御相伴衆~Escorts 第一章 第七十三話暗澹たる日々③「身体に心が追いつく迄・・・」
朝陽が眩しい。三の姫は、これまでになく早起きをして、柚葉の部屋を訪れようとしていた。
コンコン
「あれ?柚葉、お部屋にいませんか?鍵がかかってる・・・のかな?」
困っていると、廊下の向こうから、女官の暁がやってきた。
「え?・・・まあ、姫様?随分、早起きされて」
「うん、お勉強、ずっとしてなかったから、少し、柚葉に様子、聞いておこうと思って・・・」
「ああ、ちょっと、待ってください、きっと、今、お散歩かしらね・・・」
「慈朗のとこにいるのでしょう?」
「・・・、姫様?・・・えっと、あの」
「もう、暁、驚かないで。姫だって、知ってるもの」
「知ってるって?」
「内緒のこと・・・うーん、あっちのお部屋でご一緒なら、女美架はお邪魔だから、お部屋に帰ります。ありがとう、暁」
姫様。なんか、一足飛びに、大人になられたのですね。物分かりも良すぎるし。ある意味、とても、心配です。あれから、あまり、お召し上がりにもなっていないご様子だし。イチゴのムース、お作りしたのだけれども、半分しか、召し上がってくださらなくて。まあ、お熱も出ていたので、病み上がりということかもしれませんけどね。
暁は、姫の姿を見ながら、そのように思っていた。
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三の姫は、心に決めていた。
そうなんだ・・・学校があるから、数馬には、会わなきゃいけない。でもね、姫は、お勉強、頑張ってくように、って、そっちに、集中することに、決めたんだ。
学校に行く時間となり、玄関に、御相伴衆のメンバーが、それぞれが現れている。・・・ある一人を除いては。
「あ、三の姫様、おはようございます。何か、早朝に、私室にお越しになられたとか?」
「あ、柚葉、あのね、プリント貰えるかな、と思っていたので」
「ああ、はい、今、お渡ししよう、と思っていた所ですよ」
「そうだったんだ」
「朝早くとは、何故、また?」
「うん・・・少し、予習しようかなって」
「それは、良い心がけですね。偉いですよ」
慈朗が、そこへやってきた。
「おはようございます。三の姫様。ああ、お熱下がって、良かったですね。・・少し、痩せちゃったかな?」
「ううん、大丈夫。今日の朝は、しっかり、食べたから。暁にも言われて、心配かけちゃ、いけないんだよね」
「・・・姫、偉すぎるね。僕も頑張る。今度のテストもね、1位、目指さなきゃ」
続いて、急いだ様子で、桐藤が現れた。
「おはようございます。集合に遅れて、済まなかった。では、行きましょう」
玄関には、運転士の渦が、公用車を準備して待っていた。
「姫様、坊ちゃん方、どうぞ」
「はい、姫、行きましょうか・・・姫?」
柚葉が、三の姫のカバンを持ちながら、誘った。
「・・・あの、」
三の姫の戸惑う様子に、桐藤が、すかさず、柚葉から、三の姫のカバンを受け取った。
「数馬なら、学校を辞めました。その分の姫付きのお仕事は、僕が引き受けることになりました」
「え・・・?どうして?」
「数馬の事情です。では、行きましょう。遅刻しますよ」
