新春🎍特別企画　竜ヶ崎幻想

「君の声」×「樋水の流布」キャラクター対談②

「竜ヶ崎幻想」

　先だって、亡くなった、歴史小説家　竜ヶ崎淳三郎を惜しみ、その半生をオムニバス形式で描く、劇場版の仕事が、萩しゅうに舞い込んできた。竜ヶ崎の妻、樋水流布との共同制作ということで、話題となる。

　萩は、いよいよ、竜ヶ崎の仕事場「竜舌庵」に缶詰となり、流布との共同脚本制作に入る。

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　作品名は、「竜ヶ崎幻想」。今夏、公開予定の企画段階である。出演者も未定。

　一作品四十分程度の、三つのオムニバス作品で紡がれる、劇場版作品である。

　冒頭は、彼の生前のインタビュー、作品のダイジェストが流れる、ドキュメンタリー風に竜ヶ崎の半生が綴られる。(これはチャンネル18の過去の資料映像、作品のドラマ、映画を中心に構成される予定)

　二本目は、竜ヶ崎リスペクトとして、彼の「剣客シリーズ」の現代版擦り直しバージョン。

　義理の息子で、竜ヶ崎門下出身の作家、武内ヤスユキが脚本を担当し、女流写真家の泥濘ぬかりあうんが、メガホンを取る。耽美派と言われる武内の脚本と、泥濘の色鮮やかな映像美による表現が期待される所である。放映当時、年配の男性ファンの多かった「剣客シリーズ」であったが、近年の歴女ブームで、女性人気も高まってきた所。かねてから、竜ヶ崎ファンであった泥濘が、武内脚本でと、一本釣りをしたという。

　そして、トリを飾るのが、羽奈賀萩・樋水流布共同脚本、その羽奈賀が、これまた、映画初監督を務めるという形である。羽奈賀といえば「二郎君のお仕事」や、深夜のラバーズシリーズ、そして、所属の「月城歌劇団ルナキャッスル」のお抱え作家で、もう一人の、知る人ぞ知る、竜ヶ崎の妻の樋水は、夫の最期の最愛の弟子でかつ、異端と言われた「女流官能小説家」という肩書を持つ。内容は、二人の手に委ねられているが、描かれるのは、竜ヶ崎と樋水本人のエピソードと言われている。

　この二組の制作陣に『♀♂饗宴しゆうきょうえん』のキャッチを銘打ち、チャンネル18の神崎英悟がプロデューサーとして、総指揮を取ることとなった。
　
　竜ヶ崎とは、その実、親子であるが、血の繋がりはない。しかし、その面差しが、若かりし頃の竜ヶ崎の感じと似ている武内と、泥濘は、派手なアップの写真入りのポスターが貼られる一方、顔出しNGの羽奈賀と、遺された妻の樋水は、わざと対抗で、文章のキャッチのみの宣伝素材を使っている。
　実力、人気は互角のそれぞれが、この夏の公開に向けて、制作を開始した。プロデューサーの神崎氏は語る。

「それぞれの関係する、後続の作家陣がタックを組んで、先達の竜ヶ崎淳三郎へのオマージュを描く、まさに好機だと思います。武内先生、羽奈賀先生は、共に、女性人気が高く、この所、常に、ライバルのように比較されてきましたが、いよいよ、それが同じ土俵に立つ。羽奈賀先生は、元々が脚本家ですから、映像作品が人気ですが、武内先生は、小説のレベルで、かなり、女性ファンを集めています。泥濘先生は、前作の映画が、その映像美でランサムのエンタメフェスに招待作品とされましたし、流布先生は、アングラながら、古くからコアファンがいますね。これが、竜ヶ崎ファンと、層が被ってるんですよね。各年齢層の皆様が、楽しめる作品となると思います。私自身が、竜ヶ崎先生を含め、この四名の先生方のファンなので、実に、楽しみにしている所です」

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　制作イメージ、煽りはこんな感じか・・・。

　萩は、今や流布の仕切る「竜舌庵」に缶詰になり、竜ヶ崎の書斎での執筆を開始。実際に、ここで撮影しても好いと、流布は、頭から、その考えだったのだ。

　今、業界で勢いのある泥濘と、洒脱に構えた、未亡人の流布。二人の共通点は、サバサバしていること。ライバル視などという感じは一切なく、萩はホッとする。武内とも会食をし、互いの作品の位置づけ、住み分けの確認をする。再現フィルムは、冒頭で扱う為、それぞれは、作中では用いない。一応、ラッシュの段階で、互いの作品を観合うこととした。

