鈴木捧

怪談作家。単著に『実話怪談 花筐』、『実話怪談 蜃気楼』、『現代奇譚集 エニグマをひら…

鈴木捧

怪談作家。単著に『実話怪談 花筐』、『実話怪談 蜃気楼』、『現代奇譚集 エニグマをひらいて』。編著『null-geist』、『para-ghost』。寄稿に『山海の怖い話』、『怪談四十九夜 病蛍』など。趣味は山登り、巨木巡り、鍾乳洞等の自然観察。

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  • 2021年 良かったもの

    2021年に良かった映画・マンガ・本について書いています

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  • 旧ブログ再掲 音楽感想 怪物たちのために

    Jポップから実験音楽まで、というか大抵そのふたつのジャンルの音楽の感想を書いています 以前に書いていたブログの記事の再掲シリーズです

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    2019年の良かった映画・マンガ・本・音楽について

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競作怪談/奇譚集『null-geist』『para-ghost』刊行告知+試し読み各三話

電子書籍版: ペーパーバック(紙書籍)版: https://www.amazon.co.jp/para-ghost-%E9%88%B4%E6%9C%A8%E6%8D%A7/dp/B0DD7XXQ59/ref=tmm_pap_swatch_0?_encoding=UTF8&qid=&sr= 8月25日、三名の書き手による競作怪談/奇譚集、『null-geist』、『para-ghost』を二冊同時刊行する。 価格はそれぞれ電子版1,200円、ペーパーバック(紙書籍)版1,

    • テーブルトーク怪談ゲーム 怪談叙景

      ゲーム概要 先日、演劇集団カハタレさんにお呼ばれして、ワークショップを行った。 私としては講義形式の一人語りでやりきる自信がまったくなかったので、ゲーム形式の実践ワークショップをすることにした。 結果は、私が事前に考えていた飛距離を遥かに超えて面白いものになった。 ワークショップ概要 当日の様子 本記事は、今回設定したゲームを誰でも遊ぶことができるようにと記した手引き書である。 参加者に配布したレジュメも一応公開しておくが、私が解説しながら使ったものなので単体で

      • 不在霊と遍在霊、バーチャルシンガーと存在価値

        二冊の新刊の商品説明に、以上のように書いた。 ここに三つの「在」を組み込んである。「不在」、「遍在」、そして「存在」がそれである。 不在は、いないということ。 遍在は、遍く(あらゆる場所に)いるということ。 では、存在とは何だろうか? 三つの「在」の関係を、私は以下のように捉えている。 まず、帯状に切った紙片を想像してもらう。その両端にそれぞれ、「不在」、「遍在」と書き込む。それから中心に「存在」と書き込む。 不在と遍在は対極にある。その中心に存在がある。 最後に帯の端と端

        • フルーツサンド

           葬式を調理係でエアプする夢を見た。つまりは、あー、そういうことだ。その中であたしは焼香の列に並んでいた。遺影の中で先生は微笑んでいる。前に並んでいた教頭が妙に緩慢な動きで横にハケる。と、そこで広告が挟まった。「五秒後に報酬を獲得できます!」と左上に表記してある。広告を視聴しないと故人には会えないらしかった。なんだよ。それってなんだよ。もう諦めるしかないのかよ。  悔しかった。ふざけんな、くそっ。  空が矩形すぎてキレている。色はどうでもよかった。でも廊下は白かった。ガード

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          モンテネグロのノスリ

          「マエストロはどうした?」 「珍しく少し遅れるらしい。おれがここで待ってるから、余所で遊んでても平気だぞ」 「それまで野良でやってても良いしな」 「そうか」とそれだけ言って、ダイゴはどこかに消える。図体のでかいアバターが緑の文字列に分解される演出のあと、きらきらと光る同色の光点が周囲に散った。それを払うようにガチャは拳銃とナイフを振り回す。小柄なアバターがくるくると舞う。単なる悪ふざけだ。 「薄情な野郎だな、<運命くん>は」  ガチャが言う。 「お喋り好きってタイプでもないだ

          モンテネグロのノスリ

          夢の話 - ゲームオーバー

          「他人の夢の話ほどつまらないものはない」などとよく言われる。 こういう言葉の存在は私にとって迷惑以外の何物でもない。 誰もが、夢の話など他人に話すものではない、という規範を内面化してしまう。 人から見た夢の話を引き出すためのハードルがひとつ増えることになる。 私は、見た夢の話を人から聴くのが好きだ。 こんな夢を見たという話を聴いた。    *  *  *  中学生のときに見た夢で、未だによく憶えてるのがあるんです。 私が中学生のときって、ちょうどロクヨン……、あ、分かり

          夢の話 - ゲームオーバー

          夢の話 - 彼女

          「他人の夢の話ほどつまらないものはない」などとよく言われる。 こういう言葉の存在は私にとって迷惑以外の何物でもない。 誰もが、夢の話など他人に話すものではない、という規範を内面化してしまう。 人から見た夢の話を引き出すためのハードルがひとつ増えることになる。 私は、見た夢の話を人から聴くのが好きだ。 こんな夢を見たという話を聴いた。   *  *  *    夢といえばね、めちゃくちゃ変なんだけど、こういう夢見たのよ。 いやね、別れ話してんのよ。それが。いきなり別れ話して

          夢の話 - 彼女

          夢の話 - 白いワゴン

          「他人の夢の話ほどつまらないものはない」などとよく言われる。 こういう言葉の存在は私にとって迷惑以外の何物でもない。 誰もが、夢の話など他人に話すものではない、という規範を内面化してしまう。 人から見た夢の話を引き出すためのハードルがひとつ増えることになる。 私は、見た夢の話を人から聴くのが好きだ。 こんな夢を見たという話を聴いた。   *  *  *    見た夢でですか。見た夢。 そだなあ、めちゃくちゃ憶えてるやつがひとつあって。 あのですね、白いワゴンに乗せられて

