「おばちゃん」

 行きつけだった駄菓子屋のおばちゃんが亡くなった。かなりの年だったという事もあり、すんなりと受け入れられた。寡黙な性格で一人、レジでタバコを蒸していた。見た感じ親しい人もいなくて、一人で黙々とレジとタバコで時間を潰しているように見えた。中学生の時、友達とノリでタバコを買おうとした。

「お前にはまだ早いよ」
 おばちゃんは鼻で笑って、俺の手からタバコを掻っ払ってまたタバコを吸った。

 昔の思い出に浸っていると、電話がかかってきた。友人からだった。呼ばれた場所に来てみるとそこは喫煙所だった。
「よお、吸ったら飯行こうぜ」
 俺が応えると友達がタバコを一本、俺に差し出した。高校生になった俺の周りにはタバコをふかしている友人が多くいる。彼もその一人だ。
 
タバコに咥えて、火をつけようとした時、急に強い風が吹いた。タバコは風にさらわれて、どこかへと飛んでいった。風がタバコを飛ばす寸前、あのおばちゃんの声が聞こえた気がした。確かにまだ早かったな。

 

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