「働き方の変化や移動ニーズの縮小により、30年先の世界が一気に訪れたのです。2020年度の連結純利益は、上場企業の中で最大となる約5800億円の赤字を計上。コロナ禍による急激な変化は、とてつもないインパクトをもたらしました」とJR東日本の入江 洋氏は危機感を募らせる。「これは一過性のものではないと感じています。行動様式やライフスタイルは会社中心の『集中型』から、生活中心の『分散型』に変わり、速く移動するだけでなく、移動中に仕事ができる環境を求めるなど、利用者ニーズも『パーソナル』へとより細分化されました」。
営業利益とフリーキャッシュフロー創出力を一気に失ったJR東日本は…
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成長に向けた投資だけではなく、その原資となるフリーキャッシュフローの創出にも一層努めなければならなくなってしまいました。
今回の件は本当に「唐突」だったのか
そこでJR東日本は、2022年度(2023年3月期)に民営化後最大となる数の減便や「みどりの窓口」の削減、特急等料金の値上げを実施しました。
同社は23年3月期に3年前に比べて営業費用を700億円減らす。22年3月のダイヤ改正で民営化後最大となる減便を実施したほか、「みどりの窓口」は20年比2割削減し、スマートフォンなどによる切符販売に切り替えた。「減便や駅業務の見直しは今後も進めていく」(JR東幹部)。さらに22年春から新幹線や特急のグリーン席料金を最大3割値上げした。「年間で数億~十数億円の収入押し上げを見込んでいる」(同社)。
この一環として、2022年には京葉線についてもダイヤ改正で
朝、京葉線直通の通勤快速4本のうち2本を各駅停車に
平日日中の快速運転本数を毎時3本から2本へと削減
に加えて、
終電の繰り上げ
を実施しています。
つまり、今回(2023年)のダイヤ改正の予兆はあったということなのですね。
さて、JR東日本の経営環境と経営戦略・目標、そして2022年度に実施された施策、そして、そもそも2013年に一度「通勤時間帯の快速廃止」が実施されていることなどを勘案すれば、今回の京葉線のダイヤ改正は決して、千葉市長が言うような「受け入れ難いほどの急激で唐突で極端な内容」ではないようにも思えてきます。
ではなぜ、JR東日本側はあえて10年前と同じ理由をダイヤ改正の理由として口にしたのでしょうか。
公的インフラを民間が担うということ
ここからはまったくの推測になりますが…
「少子高齢化や移動手段の多様化等による鉄道移動ニーズの減少という経営環境の変化がコロナ禍を経て急激なスピードで到来した結果、成長に向けた投資だけではなくその原資となるフリーキャッシュフローの創出にも一層努めなければならないのが現状である。このため、運航効率化の観点から京葉線の快速を減便する」――JR東日本も今回、このようにストレートに言えれば楽だったのかもしれません。
ですがそう言わなかったところに「公的インフラ」を「民間事業者として」担っているJR東日本の立場の難しさがあるように感じました。
地域住民が利用し、自治体を通っている路線であり、民間事業者(しかも上場企業)である以上、ステークホルダーとは良好な関係を保ち続けなければなりません。そのためには、あくまでダイヤ改正は利便性向上のためであると言い張ることが上策となるのでしょう(実際、各駅停車しか止まらない駅の利用者にとっては間違いなく利便性が向上することですし)。
ただ、今後サステナビリティの観点からも鉄道の重要性が今後一層増していくことを考えれば、公的インフラを民間が担っているという形はどこかで変えて行かなければならなくなるのかもしれません。
海外の事例なども見つつ、今後、さらに学んでみたいと思います。
以上、サステナビリティ分野のnote更新1000日連続への挑戦・82日目(Day82) でした。それではまた明日。