　武内は「作品の擦り直し」の方で良かったという。まず、叩き台がある。それをベースに脚本を書く。そこに、映像のディレクションは、泥濘担当になる形だ。その為、武内本人は「どうなるかは、全然、検討がつかない」という。

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羽「はじめまして、羽奈賀萩と申します。宜しくお願いします」
武「こちらこそ、宜しくお願いします」
羽「かなり、鮮明で、艶やかな感じになりそうですね・・・いいですねえ、いつか、泥濘さんに舞台の方の、美術監督を依頼したかった所で・・・」
武「羽奈賀さんと組んだ方が、良かったんじゃないですか？」
羽「いやあ、また、次の機会がありますから。・・・武内先生は、流布先生とは？」
武「昔、まだ、俺が竜舌庵にいた頃に来た人だから」
羽「大学生だったそうですね」
武「そうそう、僕が、二十代後半でしたから、七歳年下ぐらいだから、若い娘さんでしたね」
羽「成程、そのようになるんですね。そうかあ」
武「まあ、そうですね。齢は、門下生の中で、一番近かったんですけど、その後、一年間ぐらい、独立するまで、竜舌庵で一緒だったぐらいで」
羽「聞いても、いいですか？」
武「あ、はい」
羽「その・・・竜ヶ崎先生って、いつから、流布先生のこと」
武「うーん、・・・父がどうの、というよりも、流布さんが来て、住み始めたら、もう、そうなんだ、ってね。門下生の先達の皆さんは、ご存知なくても、あの部屋がなんだか、俺は知ってたから・・・まあ、そうすると、始めからだったのかもしれませんが・・・でも、その時は、僕より、若い娘さんに、とは、不思議と思いませんでしたね・・・」
羽「そうなんだ。そうかあ、普通だったら、武内先生と、っていうのも有り得たのにね・・・」
武「いやあ、殆ど、食堂で顔合わせるぐらいだったから、まあ、父のその感じもあったし・・・」
羽「なるほど・・・で、話、戻りますが、竜ヶ崎先生は、流布先生にお会いする前に、学生時代のレポートとかを読まれたんでしょ？」
武「だから、顔を見たくなったんじゃないですか？」
羽「・・・ストレートに、そうだったんですね。へえ・・・」
武「褒められてるんですから、ああいうの、ラブレターみたいなもんですよね」
羽「ファンレター的な」
武「・・・いいえ、ヤバかったと思いますよ。自分の手をなぞるような描き方を、自然にやっちゃってたのが、当時の流布先生だったんで。あ、竜ヶ崎の手という意味ですよ」
羽「・・・はあ、なるほど」
武「まず、ないと思いますよ。真似ようとして、真似られないでしょ。きっと、お互いに、まだ、出会ってない経験で、生涯、そんなことないだろうと思いますよ。竜ヶ崎は、きっと、流布さんの文章、見る度に驚かされて、恥ずかしくもなって、・・・そして、その先が知りたくなったのでしょうね・・・」
羽「忘れていた、昔書いた、自分の作品が出てきて、読み返してるみたいな？」
武「ああ、それに近いのかもしれませんね」
羽「なるほどね・・・それで、その先・・・」
武「苦手と言われる、その先、いわゆる、ラブシーンを、彼女の手で書かせてみたかった。縛ったんですよ。だから、まずは、手元に置いて、三年は筆を執らせずに、・・・ね、そういうことで、籠の中でね」
羽「既に、作品的な・・・」
武「まあねえ・・・らしいというか・・・流布さんが、きっと、父の最後の作品なんだと思いますよ」
羽「・・・さすが、武内先生、言いますね」
武「あああ、まあ、なんていうか、純粋に、そう思っただけで」
羽「それで、三年、断筆させて、その後に溜め込ませて、書かせた、ってことですか・・・」
武「彼女の得意な『ご指南』シリーズは、必ず、上下があって、先達が下を引っ張る感じでしょ。あれは、かなりのディレクションが入っていますね」羽「実践的ってことですか」
武「さあ、・・・まあ、そうなんでしょうね。父を見ていて、面白いな、と思ったのは、母に対する感じというか、接し方とは正反対で、でも、なんていうか、愛情のボルテージみたいなものは、同じぐらいなんだろうなってね」
羽「なんか、いいですね。でも、いいんですか？武内先生が書かなくて」
武「あー・・・まあ、身内の、そんなの晒したくないですから、・・・どうぞ、羽奈賀さんの方が、父のそんな感じ、表現できそうな気がしますよ」
羽「はあ・・・、そちらは、あれですよね。キャスティング、剣客は、八尋靜一さんですよね」
武「『二郎君』を頂いてしまって」
羽「ああ、いや、いいと思いますよ。彼は、時代劇もいいんですよねえ。東国人顔というか」
武「ああ、成程、その通りですね。訥々とした、でも、今風の感じにね、したいなって」
羽「あと、うちの劇団の新人、いいんですか？卯月芽実うづきめみですが」
武「なんというか、『たけくらべ』の美登利みたいにね」
羽「あー、なんとなく・・・そうですか。キャラクターの新解釈ですね、新鮮で合ってるかも、成程、納得しました。喜んで、張り切っていますよ。彼女も」
武「なんかね、羽奈賀さんの方では、キャスティング、ちょっと、難航してる、って聞いてますけど」
羽「そうなんですよ。俺の中では、竜ヶ崎先生は、うちの月城で、流布先生は、数年前、亡くなった、劇団の主演女優を使いたいって・・・もう、無いものねだりばかりで・・・」
武「何か、良い方、いらっしゃるといいですね。でも、こういう時って、意外な出会いがあるもんですから、・・・そう、これって、実は、可能性の塊の状態じゃないですか」
羽「・・・流布先生ともね、闇雲にオーディションとか、したくないね、ともね」
武「解る気がしますよ」
羽「はあ、誰か、雰囲気のある方、いないかなあ・・・、まずは、竜ヶ崎先生役、それから、流布先生役ですね」
武「若い時の話ですよね？」
羽「まあ、その出会いの時の話、結婚に至るまでのを」
武「いいですね。流布さん、いいんだな、それで」
羽「いいんだそうですよ」
武「いそうじゃないですか？何も、役者さんだけに当たらなくても・・・そうですね。文化人的なポジションの方で、いませんかねえ？」

