萩くんのお仕事 第九話
どうしようか・・・。
オーディションに、第一回の本読みが終わったが・・・。
いや、良かったよ。予想以上に、全てに於いて、ベストのキャスティングも叶ったしね。うんうん。これは、喜ばしいことで・・・あ、露魅さんだ。
「羽奈賀先生、なんか、今回、普通っぽくて、後で、豹変しやしないかしら?彼女」
「ああ、露魅さん、良かったですよ。そう、普通っぽく、地味になって頂く方が、後の演出に生きてきますから」
「やっぱり?じゃあ、頑張ってみますねぇ」
「よろしくお願いします」
「じゃ、先生、お疲れ様」
「お疲れ様です。ありがとうございました」
えーと、芽実ちゃんは・・・?
あああ、志芸野さんに、波多野朱璃ちゃんが、こっちに来る・・・
「ああ、羽奈賀先生、朱璃ちゃん、前は娘役だったんだよねえ」
「本日は、遅れてきてすみませんでした。改めまして、ご挨拶に来ました。羽奈賀先生。宜しくお願いします」
「ああ、志芸野さん、今日は、ありがとうございました。波多野さん、とても、イメージ通りでしたよ」
「ありがとうございます」
「そう、でしたね。前の、あの、刑事もので、しっかりものの娘役でしたね。あのイメージもね、あったんですよね」
もう、適当に、話、合わせるの、天才な俺。
いや、適当じゃないよ、本当にね。
あ・・・、芽実ちゃん、いた。ああ、トイレだったんだなあ。
「どうか、されたんですか?」
「ああ、トイレに行こうかなと」
「ああ、すみません。お引きとめしちゃって」
「ああ、いや、トイレなら、大丈夫、になりました」
「羽奈賀先生?・・・なんか、大丈夫かい?疲れてんじゃないの?」
「大丈夫ですよ。志芸野さん」
「なら、いいけど。じゃ、お疲れ様」
「失礼します」
・・・あ、秦くんと、ああ、ミズキ飲料さんに捕まって、端のスペースに・・・ああ、打ち合わせとか、神崎さんが言ってたなあ。あ、次は、八尋さん。
「今日は、参加できて良かったです。羽奈賀先生」
「ああ、あー、どうも、本当に、八尋さん」
まあ、芽実ちゃん、打ち合わせに入ったから、まずは、よしよし。
「じゃ、僕は、明日こそ、煙霧消えそうなんで、上代監督の方に戻りますので、失礼します。また、宜しくお願いします。今のが終わると、こちらに集中できるスケジュールになりますので」
「あ、はい、宜しくお願いします」
「ありがとうございました」
「はい、お疲れ様でしたー」
よし、うん。ニコニコ、笑顔だ。
芽実ちゃん、CMも上手く行きそうだな、うん。
「先生」
「はいっ?」
あ、神崎さんっ。
「あの子、いいですよね?」
「え?あ、えーと」
「どうしたんですか?あの、次女役の卯月芽実さんですよ」
「あ、えー、そうですかねえ」
「何、言ってるんですか、さっきから、ずっと、彼女のこと見てるじゃあないですか。羽奈賀先生」
え、えーっ。そんな、バレバレなの?俺。サングラスしてるんだけど。神崎さんは、とにかく、霊感があるのかっていうぐらい、侮れないからなあ。
「あ、いや、・・・しかし、なんで、あの子、オーディションのこと、知ったんでしょうかね?」
「・・・まあ、いいんじゃないですか?上手く、収まりましたしね」
「今日は、後、打ち合わせは・・・?」
「そうですね、先程、スケジュールの擦り合わせもしましたしね。後は、こちらで、衣装やセットの方は進めて、確認を後程取りますので。まあ、珍しいぐらいに、今日は上手く進みましたのでね。いいですよ。後は、こちらに任せて。こんな日は、早く、お帰りになって、ゆっくりと、先々の脚本にお取組み頂ければと思いますから、じゃあ、お疲れ様でした」
えー、今日に限って、そんな感じなのか?
