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萩くんのお仕事 第十一話

これまでのお話 

 劇団「月城歌劇団(ルナ・キャッスル)」のお抱え脚本家で、今や、売れっ子ドラマ脚本家であり、ラジオパーソナリティーを務める、羽奈賀萩はねながしゅうは、この度、出身地である、東都郊外の小さな町に戻ってきた。実家暮らしは、仕事の性質上、家族に迷惑がかかるとし、アパートに引っ越してきた。引っ越しの傍ら、新しいドラマ脚本のオファーをもらった所で、それまでの仕事と、引っ越し疲れで、食糧の買い出しに行こうと、自転車に跨ったまではよかったが、大家の家の門前で、空腹のあまり倒れてしまう。

 以降、大家一家と交流を持ちながら、この卯月家をモデルに、ドラマ脚本を進める萩、この家の長女は、社内不倫に悩んでいることが発覚し、次女は、何故か、今回のドラマの自分の役のオーディションを受け、通ってしまう。

 ドタバタの展開で、萩はいつも、脚本の催促と、それに伴う問題に追われているという羽目に。前回、ひょんなことから、落ちてきたバッグが頭に当たり、気を失って、またもや、倒れてしまった。念の為、病院に診察に行くことになる。その病院は、次女芽実の彼氏、優馬の父の経営する病院だった。女優として、ドラマデビューする旨を、彼氏に伝えなければならない事情があり、診察を兼ねて、訪ねることになったが・・・。


「まあ、レントゲン撮りましたが、異常はないようですね。気分も悪くないとのことで、もう、大丈夫、心配ないですね」
「ありがとうございます。えーと、実は、私、卯月さんのアパートでお世話になっている者で・・・」
「ああ、芽実ちゃんのお宅の・・・聞いてますよ。この後、自宅に寄って行ってください。隣ですから」
「おはようございます、おじ様」

 あ、芽実ちゃん、診察室に入ってきたな。なんとか、この子の顔で、というか、一応、救急って訳ではないが、それでも、朝一番の診察予約を入れてもらえて、ラッキーと言えば、ラッキーだったんだよねえ。世渡り上手で、要領がいいんだよねえ、芽実ちゃんって。

 なんだ、悠紀夫、まだ、いたのかー。待合で、付き添い人よろしく座っててるよ。もう大丈夫だってば。

「ああ、待っててくれたんだ。サンキュ。バックが当たっただけだからな、やっぱり、大したことがなかったんだよな」
「そうだよなあ、バックが当たっただけなのに、気を失ったんだよな。良かったよな、大したことがなくて」

 悠紀夫~、やな言い方しやがって。まあ、いいか。今日も運転してきてくれたしなあ。

「畑はいいのか?」
「いいよ、萩が倒れたといったら、親父が行って来いって」
「おおっ、おじさん」
「そうだよ、いい親友だろう?」
「まあ・・・でも、もう大丈夫だから」
「行くよ」
「え?」
「いや、行きがかり上、気になってさ、いいだろ?」
「ん、まあ・・・」

「おじ様、ありがとうございました。優馬、お家にいますか?」
「ああ、待ってると思うが」
「はーい」

 なんか、本当に、芽実ちゃん、世渡り上手の感が否めないなあ。気に入られてる感じだよねえ。

 病院の隣の豪邸が、緋山さんのお宅。絵に描いたようなお金持ちだなあ。そうかあ、・・・前を通ったことはあったが・・・。

 これは王子様のキャラクター設定だなあ。わかりやすくて、よいかもしれないなあ。お金持ちのお医者さんの息子、しかも、イケメンときた。芽実ちゃん、やるなあ。

ピンポーン

 あ・・・ベル、すごい、普通に押しちゃったね。まあ、彼氏の家とはいえ、この門構えに、物おじもせずだなぁ・・・気の所為かもしれないけど、ベル音まで、高級な感じがする。

