最後の砦~この子らを護って
傷だらけの背中 帰ってきた
漆黒の髪に瞳 手負いの囚人
あなたの願いを 他の誰かに
預けてほしいの できることなら
傷を癒して 心も、傷も
あなたは、決して、卑怯者なんかじゃないわ
ああ ここはあなたの生きられる 最後の砦
誰にも、明け渡せない
お願い もう 苦しまないで
他の誰かに あなたを踏みにじらせない
スメラギのレジスタンス、陸軍の英大尉からのSOSを受け、俺と、同輩の赤津は、東国義勇軍の救援部隊として、皇宮内部に向かっていた。
「地下に、複数の子どもたちが拘束されているとの情報を掴んだ。救出に迎え」
「了解」
見れば、もう、かなり、火の手が回っていた。英大尉の報告によると、人を払って、火を放ったと聞いていたが、混乱の中、地下牢に閉じ込められている者たちがいるという情報だ。
「恐らく、素国軍の残党の仕業と見受けられる」
「中にいると思われるのは、紫鋼王の兵で、狂信的な奴らだ。気をつけていかねば」
俺は、同じ部隊の同胞と二人、焼け落ちかけた、皇宮の地下に侵入した。どうやら、粗方の者たちは、略奪などを働き、脱出したようだった。牢獄の中を確認しながら、進んでいく。最初は、誰もおらず、ホッとしていた所、進むにつれ、鼻を衝く、腐臭が漂って来た。奥の牢の中には、惨殺されたであろう者たちの死骸が集められていたのだ。
すると、更に、奥の方から、異国の言葉で、叫び声が聞こえてきた。
「やめて、助けて・・・」
一つの牢の中で、いずれも黒髪の、三人の子どもたちが、同数の素国兵に囲まれていた。足元には、既に息絶えた様子の、子どもたちが、複数、横たわっている。
「はぁ・・・聞きしに勝る・・・例の側室が残していた子どもだな」
「よく生き遺っていたな。よし、大人しく、いう事を聞けば、素国へ連れ帰ってやる」
「・・・馬鹿、どうせ、もう、俺たちに帰れる場所なんかない。紫統に殺されるのがオチだ」
「・・・だが、その紫統が、好みそうな感じじゃないか・・・差し出したら、許してもらえるかもしれんぞ、・・・ははは・・・」
聞くに堪えない、素国語のやり取りに、憤りと同時に、危機を感じた。一刻も早く、子どもたちを救出しなければならない。それにしても、なんで、こんなに、地下に人々がいるのだろうか。出口が少ない作りの所為で、逃げ遅れたのかもしれないが、ここは、恐らく、だいぶ前から、素国軍の手に堕ちていた可能性はある。囚われていた者たちは、恐らく、食事も与えられず、体力のないものから、亡くなっていったに違いない。
「三人の子どもたちと、敵も三人、こちらは二人だが・・・、辻、子どもたちを誘導してくれ。俺が引きつける。まずは、牢から、奴らを追い出さなければならない」
赤津が言った。
「まずは、俺が、銃を打つ。出てきた奴らを、こちらに誘導して、牢から引き離す。その隙に、子どもたちを連れて、逃げろ。まずは、この皇宮地下から脱出しなければ」
「解った。しかし、赤津、奴らは、何をするか、解らないぞ」
「大丈夫だ、それより、子どもたちを頼む」
素国兵は、それぞれ、子どもたちを捉え始めた。銃は、地面に置かれている。赤津は、このタイミングを見て、一か撥か、銃を撃ち、音を轟かせた。
「なんだ?まだ、いたのか、スメラギのネズミが」
一人が、子どもの手を引きながら、外に出てきた。比較的大きな子だ。14、5歳ぐらいだろうか。上手くすれば、彼は、走って逃げられるかもしれない。
「どこだ?」
「こっちだ、・・・手を上げろ」
「おい、東国軍だ。銃を渡せ・・・わっ」
赤津が、牢の外の一人の足を撃ち抜いた。
「逃げるんだ。出口に向かって走れ!」
俺は、その牢の外の子に指示した。その子は、なんとか、素国兵の手を振り払って、走り出した。
「こいつをやられたくなかったら、その子たちを離せ」
