「スタント」
天にも届きそうな高層ビルの屋上。僕はそこにいた。近くには監督とカメラがいて、撮影の段取りを再確認していた。スタントマンとして働いて数年。着々と実力は身についている気がする。
「アクション!」
監督の合図とともに僕は走り出した。ここで大事なのはビビったら負けという事だ。やることはシンプル。隣のビルに飛び移る事だ。隣のビルにはカメラマンとスタッフが待機している。
飛べ。臆すな。これまでやってきたことだ。驕らなければ問題ない。僕は飛んだ。下を見るな。怖がると態勢が崩れるし、筋肉も硬直する。隣のビルまであと少しだ。
その時、視界の端から何かがやってきた。鳥だった。突然の存在に驚いたと同時に鳥と頭がぶつかった。そして、態勢を崩して、本来なら捕まる部分に頭を打ちつけた。朦朧とする意識。駆け寄ってくるスタッフ。襲い来る気怠さに体をやられて、意識を手放した。
気がつくと別の場所にいた。白いベットとカーテン。病室ということが直感的に理解できた。手足が動かせているあたり、どうやらあのまま落下したわけではなさそうだ。きっと仲間達が助けてくれたのだ。
その後、駆けつけた医者から事情を聞いた。頭を強く打ちつけたが命に別状はないらしいので少し入院すれば復帰できるらしい。しかし、それ以上に僕の脳裏には恐怖があった。空中でのアクシデントがあまりも恐ろしかったからだ。本当に命を落とすところだった。
数週間後、僕は現場に復帰した。未だに恐怖はあるが、それでもスリルを求めるくらいにはこの仕事が好きだ。スタッフや監督は心配してくれたが僕は問題ないと返した。彼らにも迷惑をかけたのだ。今日は精一杯の仕事をしようと思う。
「アクション!」
監督の合図とともに僕は隣のビルに向かって、飛んだ。