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[ホラー小説]旧校舎の幽霊(2341文字)

僕はとある中学校に通っていた。そこは何年か前に校舎を移転して、旧校舎は今もなお残っている。

「うぐっ…! かぁ…ぐはっ!」

僕は今、人生最大のピンチを迎えていた。朝は普通に授業を受けていたのだが、2時間目ぐらいお腹が痛くなってきた。

「うぐっ…! 昨日食べすぎたのかな?」

トイレに行くことにした。すると何人かトイレでオシッコをしている人がいた。

「こ、こんな時に限ってクソォー!」
「なんだあいつ?」

この状況で男子がトイレの個室に堂々と入るというのはかなり勇気のいることだった。 
 もしここで個室に入ろうものなら、みんなからは「うんこマン」というあだ名を付けられるかもしれない。
 そう思うとなかなかトイレの個室には入れなかった。

「よし、あそこなら!?」

そこで自分は今では使われていない旧校舎の存在を思い出して、わざわざ少し離れた旧校舎に用を足しに行くことにした。
 休み時間は10分ぐらいしかないのでダッシュで旧校舎へと行った。

「うぅ…なんか汚い校舎だな…。早く済ませて教室に戻ろう!」

旧校舎に着いて中へ入ってみると、誰もいなくて電気もついていなかった。
 昼間にも関わらず妙な気味の悪さがあった。
 だかしかし、何を思ったのか自分は同級生にどうしても個室に入っているのがバレたくなくて、念を押して旧校舎の入り口から1番遠いトイレに行くことにした。

「よし、ここまで来れば誰も来ないよな」

1番遠くのトイレに着いたので早速個室に入って用を足すことにした。
 「ふぅ…」と息を吐いた。かなり我慢していたからか、ものすごく大量に出てスッキリした。

「よし、教室に戻ろう!」

ドアを開けようとしたら個室の外に誰かの気配を感じた。

「あれ…!? 何でこんなところにわざわざ人が来るんだ…!?」

わざわざ1番遠くのトイレを選んだのに人がいるなんて正直最悪だと思った。
 何分経っただろうか、いくら待ってもその気配は消えなかった。
 クソッ!早くここから出ないと授業に遅れちまうじゃないか…!と内心かなり焦っていた。
 そう思った矢先に外のトイレから人の気配が消えた。

「よし、今だ!」と思ってトイレを勢い良く飛び出して走って教室へ戻ることにした。
 だかしかし、何か後ろから引っ張られるような感じがしてなかなか走っても走っても前には進まなかった。

「なんで?」

そして後ろから「ズボボボボッ!」という謎の声がする。
 僕はゆっくりと後ろを振り向いた。

「うわああああ!」

そこには、髪の長い女が凄い形相で辺りの空気ごと口で吸引して僕を吸い込もうとしていた。
 それを見た瞬間に背筋が凍るような感覚を覚えた。

「うわああああ!」
「ズボボボボ!」

僕は怖くてひたすら前に走った。すると走っても走っても前に進まなかったのが、少しずつ確実に前へ進んでいて女との距離が離れていった。

これなら逃げ切れる!と思った時だった。床がツルツルしていている箇所があり、僕はこけてしまった。

「グハッ!」
「ズボボボボ!」

こけた時に頭を強く打って気を失いかけた。
 僕と吸引する女との距離はどんどん縮まっていく。
 だが、ここで気を失ったら本当に危ない気がしてすぐに立ち上がって無我夢中で前へ走った。
 今まででこんな全力で走ったことが無いんじゃないかというぐらいに全力で走った。
 多分その瞬間だけは陸上部のエースよりも速く走れていたんじゃないかと思う。

「うわああああ!」
「ズボボボボ! ズボッ! ズボッ!」

旧校舎の廊下の角を曲がった時に吸引する女の直線上から外れたので、前に進めるようになった。
 僕は泣きながら後ろを振り向かずにひたすら前へ前へと走って旧校舎から出た。
 旧校舎に出た瞬間に大の字になって汗をダラダラとかいていた。
 さすがにもう動けないやと思っていたのだが、ガラス越しに女が吸引しながら旧校舎の廊下を歩いてやって来るのが見えた。

外だとしてまた女の直線上に入ったら今度こそ捕まる…!
 疲れでパンパンに張った足にムチ打って無理矢理校舎に向かって走った。

「はぁ…はぁ…」
「お、お前どうしたんだよ? ずいぶん帰ってくるのが遅かったな。もしかしてうんこか? ガハハ!」
「………」

教室に着いた後はガタガタと震えながらその日の授業をすべて受けた。
 授業中にあの女が来ることは無かった。

「はぁ…。今日は散々だったな。帰るか」
「もう帰るのか? なら一緒に帰ろうぜ」
「ああ、分かったよ」

友達と一緒に帰ることにした。

「そういえばお前なんで今日は上履き履いてないんだ?」
「え? そんなはずは」

冷静になって足元を見ると上履きが2つともどこかで脱げて無くなっていた。
 逃げてる途中でやつに上履きを吸われたのだろうか。
 あんな怖い思いをしたので、さすがにもう旧校舎に行って上履きを探す勇気はなかった。

「そ、そんなことよりもあの旧校舎はヤバイ幽霊が出るんだよ」
「お前何言ってんの? 旧校舎ってとっくの昔に取り壊されてるじゃん」
「え?」

外に出て友達と旧校舎を見に行ってみると本当に旧校舎は無くなっていたのだった。

「ほら、旧校舎なんて無いだろ?」
「え、どうして…」

かなり前から今日まで旧校舎は確実にあったのにどうして突然なくなったのだろうか?
 僕は何か長い間悪い夢でも見ていたのだろか? そう思えてきた。
 だけど、僕の上履きはキレイに2つとも無くなっている。
 そして何よりも、あの時の恐怖は体にしっかりと刻みこまれている。
 それから、旧校舎は2度と姿を現すことは無かった。
 そして僕以外に今日まで旧校舎が取り残されていたのを誰も覚えていなかった。
 旧校舎とは一体なんだったんだろうか? それにもしあのまま女から逃げ切れていなかったら、僕はどうなっていたのだろうか?
 そのことを考えると今でもゾッとする。

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