赤津が、足を撃ち抜いた一人に、銃を突きつけ、牢の中の二人の素国兵に言った。赤津は、通訳官でもある。素国語で、意図を伝える。同時に、俺は、すかさず、牢の中に入り、地面の銃を拾い、牢の外、遠くへ蹴り出した。その後、狭い中で、まず、残された二人の子どもたちを外に出る様に、指示した。何とか、二人とも抜け出し、出口に向かって、走り出した。
「いい、辻、撃て」
「だが・・・」
「・・・」
赤津は、俺が躊躇している間に、折の中の二人を、続けて射殺した。本部の指示では、できるだけ、殺さずにとのことであったが・・・
「なんとか、子どもたちは逃げら・・・」
赤津の声は、後半、銃声にかき消された。彼は、その場に崩れるように倒れた。
「だったら、先に、やっとけば、よかったのになあ・・・」
牢の外の、足を撃ち抜かれた素国兵が、この隙に銃を取り戻していたのだ。
「やれ・・・辻・・・」
赤津の途切れそうな声に、反射的に、俺は、引鉄を引いていた。
・・・・・
赤津は、亡くなっていた。・・・慌てて、俺は、赤津のドックタグを引き抜き、胸のポケットにしまい、逃げた子どもたちを確保する為に走った。
どうか、これ以上、残党がいなければいいが・・・。子どもたちが、無事、ひとまず、皇宮の外に出られてるといいんだが・・・。
出口で、騒ぎの声がした。やはり、子どもたちが、二人の素国兵に捕まっていた。
俺は、慌てて、銃を構えたが、子どもたちがいる為、撃つことができない。その時、強い衝撃を背中に受けた。背後に、もう一人、素国兵が潜んでいたらしい。
・・・・・・
気づくと、俺は、その子どもたちと一緒に、トラックに乗せられていた。
「まさに、伏兵とは、このことだな。東国兵がいたとは」
「鋭い、良い目をしてるな、・・・ふふふ」
二人の見張りの兵がいた。俺は、睨みつけてやった。寝かされた状態だった。俺は、寝返りを打とうとした時、背中に激痛が走るのを感じた。そうだった。俺は、あの時、恐らく、銃剣で背中を切りつけられたのだ。見ると、床が血で汚れているのが解った。
子どもたちの様子が解った。縛られてはいなかった。俺も、この重症だ。拘束されてはいないが、銃などは取り上げられているらしい。しかし、多分、このままだと、出血多量で死ぬのかもしれない。
トラックが停まった。二人のうちの、年嵩の一人が降りて行った。残りの一人は、若い兵だった。先ほど、戦っていた奴ではなかったのがわかった。
思い切って、俺は、その若い兵士に、声を掛けた。
「どこへ連れて行く?」
「は?」
彼の返事は、何故か、スメラギ語だった。なので、こちらもそれで返した。
「どこへ連れて行く?」
「お前、スメラギ語ができるのか?・・・ああ、本部だ」
うすら笑いで、俺を見下ろしている。余裕な感じが、兵士らしくなかった。
「子どもたちをどうする気だ?」
「さあね。上官次第だよ」
「助けたい。子どもは関係ない」
「っつうか、お前、その傷で、自分の頭の蠅も追えねえのに、何、言ってんの?・・・お前、いくつだ?」
「24だ」
「同い年だな・・・無事、帰れれば、無罪放免なんだけどなあ」
「どういうことだ?」
「兵役が終わる」
「そうなのか・・・」
「東国義勇軍、だろ?全員が、志願兵ってやつだ。馬鹿だな」
「・・・」
「死にに来たか?ふふふ」
「・・・頼む、子どもたちだけは、助けてくれ」
「凄いなあ。偉いんだ。気が知れねえや・・・はあ、ヒーロー気取りか」
「頼む・・・」
そういうと、彼は、トラックの荷台の奥の荷物の方に行き、戻ってきた。
「はいよ」
そして、りんごを三つ取り出し、それぞれ、一つずつ、子どもたちに与えた。
「あ、・・・ありがと」
子どもたちは、それぞれ、顔を見合わせた。それから、示し合わせたように、りんごを貪るよう食った。
すると、もう一度、その若い兵は同じように荷物の所に行った。そして、今度は、俺の所に来た。
「飲めるか?」
水筒の水を与えようとしてくれている。しかし、痛みで起き上がれない。
「はいはい。手がかかる・・・逃げんなよ」
既に、逃げられない。どういう意味だ?
