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頭部前方位姿勢の矯正。肩甲骨安定化運動を追加せよ

📖 文献情報 と 抄録和訳

姿勢矯正エクササイズに肩甲骨スタビライゼーションを追加することによる症候性頭部前方姿勢への影響:無作為化試験

📕Alshaymaa, S., et al. "Impact of adding scapular stabilization to postural correctional exercises on symptomatic forward head posture: randomized trials." European Journal of Physical and Rehabilitation Medicine 2022 October;58(5):757-66 https://doi.org/10.23736/S1973-9087.22.07361-0
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> Not applicable

[背景・目的] 最も広く見られる姿勢異常の一つに頭部前方位姿勢FHP(Forward Head Posture)があり、これは体幹に対して頭部が前方に突出し、主に矢状面に現れるとされている。肩甲骨安定化運動(scapular stabilization excercise, SSE)は、頸部と肩の筋肉の相互作用と肩甲骨の位置と動きの制御により、胸郭と頭部のそれぞれを最適な位置に戻すことが可能である。目的:本研究は、姿勢矯正運動(postural correctional exercises, PCE)に肩甲骨安定化運動(SSE)を追加することによる症候性FHPへの影響を検討するために実施された。

[方法] DESIGN:プリポスト・シングルマスク(評価者)無作為化実験試験。セッティング 理学療法学科外来に入院しているFHPのような姿勢機能不全を有する参加者。対象者:理学療法学科外来診療所から募集された症候性FHPを有する60名(20~35歳)。方法:参加者は整形外科医から紹介された2つのグループに不透明な密封封筒で無作為に割り付けられた。グループAはSSEと姿勢矯正エクササイズを、グループBは姿勢矯正エクササイズのみを行い、週3回、10週間治療を行った。治療前と治療後の評価として、頭蓋椎角、圧痛閾値、頚部屈筋・伸筋持久力、Arabic neck disability index、安静時と活動時の上部僧帽筋と胸鎖乳突筋の平方根平均を用いた。

✅ 肩甲骨安定化運動(scapular stabilization exercise, SSE)の詳細
・仰臥位で、患者に深呼吸をして体をリラックスさせるよう指示した。
・仰臥位で利き腕を肩関節屈曲90°まで上げ、肘を完全に伸展させ肩甲骨を伸展させる。
・四つ這いでは、肩の外転と120°の屈曲で交互に腕を上げる。
・座位では、背もたれのないスツールやベッドに膝を90°屈曲させ、両手にダンベル(2kg)を持ち、肩甲骨の高さを80°以下に維持しながら横方向に持ち上げる。各段階を10秒間保持した後、開始位置に戻るよう指示し、30秒間の休止を挟んで10回×3セットを完了した。座位では、患者は鏡の前に座っていた。その後、自分で姿勢の確認と修正をさせた。
・T→Y→Wエクササイズ:スイスボール上に腹臥位で腕を90°に外転させ(Tの字)、次に肘を90°に屈曲し、肩甲骨を後退させて腕を90°外転させたまま外転させるよう指示した。肩甲骨の後退を維持したまま、腕を頭上に上げ、腕を120°に屈曲・外転させたまま肘を伸ばしてもらった(Yの字)。肩甲骨の後退を維持したまま、肘を曲げ、肩を伸ばして「W」の字を描いた。
・肩甲骨時計運動:関節運動感覚(ポジショニング、姿勢、安全な動作の固有感覚を養う)、可動域に加えて、肩甲骨の運動(挙上、陥没、伸展、収縮)を緩和するために用いた2番目の運動であった。壁際に立ち、ボールに手を添えて押しながら、頭に浮かんだ架空の時計をもとに3時、6時、9時、12時を表示するように動かしてもらった。

✅ 姿勢矯正運動(postural correctional exercises, PCE)の詳細
・プログラムは4つのエクササイズで構成され、そのうち2つは強化(頚部深屈筋と肩甲骨引込筋)、残りの2つは頚部伸筋(後頭下筋と大胸筋)のストレッチであった。
・頸部深部屈筋の強化に関しては、各患者は腕を横にリラックスさせて座るように指示された。セラピストは鼻の下と唇の上に軽く触れた後、患者に首をかしげるように指示した。
・肩甲骨引込筋の強化は、背もたれのない椅子に座った状態から開始した。患者は肩甲骨の下角を縮めるように力を入れ、セラピストはこの動きに軽く抵抗した。患者は、肩甲骨の間に25セント硬貨を挟むようにイメージする。次に、両手を腰に添えて立ち、肩甲骨を内転させる。
・これらのエクササイズを1セット12回、6秒間の保持で3セット行った。

[結果] 60名のグループ内分析では、ベースラインと治療後の間にP値<0.05の統計的有意差があり、SSE運動群でより洗練されていることが報告された。

[結論] PCEにSSEを追加することは、FHP患者の管理において、PCEをほとんど行わない場合よりも効果的な方法である。肩甲骨安定化運動と姿勢矯正運動は、ともに頭蓋椎角と圧痛閾値(pressure pain threshold, PPT)を増加させ、筋活動および障害を減少させる。肩甲骨の安定化のみでは、姿勢矯正運動よりも頭蓋角とPPTを増加させ、筋活動や障害を減少させることが分かった。また、すべての変数に統計学的な有意差が認められたが、障害のみ臨床的な変化がみられた。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

1つ、試してみてほしいことがある。
肩甲骨を背中の中央部に引き寄せる(リトラクション)と両肩甲骨の距離を引き離すように前方突出させる(プロトラクション)をしてみてほしい。
注目してほしいことは、そのときの自分の脊椎の肢位だ。
リトラクションには脊椎の伸展が、プロトラクションには脊椎の屈曲がセットになることに気づくと思う。

このように、脊椎運動と肩甲骨運動は、非常に密接に関連していて、脊椎の肢位や運動をコントロールしたい時には、操縦舵の様に肩甲骨運動を利用することができる。
その関係性は、大きな船の方向性を決める『トリムタブ』を想起させる。

✅ トリムタブとは?
・船の構造の一部を指し示す言葉。
・トリム・タブは「舵についた小さな舵」で、舵全体のほんの一部分の大きさしかない。
・だが、その小さなトリム・タブの少しの方向転換が、大きな船の大きな進行変更を生む。

姿勢矯正にトライしたい、姿勢矯正を目的とした治療をしたい。
そんなときには、肩甲骨運動に習熟し、実践できることが近道のように感じる。
今回のエビデンスも、それを支持した。

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