「濁った」
魚が静かに僕を見ていた。鮒だろうか? 分厚い唇をパクパクとしている。 いいなー お前は呑気でよ。俺は瓦礫に足が挟まって、なおかつ息だってろくに出来ない。最悪だ。
車で家路に向かっている時にまさか洪水に巻き込まれるなんて思いもしなかった。
終わるのか。視界が薄れていく。意識も途切れそうだ。看取ってくれるのが今日あったばかりの魚とはなんとも悲しい終わり方だな。
完全に意識が途切れそうな時,突然,何かが体を掴む感覚がした。そして、水底から一気に引き上げられた。
「一人発見しました! 急いで!」
「大丈夫ですか! もう大丈夫ですからね!」
おぼろげな視界が肺に酸素が入った事で一気にはっきりしていく。
そこには男性二人がいた。僕は彼らに助けられたのだ。
ふと川に視線を向けると一匹の魚がこちらを見ていた。
またな。僕は心の中で言うと,魚は汲み取ったのか。そのまま川の中に消えた。