「はい、大サービス」
「・・・ん、ぁあ・・・」
「下手糞」
素国式か・・・、聞きしに勝る。
「もっと、要るか?」
「いや、いい・・・」
すると、子どもたちに、その水筒を渡し、もう一度、彼は荷物に向かった。今度は、包帯を持ってきた。
「はいよ、きついだろうが、起き上がって、よいしょ」
「うっ・・・うわっ・・・」
「悪いが、ここには、薬はない。これだけだ。ひとまず、抑えれば、血は止まるだろう。後は、解んねえ。はいよ、脱がすぞ、・・・うわぁ・・・痛そうだな・・・」
荒っぽいが、彼は、手当てをしてくれた、ということか。
「まあねえ、最近、仲間が死んでさ」
「・・・そうだな、俺も同じだ」
「恋人だった」
「あああ、そうか・・・」
聞きしに勝る、素国だ。
「おない年で、同じ部隊で、俺を庇って死んだ」
「・・・」
「お前は、奴に似てる」
対価が要求される、ってことか?・・・子どもの前だ。それは、不味い。
「いい、行け。こいつら連れて、・・・後は知らん」
「・・・いいのか?怒られないか?」
「手はある。まあ、いい。俺も、無事帰ったら、普通の市民でいたいからな」
「・・・そうか、ありがとう・・・行けるか?君たち」
子どもたちは、驚いた顔で、東国兵の俺と、素国兵の彼とのやりとりを聞いて居た。何故か、皇語でのやり取りだから、全て、意味が解った筈だ。
「いいから、お前ら、うちの国じゃ、どうなるか、わかんないぞ。そっちの、青い軍服についていけ」
「・・・」
子どもたちは、黙ったまま、立ち上がった。年嵩の子が、俺を支えた。
「そのスメル湖を三時に見ると、メイル川が零時に見えてくる。川沿いを行けば、掃海艇に見つけてもらえるかもしれん。解らんが」
「ありがとう、恩に着る。戦争は、国でしてるんだな。個人は関係ないんだ」
「素国にだって、良い奴はいるもんだぜ。したくて、してないよ、こんなこと」
「戦争が終わったら、それぞれの国同志、平和条約を結ぶべきだ」
「難しいことは解らないけど・・・まあ、早く行け、見つかるぞ、じゃあな」
その後、俺と子どもたちは、無事、東国義勇軍の掃海艇に救出された。しかし、その大きな船も、スラギ海峡で、嵐に巻き込まれる。船は沈没したが、俺たちは、小さな島に流れ着いていた。子どもたちも無事だった。浜を見渡すと、幸いなことに、多少の食糧と、銃も流れ着いていた。
人の姿が見えた。建物の中だ。この島は、どこの国だろうか?子どもたちと、打ち合わせた。多少、荒っぽい手だが、強行することにした。生き残る為に・・・。
~ 最後の砦~この子らを護って 終 ~
みとぎやの小説・みとぎやのうた 特別編 最後の砦~この子らを護って
連載小説は、ちょっと、大袈裟な言い方ですが、絶筆の感を持って、今、描くことを留めています。
実は、みとぎやの考えていた「伽世界」のことと、あまりにも、リンクし過ぎた、実際の地球上の事実といわれることを、みとぎやは、約3か月前に知りました。それが、小説をお休みしている理由でもあります。
その現実、私たちの住む地球における事実は、物語の展開を上回る酷さを持っていました。
まさに、事実は小説より奇なり です。
ここまで、お話して、ピンと来る方は、もう備えに入っておられると思います。そして、収束に向かうことを願っている段階かと思われます。
この話は、ひとまず、ここまでにしておきます。
・🕊🌎🕊・
