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生まれ育った環境が空間探索能力を規定する

📖 文献情報 と 抄録和訳

将来の空間ナビゲーション能力に関連する都市道路網のエントロピーの変化

Coutrot, Antoine, et al. "Entropy of city street networks linked to future spatial navigation ability." Nature (2022): 1-7.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar, Nature Japan

🔑 Key points
- 都市部以外で育った人々は、都市環境(特に道路が格子状に整備されている地域)で育った人々よりもナビゲーション(移動において適切な経路を選択すること)がうまい可能性があることを示唆した論文が、Nature に掲載された。
- 今回の知見は、格子状に整備された街路などの都市設計と我々の環境が、認知能力と脳機能に影響を及ぼすことを示している。

[背景・目的] 環境の文化的・地理的特性は、認知やメンタルヘルスに深く影響することが示されている。緑地の近くに住むことは強く有益であることが分かっており、都市に住むことはいくつかの精神疾患の高いリスクと関連している。ただし、大都市に見られる社会経済ネットワークの密度はうつに対するバッファーを提供するとする研究もある。しかし、育った環境がその後の認知能力にどのように影響するかは、まだ十分に理解されていない。ここでは、ビデオゲームに組み込まれた認知課題を用いて、世界38カ国の397,162人の非言語的空間ナビゲーション能力を測定した。

[方法] 2種類のテレビゲームに組み込まれた認知課題を用いて、38か国の39万7162人の空間ナビゲーション能力を測定した。参加者は、出発地点といくつかのチェックポイントの場所を示した地図を決められた順序で提示された。

[結果] 構造化の度合いが高く、格子状に整備された都市(例えば、米国シカゴ)で育った人は、規則性のある配置のゲームレベルでの成績が良かった。これに対して、都市部以外や規則性の低い配置の都市(例えば、チェコ共和国・プラハ)で育った人は、複雑度の高いゲームレベルでのナビゲーションの成績が高かった。

スクリーンショット 2022-05-11 7.07.42

✅ 図. a, b, 380都市で各1,000経路のシミュレーションを行った。SNEが高い都市(a:チェコ・プラハ)と低い都市(b:アメリカ・シカゴ)の代表的な4つの経路例を示している。

[結論] 今回の知見は、人々が育った環境(特に街路の構造)がナビゲーション能力に影響を及ぼし、育った場所と構造的に類似した環境でのナビゲーションの成績が高いことを示唆している。これらの違いが小児期にどのように表れるかを調べるためには、さらなる研究が必要である。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

以前、noteの中で変化の順番、という概念について説明した。

✅ 変化の順番
- Phase1. 機能需要が変化する
- Phase2. 可逆的な変化が生じる
- Phase3. 不可逆的な変化が生じる

今回の研究は、人間の空間における探索能力もそうだ、ということを示唆した。
約40万人のデータ、さすがNature論文、もはや異次元スケールである。
この研究の結論を一言でいえば「規則化が進んだ世界では規則理解が、不規則な世界では未開への探索能力が発達する」だろう。

さて、昨今あらゆる領域において「規則化・標準化」が推し進められている。
世界は規則化への道を爆進している。
その方が、効率的だから、自動化できるから、スッキリするから、共有しやすいから、数多の利得があろう。
そんな現代人は、アマゾン奥地を素手で切り拓いていた祖先より、未開への探索能力は明らかに乏しいことが推察される。
そして、今後、その傾向はさらに加速することだろう。

病院環境だってそうだ。
どんどん安全に、バリアフリーに、易しくなりつつある。
良いことか、悪いことかと聞かれれば、「良いこと」と答える。
だが、その良さは、病院にとっての、短期的な成功を約束するにすぎないのではないか?
すなわち、院内での事故を起こさないという成功。
患者にとっては、退院してからが本番であり、アマゾン奥地への探索となる。
そして、安全すぎる環境は、危険や未知への探索や適応能力の不使用を意味する。
だから、退院直後がもっとも転倒にとって危険なタイムポイントとなっているのだ。

スライド2

✅ 退院直後は転倒にとって最も危険なタイムポイント
- 後方視的に転倒,福祉用具貸与,住宅改修の有無を退院から180日まで30日毎に調査し,各時期の比較を行った.
- その結果、転倒件(42.9%),福祉用具貸与(72,.2%),住宅改修(61.5%)ともに退院から30日以内に最も件数が多く、その後漸減、後半90日間では発生件数が極端に少なくなった
📕海津陽一, 他. 生活混乱期における訪問リハビリテーションの役割と効果: 転倒, ADL 自立度, 活動性に着目して. 地域リハビリテーション 15.2 (2020): 117-122. >>> site.

規則化された環境の良さ、不規則で未知な環境の良さ。
そのどちらにも、恩恵を授かりたい。
これは、贅沢なのだろうか。
両者の良さをしっかり兼ね備えた病院環境、集団システム、追求したい!

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