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星空を逃して ~守護の熱 第一話

 今夜も冷えるな。そろそろ、帰るか。もうすぐ、夜が明ける。

「今度、あったかい飲み物とかさ、毛布とか、持って来ようよ」
「そうだなあ、これから、冷えるもんな」
「これ、放置して、帰れないの?」
「カメラが倒れたり、盗まれたりしたら、終わりだからな」
「あああ、寒い、まぁや、ちょっと、ダメだ、もう、歯の根が合わない、ううう」

 北極星を中心とした、星の動きを撮影する。この位置がいいんだ。小高い山の中腹に当たる丘の上に当たるのと、天空を遮るものが、何一つない場所。俺は、ここを、星見の丘と呼んでいる。

「天文部とかでもないし、写真部でもないのにな」

「別に、嫌なら、帰ってもいいんだぞ。これまでも、一人で、撮ってたしな」
「えー、ここまで、付き合ったんだから、冷たいこと、言わないでよ、それに観たいし」
「苦労した甲斐と価値はある、あと少し」
「わかった・・・うー、さぶぅ・・・」

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 その明け方の帰り道、その星見の丘から戻る時、坂下に、唯一ある、自動販売機に寄って帰ろうと、羽奈賀と言っていた。寒かったから、あったかい缶のココアを買おうかと思って。

 丁度、道の分岐にある、その目的の自販機に向かおうと、丘からの坂道を、二人で一気に降りてきた所、羽奈賀が、足を止めた。

「まぁや、ちょっと、待って。あれ」

 一組の男女が抱き合っている。その目的の自販機の真ん前でだ。

「うわあ、ダメじゃん」
「買えねえじゃんか」

 そおっと、遠目に通り過ぎようとすると。その男女は、俺たちに気づいたらしく、背中を向けていた男が、振り返った。

「・・・あれ、多分、ヤバい。怖い人だよ」
「行こう、羽奈賀はねなが・・・」

 どう見ても、男の方は、堅気じゃない感じだった。去り際、振り向いてみると、男はまた、女の方を向いていた。その変わり、女の顔が、こちらを向いている。

 うっとりしたような瞳が、こちらを伺っていた。その時の眼差しが、絵のように、今でも、俺の脳裡に残っている。あの日の寒さと一緒に。

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 数日後の放課後、フィルムを現像に出そうと、残った数枚を消費する為に、また、羽奈賀と被写体を探して、山に向かった。

 途中、小高い所に、旅館が集まる集落があり、感じの良い、昔の時代からの、古い建物が多い場所がある。何気なくシャッターを切った。その時、背後から、ドスの利いた声がした。

「おい、にいちゃんら、何、無断で撮影しとる?」

 強面の、明らかに、ヤクザ風の男が、二人、近づいてきた。

「あ、ヤバいよ。まぁや、こいつら、あの旅館の・・・」
「え?何が、いけないんだ?建物と景色を撮っただけなんだけど・・・」
「逃げよう、まぁや、早く」
「おい、こら、ガキ、ちょっと、貸せ、それ」

 そういうと、その柄の悪い男たちは、俺たちを追いかけてきて、急に、俺のカメラを取り上げた。すかさず、中のフィルムを引き出した。せっかくの、天体写真が台無しになってしまった。更に、その後、男の一人が、俺のカメラを振り上げた。

「おい、待て、こら、お前ら」

 ゆっくりした口調で話しながら、もう一人、サングラスの仲間らしき男が現れた。カメラを振り上げていた男は、動きを止めた。そのお蔭で、カメラそのものは壊されずに済んだ。

「返してやれ。フィルムだけでいい」
「しかし、兄貴、こいつら、宿の写真を・・・」
「もう、いいだろう・・・」

 そう言いながら、俺のカメラを、サングラスの男が受け取り、俺に返してきた。

「すまなかったな。俺の舎弟が」

 そう言うと、その男はサングラスを外した。

 あ、あの時の・・・。彼は、自販機の前で女と抱き合っていた男だった。つい、じっと見てしまった。

「まあ、気をつけろよ。この辺で、カメラはご法度だ・・・んー?・・・兄ちゃんら、前にどっかで会ったことなかったかな?」
「・・・いいえ」
「・・・ああ、そうか。こないだ、明け方にな。まあ、夜遊びって、感じでもなかったようだが・・・」

 そう言われて、羽奈賀が、下を向いて、更に、首を横に振った。

「あー・・・そっか。解った。この地域は狭いからな。こっちの兄ちゃんは、辻さんの息子さんだろ?で、君は確か・・・」
「あ、すみません。失礼します。行こう、まぁや」
「あ、ああ、カメラ、ありがとうございました」
「行くよ。早く」
「う、うん・・・」

 羽奈賀は、俺の手を引いた。

「何?どういう、知り合い?なんで、俺のことも、知ってるんだ。あいつ」「あそこの中に、ヤクザがオーナーの宿屋があるんだ。唐原とうばる様が関係してる」
「ああ、ゼネコンのね。親父も、山中の土地を売ってほしい、と、しつこく言われてるらしくて。今の所、そんなつもりはないから、断り続けているんだけど」
「奴らの言うように、この地域、狭いから、要は、まぁやの顔も、知られてるんだ。大地主の息子として。僕も、父が会社を経営してる関係で、しかも、母がランサム人だから、覚えられてるらしくて・・・」
「ああ、そういうことか。唐原様は、全国展開してる、薹部開発の社長だろ?」
「そう。たまに、うちでも集まりをしてることもあるみたいで」
「うちの親父も、呼ばれていったことがあるけど、二度と行きたくない、って言ってたけど」
「・・・」

 寒い思いをして、羽奈賀にも付き合ってもらったのに、結局、フィルム一本をダメにしてしまった・・・。まあ、また、天体写真は撮れるだろうから・・・残念だったが。

 俺は、そう思いながら、羽奈賀と、その日は帰ることにした。

~つづく~


みとぎやの小説・ひとまず投稿⑤ 星空を逃して「守護の熱」第一話
読んで頂き、ありがとうございます。
「昭和の小さな田舎町」という背景のイメージ。
少し、時代的には、昔のお話です。
第二話は、こちらになります。引き続き、お楽しみください✨

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