みとぎやのお話は「伽世界」という創作世界の中で、展開しています。
このnoteでは、その中から、お話=小説、というものを、時期、順番問わず、点在させるように、掲載し続けてきました。
この話は、まさに、戦禍の末期、「伽世界」の一つの終末を迎える頃のお話です。
特に、メンバーシップの方は、これが「伽世界」の中の、どの話の、いつの話であるか、と、考えてみてくださると嬉しいです。
この歌は、何十年前に生まれ、小説は、五年程前に生まれました。
今回、ふと、この歌「最後の砦」のことを思い出した時に、「この子らを護って」という、こちらの小説のことも思い出しました。そして、コラボさせてみたくなりました。
久方に、読み直しての修正などに、熱が入りました。
皮肉なもので、連載を止めておきながら、こちらを構成していると、創作への熱を思い出しました。
「最後の砦」も、歌の歌詞です。
今回は、小説との兼ね合いで、1コーラス目だけを書かせて頂きました。
戦争を、誰もが起こしてほしくない、戦いに身近な人に行ってほしくない、ましてや、先頭に立ってなど、もっての外と・・・そんな、妻や恋人の気持ちを歌っています。
「戦って、身を捧げるのが当然なんて、バカげた考え方を裏切って、どんな、卑怯な手を使ってでもいいから、戻ってきてほしい・・・」
彼は、きっと捕虜になり、死地を乗り越え、無事解放されてきたのでしょう。戦争が続けば、今は無事でも、他の地に赴任することになるかもしれません。彼は、しかも、平和を取り戻す為に、戦いに身を投じることを選んだ「志願兵」でした。
そして、「この子らを護って」の主人公も、まさに志願兵で構成されている「東国義勇団」の一員でした。主人公は、辻という苗字で、彼の祖父は、表舞台で戦わなかったにせよ、遥か昔から、東国を護っていた、Mr.Jackという英雄でした。
スメラギという国が、一度、亡国の危機に瀕する頃のお話です。
そして、今、メンバーシップで、連載させて頂いている
「御相伴衆Escorts」と、もう一つのお話「惟月島畸神譚」のコラボスピンオフという、短編でした。
この続きが、実は「惟月島畸神譚」に続いていきます。
noteで連載をするかは、まだ未定ですが、機会があったら、ご紹介の運びになるかもしれません。
・🕊🌎🕊・
日本列島には、その遥か昔、縄文時代と呼ばれる世には、戦のような争い事はなかったと言われています。出土される、当時の人々の遺骨には、武器で傷つけられた後は、一切なかったそうです。獲れたものを分け合い、皆で助け合って、命を紡いできた、それを当たり前の事として、日々を暮らしてきた種族と聞いています。それは、数万年の長さで続いていたそうです。
そのご先祖様の質は、きっと、私たち、現代の日本人の中にも、遺伝として残されている、誇り高き質だと、その話を聴いて、改めて、思いました。
みとぎやの長編小説は、真実の歴史、ルーツに拘る話ばかりです。
気になっていたことが、頭に浮かんでくる。新陳代謝として、お話が一人歩きを始めるまで、もう少し、時間がかかると思います。
その時になったら、アカや、艶楽師匠は、再び、動き出すと思われます。
解説部分が長くなりました。
悩んでいたことを整理し、少し、皆様にお伝えできたような気がします。
お読み頂きまして、ありがとうございます。
世界平和🕊 地球安泰🌎 神恩感謝✨