「ああ、そうだ、俺、ここに野菜、配達に来てるわ。裏口から入るから、忘れてた」
「なんだよ、そうなのか?」
「うん」

 とか言ってると、敷地の奥の方から、人の気配が近づいてきた。

「ああ、芽実、急に用事があるって、・・・あ、おはようございます、えっとぉ・・」
「優馬、ごめんねえ、ちょっと、ルール違反だけど、来ちゃって」
「うん、でも、いや・・・あ、え・・・ひょっとして」

 お、ほんとだ。これはまた、秦素臣君とは違うタイプのイケメンだ。え?俺を見ている?・・・え?そんなに見る?・・・まさか、君も、・・・?
・・・いや、芽実ちゃんがいるって💦

「えっとお・・・あの、お話して頂いていいですか?」

 なんだ、このもじもじした感じは?

はい、おはようございます
「あああっ、・・・ですよね?」
え?
「・・・あ、あの、羽奈賀萩さん・・・ですよね?」
はい、そうですが・・・

 どうした、おい、美少年が赤くなってるぞ。横を向いて、恥じらっているぞ。

「え、何?わあ、優馬、萩さん、知ってるの?」
「知ってるも何も・・・💦」

 急に、背筋をピンとして、最敬礼で頭を下げてきた。どうした、少年?!

「あ、あの、緋山優馬と申します。実は、僕、以前より、月城歌劇団ルナキャッスルのファンで、DVD全部、持ってるんですよ。それで、この脚本、素敵だなあと思っていたら、書いてるのが、羽奈賀萩さんだと判って・・・たまたま、つけたラジオでお声を聴いたら、その、あの、好きなチョコレートのCMの声の方で・・・それで・・・」
「ちょっ、ちょっと待ってよー、優馬、そんなこと、一言も言わなかったじゃない💦今、初めて、聞いたよー💦」

「お前のファンじゃんか、要は」

 あ、そゆこと・・・。悠紀夫に突っ込まれるまでもなく・・・。
 弾丸トークの圧に、気圧されそうになったよ、ふえー。

「ああ、とばり農園さん、今日は配達、頼んでないと思いますが・・・」
「あ、いや、いつもお世話になってます。えっと、俺、この萩の親友で、」
「えーっ💦親友さんだったんですかぁ?それは、気づかなくて、すみません。どうぞ、皆さん、家に寄っていってください」
「優馬ぁ、何?ファンだったのー?早く、言ってよぉ、私、今度、羽奈賀さんのドラマに出るんだから」
「えっ?」

 玄関まだ、入るか、入らないかで、なんかまた、色々と炸裂しているけど・・・、お、今ので、伝わってしまったか・・・?

💙✨💙

 確かに、綺麗な家だ。羽奈賀の本家みたいだな。シャンデリアのある居間に通された。もう、ここまで来たら、芽実ちゃん、言っちゃったようなもんだから、優馬君と、2人で話してもらってもいいんだけどなあ。

「あらあ、芽実ちゃん、おはようございます。いらっしゃい」
「おはようございます。朝から、すみません。おば様、お邪魔しています」

 奥様だよね。こちらは。あ、優馬君は、お母さん似なんだ。そう思いつつ、俺は、一度、腰かけたソファーから、悠紀夫とほぼ同時に、立ち上がって、頭を下げた。

「あら?帳農園さん」
「あー、奥様、いつもありがとうございます」
「と、こちらは?」
「羽奈賀萩、です」
「あー、羽奈賀財閥の?名前一文字が証よね?」

 ああ、ご近所さんだけど、もう、ご主人にも知れてるしと思って、本名を・・・奥様は、そっちの反応で・・・羽奈賀の、業界的なヤツか・・・。

「羽奈賀さんは、昔ね、お仕事を、ご一緒させていただいたことがありましてね。また、そのうちにね、ご縁がありましたらね」
「ああ、そうだったんですね」

 玄関先で、スッと優馬くんが消えたなあ。どうしたんだろうか?あ、来た来た。ワゴンを押してきたぞ。

「丁度良かったんですよ。今、優馬と、ブランチのね、用意をしていたから、どうぞ、召し上がって」
「すみません。紅茶とか、お茶菓子を、準備させて頂いてたんです」

 おー、これまた、執事的な、何か、色々と、サービスが来たぞ。こりゃ、また、女子にウケそうだ。お母様に、面差しが似てるんだね。優馬君は。あ、俺がCM宣伝していた、クイーンズランドのチョコレートだ。