いやあ、家に帰る前に、なんとしても、芽実ちゃんを捕まえないといけないなあと思っていて、しかも、他のキャストの皆さんには、オーディションで決まった手前、個人的に繋がっていることが、バレてはいけないし・・・。
どうしようかなあ・・・、
よし、そうだ、ミズキ飲料さんに挨拶をしに行こう。
「はい、ではそのようなことで、宜しくお願いします」
「ああ、羽奈賀先生」
秦くんだ。来た。まあ、いいか。
「すみません。途中から参加で。秦素臣です。あれ、確か、チャンドラーの渦見さんとご一緒した時に、少し・・・」
「ああ、ええ、そう、でしたね」
(すごい、いいなあ) みたいなリアクションしてるぞー。芽実ちゃん。
ミズキ飲料さんも、セットで、ニコニコの営業スマイルされていて。
まあ、それは良いのだが。
「俺ね、エスコーツ出たくて、次回、客演させてもらえないかなって」
あ、芽実ちゃん、目配せ、やめて、それ、止めた方がいいなあ。
(私も、それ賛成、見たいなあ、スオミくん) みたいなの、イラナイから。
「俺、結構、誰でもできる気がするんですけどね・・・」
「あー、そうなんですか?」
実は、俺もそう思ってたりする。空いたら、誰でもいいよ。その今の髪型なら、数馬以外は行けると思うなぁ。
「ねぇ、芽実ちゃんは、どう思う?」
何?もう、そんなに気安いのか?
・・・おい、それって、どうなんだろう?
「え、そんな、私がそんなこと、言ってもいいんですか?」
「っていうか、誰のファン?」
「んーと、案外、柚葉です」
「あ、あれはね、裏表をね、演じ分けできないとね。後、所作だよ」
「わあ、羽奈賀先生から、直接、言われて、嬉しいです」
あ、つい、会話を盛り上げてしまった。上手すぎる、不慣れ感だよ、芽実ちゃん・・・。
「柚葉かあ、うーん、どう思います?羽奈賀先生」
「うーん、まあ、その時だね」
どうせ、オーディションになるからね。
というか、すごい良い話じゃんか、これ。秦くんの客演なんて、こっちから頭を下げて出てもらいたいぐらいだぞ。
「あああ、秦くん、その時はよろしくお願いします」
「こちらこそ」
爽やかだなあ。いい子なんだよなあ。本当に。うんうん。
この役にぴったしだと思っていて。まあ、その実、優馬くんには会ってないんだけどなあ。俺の決めつけなんだけど。
・・・って、芽実ちゃんにも、自然に声掛けしないとね
「えーと・・・」
「今日は、ありがとうございました。羽奈賀先生のドラマに出られるなんて、夢みたいです。選んで頂いて、本当に嬉しいです」
「あ、ああ、そうですか。頑張ってくださいね」
「へえー、本当に今日からデビューってこと、なんだね?」
おい、秦くん、ちょっと、あああ、芽実ちゃん、そんなに嬉しそうにして。・・・それにしても、芽実ちゃん、上手いな。世渡り上手というか、こっちとも繋がってる感じがしないようにしてくれてる感じで・・・。
「素臣くん、そろそろ」
「あ、マネージャーが。じゃあ、これからピンポイントで来ますけど、宜しくお願いします。じゃ、芽実ちゃん、次はCM撮影で」
「はい、ありがとうございました。お疲れ様でした」
え、あ、そうか。CM撮影があるのか。・・って、ミズキ飲料さんも書類を片付け始めたね。
「では、そろそろ、私も失礼致します。羽奈賀先生、宜しくお願い致します」
「あ、はい、ありがとうございます」
「あの、宜しかったら、毎回の撮影にですね、飲み物を差し入れしようと思ってまして・・・」
え、帰るんじゃなかったの?・・・その話は、神崎さんでどうかな?
