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御相伴衆~Escorts 第一章 第四回 数馬編④「奴隷の生活」

 その晩は、その大きな広間のような部屋の、昼間話す為にもぐり込んだダブルベッドに、慈朗シロウと一緒に寝た。ベッドの中で、俺は、ここまで起こった、目まぐるしく過ぎた、今日一日の事を、思い出していた。

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 夕方に、ワゴンで、食事が運ばれてきた。歓待を受けられている証拠だと、給仕係の男は、何皿もの料理を、慈朗と俺の為に並べた。

「こんないいもの、国中でも、ここじゃなきゃ、食えねえぜ。せいぜい、精進しな」

 慈朗の言った通りだ。俺だって、こんないいもの、食ったことがない。慈朗は、綺麗な顔をしているが、豹変するように、ガツガツと、飯を口に頬張って食べた。時には手づかみで。これでは、犬のようだな・・・俺でも、こんな食い方はしない。

「上の人と一緒の時は、食べてはいけないから、それも覚えておいて。許可が出たら、きちんとしたお作法で食べなきゃいけないから、面倒臭くて、その時、食べられなくて」
「そうなのか?」
「食べないと、可愛いと言われる。よく解らないけど、人形のように座って、お酌してるしかなくて。そんなにしてると、たまに、口に少し入れてくれるけど、それも、お相手には遊びだから、こっちは食べた気がしない」
「そうだろうなあ、俺も、そんなのやだな」
「誰だって、やだよ」

 いや、違う。これが、慈朗の育ちなんだ、これって。教えられる人がいなかったのだろうか?それと、相当な飢えの記憶が、そうさせてるのかもしれないが。

「スメラギの90%はしずの身と言われる労働者と賤民だから。一握りの貴族階級から上が、下の者からの搾取で潤ってる。これが、その証だよ」

 成程、その倭の身の出身、やっぱり、育ちの所為なんだろう。学校にも行かせて貰ってなかったようだし・・・。

「確かに、王様のご馳走クラスだよな、奴隷とか言われてるのに、こんなの、食えるんだ、驚いたよ」
「だから、いいって、言ったろ。数馬も、今のうち、食べておいた方がいいよ」
「お前、そんなに食って、大丈夫か?俺、取らないから、ゆっくり、食えよ」
「いいの、いいの、何か、粗相があったら、ご飯抜きは当たり前だし、いつ、そんな目に遭うか知れやしないから、それに、この後・・・」
「ん?」
「お妃様に呼ばれたり、夜伽があったら、すごい消耗するから、こんなに、食べてるのに、全然、太らないんだよ」
「成程・・・」
「数馬も下げられないうちに、食べといた方がいいって」

 とはいえ、箸を持ったものの、俺は、沢山のお皿の豪華すぎる食事を、口にする気にはなれなかった。殺されてしまっただろう、親爺たちのことを思い出す。すると、これからのことは、正直、大変なことになるだろう、と、実感し始めてきた。

 今日は、お妃の機嫌がいいから、慈朗と俺には、飯が与えられた。奴隷として、その個人の判断力が奪われ、何も考えられないようにする為に、最低限度の欲望をコントロールされ、言うことを聞かせるという、典型的なやり方なんだろうと思った。慈朗は、それに嵌まりかけている。危険なのは、自分を無くすことだ。慈朗、食事の仕方をきちんとすれば、食べられる回数は増えるぞ。今度、誰かから、一緒に教わろう。あの給仕は、ちょっと、話聞いてくれそうだな、今度、聞いてみよう、と、俺は思った。

 そのように、俺たちが食事をしている間に、係の召使のような男たちが来て、部屋の大きな窓や扉は、閉められ、施錠された。これは、俺たちが逃げないように、ということでもあるらしい。冷やかな視線が、慈朗に送られていた。

 やっぱり、慈朗、頑張って、やれることはしなきゃならないな。自分を守る術すら、失っていたら、このまま、さげすまれたままになってしまうぞ。

 慈朗は、どれだけ食べたのか、胴回りが膨らんでいた。痩せた身体中に胃袋が拡がるようだ。体重は数キロ増えたに違いない。こんな食べ方をし続けていたら、身体を壊しそうだ。それも心配になる。