三の姫は、桐藤と一緒に、車に乗り込んだ。
「あの・・・お姉様のことは、いいの?桐藤」
「一の姫様は、お強い方です。だいぶ、回復されてきたので、お一人で、色々なことをされる時間も、大切かと思います。家のお仕事を学ばれると仰ってますから、その間は、僕も学業や、政の勉学に戻らせて頂きます。先立っての、三の姫様とアーギュ王子のお姿を見て、ご自分も、将来の皇后としてのご自覚を、改めて、持たれたようですね。私からも、お礼を申し上げます」
「桐藤、そうなのね」
「先に進みましょう。共に。振り向いてはなりませんよ、姫」
🎨🔑
もう一台の車には、柚葉と慈朗が乗り込んだ。
「こんなこと言っちゃあ、悪いけどさ。桐藤、よく言ってくれたよね」
「まあね、ああいう時は、強いからな、あいつ」
「あれでいいんだ、うん。もしも、数馬が学校に行くとしたら、お互いに、針の筵で、僕たちも、すごい、気を遣うからね」
「朝、プリント取りに、俺の部屋まで、来たらしいんだ。暁が言ってた」
「へえ、何か、やる気なんだね。前向きになろうとしてる感じだね。・・・でも、僕がいたら、どうしたかな?」
「よりも、お前の部屋に行かないだろう。まだ、数馬もいるってことになってるんだから。まあ、たまたま、俺が、そっち行ってたから、良かったけどね」
「今、数馬、いないのに・・・」
「あの、奥殿の中の部屋にいることは、三の姫様には、知らせない方がいい。多分、桐藤も言わないだろう。だから、慈朗も黙っててやって。怪我したこと自体もね。怪我の治療に、全治一か月、かかるらしいから、お互いに、顔を合わせずにいれば、数馬にとっては、心のリハビリにも、丁度いいんじゃないかな?・・・まあ、あとね、良くなって来たら、大体、何が行われるかも、想像つくけどね」
「お妃様の御渡り?」
「まあ、そんなとこ、じゃないかな?」
「うん、それが、いいかもね」
「・・・」
🔑・・・
🍓🎨
学校の授業、頑張って、聞いてるの。そういうご報告で、いいのかな。王子にも。王子は、文章もお上手で、私にも、わかりやすく書いてくださるし、お写真だけの日もあるのね。そんなのでも、いいのかもね。御菓子作ったら、写真を送ろうかな・・・メールって、初めてで。
休み時間、教室で、三の姫は、ぼんやりとアーギュ王太子のことを考えていた。すると、慈朗が隣から、声をかけた。
「姫、大丈夫?」
「こないだ、ありがとう、慈朗」
「ううん、僕のことも、黙っててくれて、ありがとう」
「休み時間、いつもなら、数馬もいるのにな」
「まあねえ、僕がいるじゃん、教室違うけど、桐藤もいるし、柚葉もいる」
「うん、そうだね」
「偉いね。頑張ってるの。一緒に、頑張ろうね」
「あのさ、ここ、わかんないの、算術の・・・」
「ああ、うん、これ公式、覚えた?まず、覚えないとダメだから、それから、代入して・・・」
「慈朗、柚葉みたい、教え方、似てるよ」
「あ、そうかな。解り易いんだよね。柚葉の説明。そうだったら、いいんだけど」
皆、気を遣ってくれてる。
慈朗に一番、聞きやすいから、聞きたいけど。
数馬の姿をあれ以来、見てないし、・・・どうしちゃったのかな?