・・・・・・・・・・
「お疲れー。なるほどねぇ。大変だったねー」
「やっぱり、この人、お抱え運転手さんだったのね」
「・・・っていうか、芽実ちゃん・・・」
悠紀夫に連絡して、来てもらったんだけどね。
あー、助かった。やっと、車の中で、普通モードで話せる。
「すっごい、萩さん、カッコよかったあ。もう、プロの脚本家だから、キレッキレで『あー、そこは、こういう意味だから、こう言ってみてください』とか、あの志芸野さんに言ったりしてるの」
「へえ、そうなんだあ。いいねえ、羽奈賀先生」
何々、こいつらも、早くも馴染んでるぞ。
というか、芽実ちゃんって、人付き合いの鬼というか、人見知りもしない度胸の良さというか、「皆、お友達」感がすごいな。
「まあ、まあ、もうね、決めざるを得なかったよ。君自身の役だからね」
「・・・えへへ、嬉しい。萩さん、ありがとう」
「出てく時、見られてて、次の日に乗せて帰ってくるとはねぇ・・・」
「悠紀夫、お前、」
「えー、俺、何も言ってないよお?」
「え、何々?」
「なんでもないよねえ?萩さーん」
悠紀夫、てめぇ、後で承知しねえぞ。
・・・っつうか、いやあ、何も、何もないですよ。何もね。
本当に、何もなかった。というか、できなかったし・・・。
前日が、そんなことで出かけたとかも言えないし、ああ、そう、そのホテルに、姉妹が恐らく、入れ違いになってるとも言えないし・・・。
そうだっ。大家さんが、奥さんが、この二人の娘の所業を知ってしまったら、どうするんだあ・・・あああ。
・・・って、これ、二郎、いいんじゃないの?追い込まれて行く感じ。よし、四話、五話辺りは、これで行こう。うんうん。できたぞ。よし。
って、一緒に帰ったら、まずはそう、奥さんに、お母さんに、芽実ちゃんのこと、正直に話して、認めてもらおう。そうしよう。痛みがあっても、それは脚本に活かせる可能性がある・・・よし、転んでも、ただじゃあ、起きない脚本家とは、俺のことだ。後は、朱莉ちゃんの件は、自然発生的に事件が起きた時で、良いかなと・・・。
よし、これで肝が座ったと。
「・・・萩さん、ごめんね。勝手なことして」
「ああ、まあ、先に相談し・・・」
「したら、ダメって言うと思ったから」
来た、芽実ちゃん。かぶせ気味に。これ、このまま使うからな。やってね。その時は。・・・えー、まあまあ、事後報告っていうことか・・・。
「まあ・・・、まあ、言ったかもしれないね」
「でも、やりたかったから。今、友達とダンスしてるんだけど、それだけじゃ、つまんないかなあと思い始めて」
「いいじゃんか、萩。やらせてあげなよ」
「まあ、もう決まったからね。やることになりましたからね・・・、正直、上手かったし・・・で、お母さんもそうなんだけど、一番気になってるのはさ、彼氏くんのことね」
「・・・うーん」
「何?まさか」
「うん、大丈夫、きっと、優馬は解ってくれる」
「え、まだ、話してないの?」
「だって、オーディションがあるの、解ったの、数日前だったし・・・」
えーーーーー。それが、一番、不味いわけなんだけど。
「本当に大丈夫なの?芽実ちゃん」
「うーん」
「え?」
「萩さんっ、お願いっ」
えーーーーー。手、合わせてきたよ。まさか。
「一緒に、優馬に話してもらえないかなと思って」
「それ、それを、言ったじゃんか、オーディションの時に」
「まあまあ、作者のたっての願いってことで、言ってあげたらいいんじゃないの?」
「悠紀夫、お前、他人事だと思って、」
「だって、彼氏役なんだろ、あの、戦隊ヒーローの秦なんとかってヤツ」
「ああ、そうだけど・・・」
「イケメンがやるんだよー、君の役ってさ、って、持ち上げて、・・・あれ?」
「優馬は、秦くんよりカッコいいよ」
「うおっ、それはすごいね」
へー、そうなんだぁ。
「岩宿でスカウトされたことがあるよ」
「それはイケメンだ。すごいねえ」
「うん」
会ってみる価値はあるなあ。・・・って、それどころじゃあないっ!
ちょっと、問題が山積みじゃないか?・・・帰るまでに整理しないと・・・はぁ・・・まずは、お母さんに、今日の話をして、で、CM放映前に、できるだけ早めに、優馬くんに会って、許可を取り、もう一つは、朱莉ちゃんの件。
せっかく、ドラマのキャスティングが決まったというのに、このままでは、話がまた、頓挫してしまうぞ・・・どうする、俺?!
~つづく~
みとぎやの小説・連載中 萩くんのお仕事 第九話
お読み頂きまして、ありがとうございました。
なんか、書く仕事が(隠し事が)多いのって、大変だなあ、な回でした。
一難去ってまた一難、の萩くんのお仕事、無事にドラマのクランクアップまで漕ぎ着けるのでしょうか?ずーっと、バタバタしてるよね。いやあ、芽実ちゃんは、台風のようですね。実に、大家の娘二人は、問題ありな感じです。
設定裏話ですが、始め「萩くん」と御相伴衆の「柚葉」は、ほぼ同じ感じで、人物のイラスト設定をしていました。萩くんの方が、右目の斜めした黒子。女の子大好き。柚葉は、色々とありまして、対局的なキャラクターですが、二人は、その実、見た感じが似ていることになっています。モテ男なのは、確実のようです。色を付けると、人種が違うので、髪と目の色が変わります。服装も国が違うので、変わります。
このお話の纏め読みは、こちらからできます。
よろしかったら、是非、お立ち寄りください。