 そもそも、立場によって、こちらへの参入の仕方から違うのかもしれないが、桐藤きりと柚葉ゆずはのように、賢く立ち回れば、ここでも、自尊心を持って、きちんと生きていけるに違いない。俺だって、「川原乞食」と言われ、文化的に進んだとされる、平和な東国でさえ、虐められたこともあった。逆に、諸国行脚する中、人の温かさにも、沢山、触れてきた。ここに足りないのは、皆が封印している、そんな温かさ、思いやりのようなものだ。素地はあるのだ。その象徴が姫だし、ここまで触れてきた、女官や召使などの中でも、仕方なく振る舞っている人が多いんじゃないか。俺は、ここを、温かい雰囲気の場にすれば、もっと、皆がお互いを監視したりするのがなくなるのではないか、と思った。・・・まあ、そんな、一筋縄ではいかないだろう、かなり、甘い考えなのも解ってるが・・・とにかく、最初は乗ろう。「お気に入り」を増やすしかない。俺を気に入ってくれる人に、助けて貰えるようにするしかないな。

 食事が下げられ、慈朗は、ゆっくり、ベッドに、仰向けに倒れ込む。

「はあ、美味かった。今日は、珍しいな、この時間でも、お呼びがかからないから。ゆっくりできるな、良かったな、数馬」
「なんか、配置とかって、桐藤たちが言ってたけど。俺はまだなんだな」
「一応、ここにいる間は、お妃様付きだからね、次、来た時は、君、多分、いっぱい、お妃様に求められると思うよ。そっちの方は、大丈夫なの?」
「あああ、そうだよね。まあ、『お客あしらい』はなくはなかったからな。そう多くもないけどね」
「お妃様の、いいとこ、教えといてあげるよ」

 その後、ベッドの上で、慈朗は、事細かに、妃を迎える時の手順や、してはいけないこと、妃が悦ぶこと、しかし、それはあくまでも、慈朗自身とのことだから、俺が相手の場合、求められることが変わる可能性がある、と教えてくれた。

「後ね、まあ、多分、このままでいると、俺たちは、二人で一組みたいに扱われるんで、柚葉が『仲良くしてる』って言ってたでしょ。中では、そう思われるみたいだから」
「はあ、まあ、そうかあ。さっきも、吊し上げ喰らいそうだったしな」
「うん、怖かったよ、勢いが。まだ、個人的にっていうなら、何とかなるかもしれないけど」
「なるのか?・・・変わんないだろ?」
「まあ、そうだね、最低だよ。でも、その時、我慢すればいいから。僕、お芝居とか、数馬みたいにできないから、その時も、リアクションがそのままだから。それって、皆、見たい所らしくて、お相手の大人たちが、興奮して上がるの、見ててわかった。それは、男も女も同じなの、わかるから、そのまましていたら、一番喜んでもらって、長くしなくて済むのもわかって、・・・まあ、人に拠るけども、まあ、そんな感じで、今んとこ、乗り切ってるんだけどね」

 可哀想に。
(って、俺もこれから同じ目に遭うのかもしれないけど)

 売春婦の女の子が話してたのと、同じかもしれないな。素国での公演の時に、楽屋で一緒になった、巫女舞みこまいの子が、同様な話をしていた気がする。その子も気の毒だけど、やはり、家族の為に頑張っているのだという。お金を貯めて、病気の親を医者に見せると言っていた。目標がある、というのは、どんな所でも頑張れる、自分というものを失わず、生きていく、一つの力だ。

 慈朗は、線が細くて、顔も女顔で、声も高い。自然と「受け」なんだろう。さっきだって、鞭を向けられて、本気で泣きそうになっていたし、多分、ベッドの中でも、「可愛い」振る舞いを、自然にできてしまう。これが、天性なのかもしれない。でも、それこそが、今、彼を助けている術(スペック)で、それが周囲からウケていることも知っている。まあ、そうなんだろうな。慈朗は、慈朗で、できることを頑張っている、と思っておこう。