「あ、これね。・・・私はね、いいと思ってるんですけどね、主人がね、許さなくて・・・」

 あ、お母様、なんでしょうか?また。チョコレートがどうしました?

「東都の医学部にと進路を決めてきましたのにね、同じ東都でも、演劇学部に行きたいって、今になって、優馬が言い出しまして・・・」

 あれ、ちょっと待て?この展開は、嫌な予感が・・・何やら、優馬君、また、熱いまなざしが、お母様の隣に座られて、何となく、対面で・・・つまりは、その・・・

「僕は、羽奈賀さんのような、脚本家になりたいんですっ」

 お、おおおっ、これは、また、話が余計な方向に膨らんできているような気配が・・・、いや、こっちの、芽実ちゃんの話をしたいんですけどね💦・・・え、それって、俺の所為とか、また、そんな話じゃないよね?

「あ、ああ、そうなんですか。それは、それは・・・えっとお・・・」

 芽実ちゃん、あれー、急に借りてきた猫みたいになってるんだけど。

「まあねえ、私はまあ、羽奈賀さんのような大財閥なら、なにをやっても、あちらこちらから、サポートもあって、失敗もね、何らかのカバーを一族でなさるから、結局、どの業界でも優秀、っていうことでしょうけどね」

 え、そういう認識?
 俺は、羽奈賀の家とは関係なくやってきてるつもりなんだけどなあ・・・そういう風に見られてるってこと?
 うーん・・・、なんとなく、心外なんだけどな、そんな風に言われるのは初めてだなあ。

「いえ、僕は羽奈賀の本家や、親戚から助けてもらって、今の仕事に就いているわけではないので・・・あ、いえ、その、優馬君もやりたいことなら、可能性を広げて、進んでいくのも良いと思うんですよね。俺も、高校の文化祭で脚本担当したのが、この道に進むきっかけでしたし・・・」

 あ、つい、言ってしまった。ヤバい。

「あら、ごめんなさいね。ちょっと、嫌な言い方に聞こえたかもしれないわね。そうじゃなくてね、私は、優馬のやりたいようにするのは、いいと思ってるんですよ」
「え、お母さん、そうなんですか?」
「んー、まあ、優馬、お父さんの手前、言えなかったけど・・・まあねえ、羽奈賀さんが、こんなにお近くにいらっしゃるの、もっと早くわかればよかったわあ・・・。私もね、若かりし頃の、月城紫京つきしろしきょう様が好きで、うふふ、おっかけしてましたのよ、うふふ」

 あ、出た。大家さんに続いて、いたぞ。このぐらい年齢の女性は、三人に一人は、月城先生のファンで、そうでない、三人に一人は、今回のドラマにも出てもらってる、志芸野咲哉しぎのさくやさんのファンらしいからなあ。んー、なんか、また、ややこしいことになってきたぞ。

「えー、お母さんも月城歌劇団ルナキャッスルのファン?」
「そうよお、昔の録画を古いデッキに取ってあるのだけど・・・、もう、見られないわよね💦」
「DVDなら、僕、持ってるから、全集」
「ああ、違うのよ、それに入っていないやつよー」