          夢の話 - 白いワゴン

          2023年 良かったマンガ五作、その他

          今年は、6月に自主で本を出した。12月にペーパーバック版も出した。 ひとつの区切りになるような作品を作れたという自負がある。 多くの人に読んでもらいたいと思っている。 今年もそこそこ本を読んだり映画を見たりもしたが、その中で特に、マンガに関してはちょっと感想を書いておきたいと思うものが多かった。 なのでそのあたりのことを中心に、少し書く。 以下、今年始まったものの中で良かったマンガ五作。 『かわいすぎる人よ!』綿野マイコ 中一の少女・メイちゃんは小説家の叔父さんに引き取

          2023年 良かったマンガ五作、その他

          KANの普遍的な四枚と五曲

          ポップミュージックの、ことアレンジというものは、いつもある時代の縁をなぞるものであって、悲しいかな例外なく古びていく。有り体に言えば、ダサくなっていく。 KANもその例に漏れず、というところがある。その仕事に比してほとんど素朴だと言えるくらい混じり気のないポップソング職人──言い換えれば、一生いい曲書くマン──なので、どのアルバムを聴いてもすごく時代的だなと思う。 そんなKANの音楽だが、ディスコグラフィーを辿ってみると例外的に「普遍的」だといえるアルバムが四枚見つかる。

          KANの普遍的な四枚と五曲

          蛙坂須美 『怪談六道 ねむり地獄』、隙間の夢

          トバリさんは、今から二十余年も前、思春期の頃、奇妙な特技を持っていた。それは一言でいえば、朝の起床時、二回目覚めることができる、というものだ。 いつでもできるわけではなくて、できそうなときには夢の中でそれと分かるらしい。そういうとき、夢の中で「これは夢だ」と認識できる、いわゆる明晰夢の状態になる。そうして目覚めようとするときにその感覚が「来る」。そのタイミングで、細い糸を掴むように意識を一点に向ける。 その先はいつも同じだ。目を覚ますと、なんとなく体全体に浮遊感がある。つむじ

          蛙坂須美 『怪談六道 ねむり地獄』、隙間の夢

          壊れた楽器について

          うちに壊れたアコースティックベースギターがある。 ベースギターには一般的に四本の弦があって、そのうちの一番太いものをE弦、あるいは単に四弦と呼ぶ。これを楽器上に張るための部品、ナットというのが不調の場所になる。このアコースティックベースギターは、ナットの四弦部分が摩耗しすぎていて、チューニングがまともに合わない。合わせたとしても、弾くたびに簡単にずれていく。 私はこの楽器をたまに弾く。音はちゃんと出るし、その音色も気に入っている。 壊れている、というのは客観的に、というか一般

          壊れた楽器について

          流れ星を拾う方法。 『瑠璃の宝石』 渋谷圭一郎

          流れ星、つまり隕石は、拾うことができる。 こう言うと、場所がきわめて限定されているのだろうとか、何十年に一度だけなんだろうとか、そもそも技術や設備や資金が膨大に必要なんだろうとか返されそうだ。 でも、そうではない。 流れ星は、いま、ここで、あなたにも拾うことができる。 隕石、という言葉からはイメージしにくいが、実際にはそのほとんどは直径0.2~0.4ミリメートルほどの「微小隕石」である。じつはこれらは頻繁に地表に降り注いでいる。 その頻度は具体的には、0.1ミリのサイズであ

          流れ星を拾う方法。 『瑠璃の宝石』 渋谷圭一郎

          単著第三作『現代奇譚集 エニグマをひらいて』刊行告知+試し読み四話

          現代奇譚集 エニグマをひらいて電子版 ペーパーバック版 Amazon Kindleストアにて、単著第三作、『現代奇譚集 エニグマをひらいて』を刊行する。 私の聴き集めた「奇妙な体験談」をまとめたもので、収録話数は全41話+α。分量は一般的な文庫換算(頁40文字×16行)で約300頁となる。6月1日発売。価格は、電子版1,000円。ペーパーバック(紙書籍)版2,090円。 本書は、新しい読者に向けて実話怪談という世界をひらくこと、従来の読者に向けて実話怪談と出会いなおす機会

          単著第三作『現代奇譚集 エニグマをひらいて』刊行告知+試し読み四話

          創作怪談 ツチノコビーム

          昼の日の高い時間なのだろう。明暗の差にカメラが対応しきれないのか、たまに映像が真っ白になる。背の低い雑草が生い茂った地面が流れていく。時折画面の下端にスニーカーの爪先が映る。画面が大きく横に振れると、密集した笹のような植物とそれを静かにかき分ける手が見えた。撮影者は雑木林の藪の中を進んでいるようだった。 「おったおったおったおった」 ぼそぼそと呟くような声が入ってくる。 撮影者は立ち止まったようで、映像が安定する。カメラが地面のある一点にフォーカスした。撮影者の立ち位置から数

          創作怪談 ツチノコビーム

          2022年 良かったマンガ

          今年特に良かったマンガ作品。 例年の通り、今年始まったか終わったものの中から選んでいる。が、一作品だけ例外として選んだ。 『霧尾ファンクラブ』 地球のお魚ぽんちゃん 出たばかりのものからひとつ。 女子高生の三好さんと染谷さんは、クラスメイトの霧尾くんのファンだ。 それはまさにファンというべき距離感であって、積極的にアプローチしたりすることはない。ただ遠巻きに見守る、しかしその見守りの方向性はおかしく、また、なんというかとても濃い。 シュールギャグなのだが、その笑いのセンスが

          2022年 良かったマンガ