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テーブルトーク怪談ゲーム 怪談叙景



ゲーム概要

先日、演劇集団カハタレさんにお呼ばれして、ワークショップを行った。
私としては講義形式の一人語りでやりきる自信がまったくなかったので、ゲーム形式の実践ワークショップをすることにした。
結果は、私が事前に考えていた飛距離を遥かに超えて面白いものになった。

ワークショップ概要

当日の様子



本記事は、今回設定したゲームを誰でも遊ぶことができるようにと記した手引き書である。

参加者に配布したレジュメも一応公開しておくが、私が解説しながら使ったものなので単体では役に立たないかもしれない。ゲームに直接関係のある内容ではないし、ゲームマスターだけが軽く目を通しておけばいいだろう。
ゲームマスターといえば一点、本ゲームは参加者に全体像が伏せられている状態で始まることが望ましい。これは、ゴールから逆算したようなプレイングを防ぐためである。ゲームの全体像はゲームマスターだけが把握していて、進行に従って都度プレイヤーに対して案内していくような形が良いだろう(つまり、この記事はゲームマスターだけに向けたものになっている)。
とここまでが前説で、ここから本格的にゲームの手引きに入っていく。

ゲームといっても勝敗はない。
ゲームの内容は、簡単に言うとこうである。
プレイヤーにはそれぞれ五枚の写真が配られる。
プレイヤーはその中から三枚の写真を選び、これを手札とする。
プレイヤーは車座になって座り、写真をもとに順に話をしていく。
これを三周分繰り返す。

用意するもの

プレイヤーごとに五枚の写真が配られる。写真セットは全員分、別々のものを用意する。

参加者人数×五枚の風景写真
封筒に入れて用意する。
他に必要なものはないが、強いていえば各プレイヤーに筆記用具の準備があるとプレイしやすいと思われる。

*ここで用意する風景写真について少し触れておく。
風景写真の準備の仕方はいろいろ考えられる。ゲームマスターがすべて用意するのもいいし、プレイヤーから集めるのもいい。
今回に関しては、参加者十名のため、ゲームマスターが用意した四十枚にプレイヤーから各一枚提出された計十枚を混ぜる方法を取った。
理由は、用いる写真にある程度方向性を持たせることでゲームをコントロールするため。さらに、プレイヤーに極力事前情報を与えないためである。
これらの点については、以下ゲームの流れについて説明するに従い理解できるものと思う。
次にもう一点。
各プレイヤーに配られる五枚の写真、いわば山札を、どのように組むか。これもいろいろと方法が考えられる。
まずは、完全ランダム。シャッフルで混ぜた束の中から順にとっていくような方法。これはゲームの予測がつきにくく、そこに面白さが生まれそうだが、反面、強い=語りやすい写真が偏って集中するような事態が考えらえっる。
他に、ドラフト形式。つまり、オープンにした束から各プレイヤーが順に自分の欲しい写真を取っていく方法。これは偏りが生まれにくい反面、プレイヤーの戦略が露骨に反映され過ぎるきらいがある。先の見通しがつく状態というのは、このゲームにとって望ましい状況とはいえない。
今回とったのは、ゲームマスターのほうで写真を振り分ける方式である。これなら偏りが生まれず、プレイヤーに対しても情報がマスクされた状態でゲームを始めることができる。基本的にはこの方法が良いと思われるが、あえて前二案を用いることもゲームに新鮮な面白さをもたらすだろう。
ゲームマスターが振り分ける際の写真の組み合わせのコツとしては、写真を簡単に分類したうえでバランスよく集めることである。
たとえば、
ランドマーク=トンネル、廃墟、寺社等のわかりやすい被写体を持つ写真
パス=道や住宅街など、いわば色のない被写体を持つ写真
他にも、自然寄りか都市寄りか、といった方向性の分け方もある。

以下、実際のゲームの流れに入っていく。
写真は封筒に入った状態で配られ、各プレイヤーはその中から三枚を選び手札とする。
ゲームは話が三巡することで成り立つが、この一巡をターンと呼ぶことにする。
ターン1では各プレイヤーは手札を他プレイヤーに伏せた状態にする。

ターン1

ゲームマスターより、このターンに行うことをプレイヤーたちに説明する。
プレイヤーがすることは、手札の三枚の写真からひとつのエリアを想像し、それを他プレイヤーに対して口頭で説明することである。
その際に重視されるのは、それぞれの写真と写真の間、いわば行間を埋めること。三枚の写真の風景が収まったひとつのエリアを作り上げる必要がある。
他に留意すべきことは、エリアの来歴、歴史のような、いわば「縦軸の場所性」についてはこの時点で考える必要がないということである。考える必要があるのは、エリアの物理的、地理的な特性、位置関係といった地図的なもの、いわば「平面の場所性」になる。
プレイヤーは順に話をしていくことになるが、このときの順番の決め方は何でもよい。時計回りのような単純な方法でも、挙手性でも構わない。もしゲームマスターもプレイヤーの一人として参加するのであれば、初手でゲームマスターが話をするのがいちばん分かりやすいだろう。
シンキングタイムは、ゲームマスターからの説明ののち10分ほどとるのがよい。