「っうか、なんか、話が進んでなくない?」

 悠紀夫が、隣から、耳打ちしてきた。・・・よし。

「あ、あの、実はですね、こちらの、卯月芽実さんが、この度、僕の脚本のドラマに出ることになりまして・・・」
「あ、なんか、さっき言ってたよね、すごいよー、芽実、おめでとう。がんばってほしいよ。応援してるから」
「ゆ、優馬、いいのかな?ありがと・・・」
「それでですね・・・」

 ああ、やっと、今日の趣旨をお伝えできそうだ。よかったぁ。

 ドラマのモデルが卯月家で、優馬君役を、戦隊ヒーローもの出身の若手俳優、秦素臣はたすおみ君がやることになってて、ミズキ飲料のCMにカップル役で出ることになっていること、その為、このドラマが放送終了まで、プライベートの付き合いが、制限されてしまうということをお伝えしたのだが・・・。

「まあ、そんなこと、いいわよねえ、優馬」
「うん、そうだよー、芽実、どうせ、受験だから、決まるまで会わないようにしようと、約束してたから、それは大丈夫だよ」
「本当?わあ、ほんとにいいの?」
「うん」
「優馬、ありがとう💜」
「むしろ、芽実には、頑張ってほしい!」

 おー、やったあ。芽実ちゃん、これで、明日のミズキ飲料さんの撮影に滑り込めるぞ👍✨優馬君って、なんか、熱いなあ。見た目とのギャップが面白い。・・・これ、秦素臣なら、面白くれそうだなあ、とか、また、思ったりして・・・。

「それでですね、その代わりと言ったら、なんなんですけどね、羽奈賀さん、お願いがあるのですが・・・」
「え?・・・なんでしょうか?」

 あ、親子が同じ、ニコニコ顔で、並んで、俺を見ているのだが・・・。多分、また、何か、厄介事の臭いがしてきたんだけど・・・。

「羽奈賀さん、父を説得してほしいんです」

 ああっ、来たー💦 そう来るかあ💦

 何、隣で笑ってんだよー、悠紀夫のやつ・・・

「お願いしますっ、羽奈賀さんっ」
「御立派な、羽奈賀財閥のね、貴方がこのように身を立てているという証拠がございますから・・・どうか、この愚息の為に、口添えいただけませんか?・・・あの人、本当に頑固なんですよ・・・」

💛✨💛

 家を出るや否や、悠紀夫が、声を立てて、笑い出した。

「なんか、昨日から、面白過ぎねえ?萩」
「・・・もう、なんだよお」
「バッグの角で気ぃ失って、芽実ちゃんの件で肝冷やして、それは肩透かしのクリアしたと思ったら、また、頼まれちゃって・・・あはははは・・・」
「んー、ごめーん、萩さーん💦・・・でも、優馬のお願いも、何とかしてほしいなぁ・・・」

 はぁ、なんか、また、面白い脚本のネタにはなりそうだけど・・・ね。

 そうだ、これも「二郎のこと」と割り切って・・・って、訳にはいかないよなあ。はぁ、先生、確かに、優しいけど、なんか、きっちりしてる、流石なお医者様タイプみたいだからなあ・・・。

 もう、一難去って、また一難だぁ~💦 

 あと、大家さんの家にも、もう一つ、問題が残ってたよね💦

 この二つの問題は、実は、俺のドラマには、差し迫って関係ないが、ストーリー上、関係あるから・・・とはいえ、どうする?俺?!

                             ~つづく~


みとぎやの小説・連載中 萩くんのお仕事 第十一話

 ご無沙汰してしまったのと、丁度十話分になるので、冒頭に、これまでのお話を書かせて頂きました。
 一難去って、また一難。萩くんの、ここんところは、こんなことに追われまくっています。さて、次回も、どうする?萩?!ということですが、こうも、色々なことに巻き込まれすぎるとなあと、思うのですが・・・。

 そろそろ、ドラマも、クランクインらしいんですよね。いい感じに進めさせてあげたいところですが・・・。また、少しお時間を頂くと思いますが、連載は続いていきますので、お楽しみになさってくださいね。



 





 


 

 
 

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