「絵が上手いのか?あと、カメラ、って、お姫様が言ってたよな?」
「うん、落ち着いたら、画材を貰って、絵を描かせてもらおうと思ってて。あと、カメラは、多分、ここでは封印かな」
「そうなのか?」
「ここで、写真が悪用されるのは、目に見えてるから・・・」
「成程ね。その通りだ」

 慈朗、こんなこと言ったら悪いが、思ったより、賢いかもしれないな。臆病だけど、役目を果たして、頑張ってるし。案外、周りも見れてるのか。だったら、食事のマナーを頑張れば、もっと、生き易くなるな。やっぱり、早めに、給仕係に相談しよう。

「・・・んー、でね、さっきのあれ、もしも、組まされたら、ごまかし方があって、そうすれば、楽なの、柚葉が少し、話してくれて・・・」
「え?何?」
「まあ、これぐらいはやって、そのまま見せて、ここは動きを早くしてれば、わかんないから」
「あああ、説明だけでわかるから、いいって、フェイクなら、俺も芝居でやるからわかるし」
「いや、ごめん、しないって。一応ね、打ち合わせしとかないと。お妃様からもあると思う」
「いきなりだな」
「あとさ、普通に、女の人とするのは、まずは、平気でしょ?」
「意志と関係ないのは、平気ではないけど・・・」

 なんか、やっぱ、それ専門なんだな、・・・うーん。

「あ、そうなんだ・・・数馬は、恋人いたの?」
「うーん、いなかったかな、いいな、と思った人はいたことがあるけど」
「男?女?」
「馬鹿、女の人に決まってるだろ」
「あ、年上だ」
「なんで、解るんだよ」
「女の子って言わないで、女の人って言ったよ」
「ああ、そうか。よく解るな」

 慈朗、やっぱ、そっちの方、よく解るんだな。俺は鈍感みたいだから、女心が解らない、と言われたこともあったぐらいで。

「なんかね、そういうのは。それで、その人、東国の人?」
「違うよ、ランサムの人だよ」
「へえ・・・ランサム人は、こちらに来たことないんだよ」
「そうなんだ」
「政府が接待してるんだよ。よっぽどのことがないと、ここまで来ない。ここは、外国人は、素国が殆どかな。当然、東国はないし」

 まあ、よくわかんないけど、国同士の確執、とかがあるんだな。

「んで、慈朗は、恋人は?」
「いないな、そんな暇なかったし。でも、したら、気持ちいいのは、知ってるよ」
「なるほど、微妙に、話がズレてくけど・・・」
「センスがいい、って、お妃様に言われたんだよ」
「ああ、それは、ここでは有利なスペックかもな」

 なんとなく、今日一、慈朗の余裕な笑顔が見られた気がした。何でもいい、慈朗、プライドを捨てるなよ。



 毎日が、戦争というか、何が起こり、どんなにかさいなまれ、ヒエラルキーの中で、足掻あがきながら暮していくんだろうな・・・慈朗が、無邪気な寝顔をしている。赤ん坊みたいな奴だ。今の内、俺も寝ておこう、旅慣れて、どこでも寝られる筈なのに、無駄に、柔らかいベッドで、寝られやしない。でも、頑張って、寝よう。

 身体が、まさに、資本なんだな。役者そのものだ。経験と修行と捉えようと思う。

 親爺、兄者たち、助けられなくて、ごめん。

 俺、皆の分、生きて、何とか、やってくから、見守っててくれ。

                                                                                           ~つづく~


みとぎやの小説・御相伴衆~Escorts   第一章 数馬編④「奴隷の生活」

 御相伴衆の役割が、かなり、明白になってきました。
 彼らは四大大国から、集められた第二皇妃のお気に入りの少年たちでした。イメージイラストを乗せましたが、彼女に関しては、「堪えぬ渇望、男勝りの豊艶な側室」に、その性質や来歴が出ています。

第二皇妃(設定画)

 本当に、諸悪の根源のような彼女ですが、三人の姫である娘たちのことは、甚く可愛がっています。以降、お姫様たちも登場しますので、お楽しみになさってください。

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