「狼と蝶」

夕暮れの街並みを自転車で駆け抜けていた。後ろには彼女が黒髪を揺らしながら、俺にしがみついていた。蝶よ花よと持て囃されてきた彼女が悪戯を考える子供のような顔を作っている。 

「口元に怪我がある! また喧嘩したでしょ!」

「うるせえ!相手が弱いものいじめしてたから止めただけだ」
 俺は反論した後,前に向き直った。背中越しにから小さな笑い声が聞こえた。

 この時間が永遠に続けば良いのにと思った。しかし、時というのは無情にも過ぎていく。彼女の家は厳しいため、こうして過ごせる時間も限られている。本来は交際もダメらしいが、彼女曰く親には黙っているらしい。しばらく自転車を漕ぐと彼女の家の近くについた。真ん前で下ろすと彼女の親に見つかってしまう。

「それじゃあ学校でな?」

「うん! また明日!」
 彼女は俺に別れを告げると家の方に向き直った。家に振り返る際、彼女の目の色が薄くなったのが分かった。彼女はきっと家では心を殺しているのだ。いつか必ずそこから解き放ってみせる。俺の決意を祝福するように夕焼けが暖かく照らしてくれた。

 


いいなと思ったら応援しよう!