　この悩ましい、キャスティングだが、ついに、竜ヶ崎役には、建築家の榊藍一郎さかきあいいちろうを大抜擢、流布役には、往年のアイドル庵蘭子の孫にして、モデルの鬼島いづみの娘の、新人の辻御伽弥つじみかやが、これまた、大抜擢される段取となり、萩は、苦労した甲斐があったと思っている。

 

　その数か月間が過ぎ、今度は、実際の撮影の期間に入る。そして、映画はクランクアップし、いよいよ「竜ヶ崎幻想」オムニバス三篇が、上映された。前評判以上のものと評され、この年の映画興行成績の上位となった。竜ヶ崎作品は、この映画のシーンの装丁や、帯で出版し直され、特に、女性にもて囃されるようになる。その入門書としての、この映画の脚本の一部や、関係者四人の対談などを盛り込んだ、「竜ヶ崎幻想レクチャー」というテキスト風のブックレットも売り出された。（この時も、萩のみ、顔出しをしていない）また、流布役を務めた、辻御伽弥のファースト写真集は、これまた、被写体としては初となる、榊藍一朗との「竜ヶ崎幻想」のシーンが半分を占めた。祖母譲りの、小柄ではあるが、豊かな肢体と、「笑わない」モデルとして、個性を博した、母の雰囲気を受け継いでいる。若い層にも増して、かつての、双方のファン、つまりは、年配者にも受けているという。

　香蘭舎のパルファム部門、専任編集長の親見は「身を切った分、戻ってきたなぁ・・・」と、流布に言ったという。

「昔とった、なんとやらだ・・・ふふふ」

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みとぎやの小説・コラボ企画「武内ヤスユキ×羽奈賀萩　スペシャル対談」

お読み頂いてありがとうこざいます。今年も、宜しくお願い致します。
新年一発目のお話は、クリスマスに続く、第二段のキャラクター対談企画でした。要は「樋水の流布」の内容を、三十年後の流布と、恋人の死から立ち直った、羽奈賀萩が、二人で映画化する、という話です。

オムニバスの一本を、息子の武内が、父の竜ヶ崎の原作を脚本にして、リメイクするということで、今回は、武内と羽奈賀の対談が実現しました。
そして、この映画が当たり、その後の書籍が爆売れしたらしく、今や、香蘭舎の編集長となった、親見は、ご満悦の体というおまけつきでした。彼が、映画に出てきたかは、定かではありませんが・・・。

「樋水の流布」をお読みでない方は、是非、お勧めします。読むと、対談での会話の意味が解りやすくなります。あと、前回の、流布×萩の対談も、ご紹介しておきます。宜しかったら、お立ち寄りください。

ちなみに、今年の連載第一弾は「萩くんのお仕事」となります。
この脚本家　羽奈賀萩が主人公のお話です。近い内にスタート予定です。
こちらの話もなぞり直して、出てくる予定ですので、お楽しみになさってください。実は、この対談、彼の話の内容が、半端で、片手落ちになっています。なので、連載後に、戻ってきて、読んで頂くと、羽奈賀サイドの環境が解りの謎が解けてくると思います。