
安納芋から紅はるかに原点回帰
さつまいもは昔からあった。ただ、気付かぬ間に昔の味はゆっくりと変化していた。その変化は長い時間をかけて徐々に変化してきたが故に意識的に知覚されることもなく、自分の中にすっかり馴染んでいた。
今“さつまいも”と言えば「安納芋」が一世を風靡している感がある。蜜芋の中でも糖度が高い上にねっとりとした食感が合わさって、これでもかと蜜を主張する。これほどまで明確に、分かりやすい魅力をマーケットが無視するわけもなく、世間は安納芋で溢れている。
安納芋を使用していること自体が焼き芋の付加価値になり、更にはそれが美味しい焼き芋の条件になりつつある。お芋スイーツの売り文句にも頻出で、秋になれば「安納芋」の3文字を見ないことはない気がする。自分もお気に入りの安納芋スイーツがあるし、世間がそう望んでいるからこそ市場が安納芋一色に染められている。
↓↓↓私のお気に入り安納芋もなかアイス↓↓↓
そんな街から少し離れた奥多摩に焼き芋トラックがやってきた(かなり御無沙汰していた)。おじさんが運んできたのは「紅はるか」。茨城県で生まれた品種だが、わざわざ茨城の畑まで直接行って買い付けているそう。「市場に行ったら美味しい芋が選べない」とおじさん。石焼きの熱以上にこもるおじさんの熱意。冬の寒空に立つ煙突から浮き上がる陽炎を眺めながら、芋が焼き上がるのを待つ。
焼き芋が手渡される。袋の中から染み出る温かみが手のひらを解凍する。切り口は白っぽく、安納芋のような見た目の華やかさはない。でもこの切り口から懐かしいものを思い出すような気がする。
安納芋より水分量抑え目でテクスチャーが感じられ、ほくほくとした食感が昔の記憶を完全に呼び戻した。ねっとりとした強い甘さではなく、食べ続けたくなる優しい甘さ。次の一口を邪魔しない、ぱっと開いてさっと閉じる潔い甘さ。これが昔よく食べていた、安心する甘さ。焼き芋トラックはただのさつまいも以上のものを運んでいた。
今は昔より美味しいもので溢れているが、それでも慣れ親しんだ"あの味"に勝る感動はないと思わされた日だった。
ーーーーーーーーーー
紅はるかの産地・茨城県はひたちなか市にあるほしいも専門店。購入の際は是非"丸干し"をおすすめしたい。水分を抜いて甘みを集中させる干し芋はねっとりした食感も味わいたい。そのための厚みを丸干しは持っている。