本殿のどこにもいない感じがするけど、皆が普通にしてる、っていうことは、ちゃんといるのだと思うから。
あの日、お部屋に帰ったら、お部屋の数馬のお荷物、なくなってて、すごく、悲しくなった。女美架が王子の所に行ったから、数馬はもう、お部屋にいてはいけなくなったんだろうな。だから、お見送りよりも、そっちが優先で、姫が帰って来たら、お部屋、綺麗になってて、食器も全部、片づけられてた。すごい、寂しくて、そう思っていたら、もう、王子からメール入ってた。
女美架、解んなくなって、いっぱい泣いて、暁が心配してきてくれたら、お熱が出てた。泣いたの、頭痛いから、って、ごまかしたんだけど、暁は、姫の何かに気が付いてるみたいで、とても、優しくしてくれた。
一人になってから、ようやっと、アーギュ王子のメール見たんだけどね。
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ああ、最後のとこ、わかんない。ランサム語なんだ。これ見せて、柚葉に聞けないしな。うん、「恋物」読みたかった時みたいに、ランサム語を勉強すれば、いいんだね。お返事、こんなに、書けなそうだな・・・どうしよう。
王子に、直接、聞いちゃうのもいいのかもしれないな。ランサム語、教えて貰おうかな。まずは、辞書、一つずつ、単語を引いて。
わあ、なんか、凄いね。西の人って、『恋物』みたいなこと、本当に、すごい、言うんだね。スメラギ語の部分でも、充分なのに・・・
「私がどれだけ、貴女のことを愛しているか、知ってほしい」
『恋物』過ぎる・・・。
女美架、思ったんだけど、内緒で、こういう風にしたかったのかな、王子って。「保留」って、そういうことかも。今度、聞いてみようかな・・・なんか、よく解らなくなってきた。熱い・・・寝ようかな・・・お熱のことは、王子には言わない。心配させるから。
🍓🦚
以来、三の姫の元へは、日々、欠かさずに、アーギュ王子からのメールが届いていた。時に、先程のような熱烈な文章であったり、忙しい時には、写真が多いようだ。さりげない、日常の写真。ティーカップを近景に、ぼんやりとしたランサムの町が窓越しに移っているものなど、大きく彼の姿を映したものはないが、時折、見切れている、彼の手や、指先が被写体としても、効果を発していた。やはり、良く仕組まれている。この手で、指先で、と、見るにつけ、三の姫を疼かせる。
・・・忘れさせませんよ。思い出してくださいね。
気になり、質問をしていた、美術図鑑の写真は、彼が抱えたであろう形で映されていた。開襟のブラウスが、大きく、拡がっていた。これには、様々な憶測が生まれる。あんなこと言って、その後ろには、私よりも綺麗な大人の女性がいるのではないかしら・・・。
そこまで、勘ぐった所で、三の姫は、自省する。
そんなこと、どうして、考えてしまうのだろうか?数馬と天真爛漫に会話をして、お互いに、大事にしあって、『奥許し』を迎えた、その感覚と、ずれていくものを感じる。こんな、妬きもちみたいな妄想したりしたことなんか、なかったのに・・・大人の恋とは、より機微に満ちたものであり、甘さだけでなく、ほろ苦さが伴う。初めて、ブラックコーヒーを、口にした時のように。
そうなのだ。気が付いたら、傍にいない筈の、彼のことばかり、考えている。数馬は傍にいて、自分を支え、安心させてくれる存在だった。しかし、アーギュは、離れていながら、こんなに自分を支配し、不安にさせる。思い起こす記憶は、唯一、二人きりになった、あの東屋でのこと・・・
女美架は、本当に、王子のこと、・・・なんか、されたからとかじゃなくって・・・
✨🦚✨
もう少しですよ、姫。身体の記憶に、心が追いつくまでに。
頃合いを見て、お伺いしますね。僕たちのお味方が、準備して下さるとのことです。
国や、大人たちの思惑に、翻弄されずにね、市井の恋人同士のようにね。本当の気持ちを交わしたいだけ・・・だから、『保留』なのです。
自信?・・・いいえ、そんなものはありませんよ。
余裕・・・だとか?・・・そんなものもありません。
私は、ひたすら、貴女が求めてくださるのを、日々願い、待ち焦がれているだけですから。
~暗澹たる日々④へつづく~
みとぎやのメンバーシップ特典 第七十三話 暗澹たる日々③
「身体に心が追いつく迄・・・」 御相伴衆~Escorts 第一章
三の姫とアーギュ王太子のパートです。
明らかに、三の姫が、アーギュ王子との恋に目覚めていく感じなのです。アーギュ王子の方は、女性のことに、枚挙に暇がない方ですから、こんな感じになるのかもしれませんが・・・。
個人的には、どうか、アーギュ王子には、よそ見をしないでほしい、と祈るばかりです。次回は、数馬のパートになります。
今回もお読み頂きまして、ありがとうございます。
次回もお楽しみになさってください🍀✨
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