ここではひとつの例として、以下の写真を用いて実際のプレイを再現してみる。

この場所は、山の中を走る林道です。
入り口付近は草木が深く生い茂っており、舗装は荒れ果てて落石や倒木もあります。車では入れそうもなく、車両通行止めになっていますが、徒歩や自転車では入ることができます。
一車線の狭い山道を登っていくと、トンネルがあります。
岩壁をくり抜いて作られた直線のトンネルで、内部には照明がありません。
トンネルを通りすぎると、林道から脇にそれて森の中に入っていく狭い道があります。その先はちょっとした広場になっており、打ち棄てられたような廃神社が眠るようにひっそりと建っています。
廃神社の前には二体の狛犬が向き合って立っています。


ターン2

ターン1ですべてのプレイヤーが話をし終わったら、ターン2に進行する。
この時点で各プレイヤーは手札を他プレイヤーに対して公開する。以降は写真を用い、被写体を指差すなどして説明に用いることができる。
ターン2の開始時に、ゲームマスターは口上を述べる。要旨が掴めていれば具体的な内容は何でも構わないが、例として以下のような形。

皆さん、お話いただきありがとうございました。
さて、皆さんには、自身が撮影した写真から記憶を辿り、話をしてもらいました。ところで皆さんは、その写真に写った場所で過去に起きたことについてよく知っていますよね?
その場所で過去に起きた凄惨な事件や事故について、よく知っていますよね?
皆さんはたまたまその事件や事故について知り、下卑た野次馬根性からその現場を直接見たいと考え、実際に訪れて写真を撮影したのでしたね?
続くターンでしていただくことは、それらの事件や事故について、言葉で説明してもらうことです。
これからシンキングタイムを10分とります。そののちに、順に話をしていただきます。

上に述べた通り、各プレイヤーは順に「自身の持ち場所で起きた事件・事故」について写真を用いながら説明する。

先ほど例として使った三枚の写真をここでも使い、実際にプレイを行ってみる。

先ほど、車両通行のできない狭い山道とトンネル、その先の脇道の廃神社についてお話しました。
ここの林道なんですが、車両が入れないために、逆に近所の子供なんかがちょっとした冒険気分で入っていってしまうんですよね。
それである時に……夏の初めだったそうですが……、三人の子供がここに遊びに行ったらしいんです。お母さんに「山の方に行ってくる」と告げて、友達同士で。ところが、それが夕方になって、陽が沈んだあとも帰ってこない。
親御さんが警察に通報して、捜索が始まったそうです。翌日、明るくなってから本格的な捜索になり、三人の自転車はすぐ見つかったみたいです。廃神社に入る脇道の前に乗り捨てられるような形だったとか。
で、神社を調べようとなるわけですが、神社の脇にちょっとした物置があったんですよね。退色した白の、土壁か石膏か、そんな造りの小さな物置です。
南京錠がかかっていたそうなんですが、警察の方でカギを壊して中を見ると……三つのリュックサックが置いてあったそうです。親御さんに確認して、それは失踪した子供のもので間違いない、となったようなんですが……。結局それ以降捜索が進展することはなく、子供たちの行方は分からないままだそうです。
それで私、実際にここを訪れてみたんですが、ひとつ妙なことがあったんです。
写真では見切れてしまってますが、神社の脇に掲示板があるんです。木製の枠に、アクリルのパネルで町内会の案内なんかが留められているような……昔はよく住宅街なんかで見られたものですね。
そこに、貼り紙が貼られていたのが目に入ったんです。
「あそぶな危険」
大きくそう書かれたボロボロの貼り紙です。
それからその横に、三枚のハガキ大の紙が貼られていたんです。
真っ白な紙に見えたんですが、よく見ると違うんですよね。
もう日焼けと退色でほとんど分からないんですが、それ、人の胸から上を写した写真だったんです。輪郭だけが浮かび上がるような形で、辛うじて人が写っていると分かる。
そのぼんやりした輪郭の中で、両の瞳の黒色だけがはっきりと残っていたんです。
三枚並んでいるので、もしかしたら行方不明になった子供たちと関係があるのか? ご家族の方が情報を求めて貼っているとか?
いずれにせよもうほとんど写っているものが確認できないような写真で、その用はなさないと思いますが。


