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拝啓。おじさん。眠れましたか?

朝の仕事に、前日のロトやナンバーズの抽選結果を表に書き記す仕事がある。

ふぅ〜ん。ロト6のキャリーオーバーなくなったんだ〜
日本のどこかで、3億8千万円当たった人がいるのかぁ…すごいですこと…

バカ暑いギラギラでムシムシな猛暑日の午後。
首にタオルを引っ掛けたおじさんが、仁王立ちで抽選結果を見ていた。
まだ居たの〜?
ま〜だ見てる!
いつまで見てんだ〜?
そんなに眺めちゃって、どーしたのかしら?

長居していたおじさんが目の前に来た。深〜いため息1つ。
『悔しい。俺、悔しいよーーー』
ときどき、素っ頓狂なことを言ってくるお客さんがいる。
そんなとき、店員の私が発する言葉は、だいたいが『はぁ…』
はぁ…としか言いようがない。知らない人のつぶやきに興味もないので、前のめりに、どーした?どーした?と聞く気にはならない。

なので第一声に『悔しいよー』と言われても、『はぁ…』
ここは一つ、『どうなさったんですか〜?』なんて言った方がいいのかもしれないけど、こんな感じの人は、こちらが聞かなくても、概ね勝手に喋り出す。
なんなら、『どーしたの?』って聞いてないんだから、話してくれなくてもいいんだよ〜くらいに思っている。(ちょっと意地悪かな?笑)

ずっとロト6を買い続けているおじさんは、うっかり、昨日買うのを忘れたそーな。
ぽた。
カウンターにおじさんの汗が落ちた。
おじさんは玉の汗をかいている。
首に巻いているタオルで拭っても、拭っても、すぐに玉汗が顔に湧いては、ぽた。
いつも買っている数字が、昨日の当選数字と同じだったと言う。

『ホントだよ!本当なんだよ!!俺ウソなんか言ってないんだから!』
おじさんが手帳を開いて見せてきた。
ぽた。ぽた。
そこにはびっしりと数字の羅列。
『ほら、ほら、な?同じだろ?同じだろ?当たってんだろ?』って言われても、当選数字なんて覚えていない私。
『はぁ…』
『な?な?バカだ〜俺は!なんで買うの忘れてんだよぉ…なんでだよぉ…』
ぽた。ぽた。ぽた。
おじさんの嘆きは続く。
『それは悔しいですよねぇ。眠れなくなっちゃいそうですよねぇ』
『悔しいよ、悔しい。眠れねーーよぉーー!寝れねーよ!!もーー、なんだよー!孫もいるのにさぁ、お、億万長者になってたかもなんだよ!眠れねーよーーー!眠れねーっつうの!』
ぽたぽたぽた……

おじさんが行ってしまって直ぐに、私は外に出た。ギラギラな陽を背中に浴びながら、ぽたぽたの後始末。カウンターを拭く。あっちぃ。
涼しい箱の中に逃げ込んで、おじさんよりも長〜く深いため息をついた。
早く冬にな〜れっ!

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