ターン3

最終ターンとなる。
基本的にはターン2と流れは同じで、ただ説明する内容が異なる。
ゲームマスターの口上、例として以下。

それぞれに訪れた場所について、そこであった事件や事故についてのお話をして頂きました。さて、次が最終ターンになります。
皆さんはそれぞれに事故や事件の現場を訪れました。
せっかく来たのでということで、そこで出会った地元の人に話を聞きましたよね? あるいはその場所に関係のある人から、話を聞きましたよね?
事件当時、何かおかしなことや、普段と変わったことはなかったかと尋ねましたよね?
その中で幸いにも、あなたの好奇心を満たすような奇妙な話を聞くことができましたよね?
今回して頂きたいのは、その話です。
これからシンキングタイムを15分とります。そののちに、順に話をしていただきます。

この時点でプレイしている場を消灯などすると雰囲気が出て良いかもしれない。
流れとしてはターン2と同じで、上記の通り、各プレイヤーには場所に関する怪談話を語ってもらうことになる。

引き続き、上で挙げた三枚の写真を用い実際のプレイを以下に再現する。

さきほど、三人の子供が行方不明になった廃神社の話をしました。
実は、知り合いにこうした事件・事故現場を好きで回っている奴がいまして、そいつもここに行ったらしいんです。そのときの話を聞きましたので、ここでさせていただきます。
そいつがここを訪れたのは秋頃で、時間は十五時すぎ、山の中だからもう薄暗くなり始めているような時間ですね。林道の入り口まで車で乗り付けて、そこから折り畳み自転車を出して廃神社に向かったそうです。
件の神社に向かう途中にあるトンネルの中で奇妙な音を聞いたそうなんです。それが、犬の遠吠えのような音。オオオオオン、オオオオオン、っていうような、低くてあとをひくような。まあ、古いトンネルなので、何かが反響してこういう音を作り出してるのかな、と思ったそうですが。トンネルの中は妙にじめっと湿度がある感じで、空気も妙なところがあって、不気味なのですぐに通り過ぎたそうです。
で、件の神社に辿り着いた。神社は静かで、ひっそりと自然に還りつつあるような雰囲気がある。建物も微妙に傾いでいて、手入れのような手入れもされていないように見える。確かに気味の悪い場所だとは思ったそうですが、それだけです。特になにもなかった、とそいつは言うんです。
帰りもトンネルではあの遠吠えのような音がしたそうなんですが、もう聞かないようにして山を下りたとのことです。

とそこまで聞いて、私、つい訊いてしまったんですよね。それだけじゃないでしょ、と。他になんかなかったの? と。
そこであの注意書きと写真が貼ってあった掲示板のことを思い出して、訊いたんですよね。そしたら、そんなものあったかな? と。
私、場所を説明するために写真を出して改めて訊きました。見切れちゃってるけど、このへんに掲示板が……と。
そしたらそいつ、言ったんですよね。
え、これ、写真合ってる? 場所違くない? 確かに神社の雰囲気はこんな感じだったけど……狛犬、こんなじゃなかったわ。こういう、よくあるシーサーみたいな狛犬じゃなくてさ、ドーベルマンみたいな細身のシュッとした狛犬だったよ。そんで、頭が人間の頭だったんだよ。人面犬みたいなさ。マジで気味悪かったから、よく憶えてる。その狛犬の顔見たら、ダルマに目入れるみたいにさ、目のとこだけ塗ってあったんだよな。

……それから、携帯の中に写真が入ってるはず、と言って探してくれたんですが、結局見つからなくて。林道の入り口とかトンネルの写真はあったんですけど、神社の写真だけが、抜け落ちてるみたいになかったんですよね。

全員の話が終わった時点で、ゲームは終了となる。
はじめに書いた通り、このゲームに勝敗はない。
終了後には意見交換を勧めたい。
それぞれのプレイヤーが風景と物語の関係をどう捉えたか?
他のプレイヤーの話の中で印象深かった箇所は?
自分では思いつかないような語りの切り口はあっただろうか?
……などなど。
最上部に貼ってあるレジュメに、いくつかの論点を準備してある。
ゲームマスターは、あらかじめ意見交換の題材を少し用意しておくといいだろう。
このゲームはもともとメモをとりながら遊ぶほうが遊びやすいが、それを推し進めて完全にテキストベースで遊ぶこともできる。「語る」を「書く」に置き換えるだけである。創作怪談による怪談会のような形を想定したゲームだが、テキストで遊ぶときにはまた違った形になるだろう。


付録

以下に、私が撮影し実際にゲームで使用した写真を幾つかアップロードしておく。これらの写真は、今回紹介したゲーム「怪談叙景」での使用という目的に限り、自由に利用することができる。

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