習慣レバレッジの威力:歯磨き中にバランスを鍛える
📖 文献情報 と 抄録和訳
健常児における毎日の歯磨き時のバランス運動がバランス能力に及ぼす影響
Muehlbauer T, Waldermann F. Effects of balance exercises during daily tooth brushing on balance performance in healthy children. Gait Posture. 2021 Dec 28;92:449-454.
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar
🔑 Key points
- 毎日の歯磨き時のバランス運動による影響は不明である。
- 歯磨き中のバランス運動は、実行可能で効果的であることが証明された。
- 健康な子供の姿勢制御を改善するために、日課を利用することができる。
[背景・目的] 概要背景監視下でのバランストレーニングは、小児のバランス能力の向上に有効であるが、人材、材料、時間の面で比較的コストがかかることが示されている。歯磨きなどの日常生活にバランス練習を取り入れることで、これらの必要性を軽減できるが、その有効性は不明である。本研究では、健康な小児を対象に、毎日の歯磨き中に行うバランス運動が静的・動的バランスの測定に与える影響について検討した。
[方法] 健常児55名を介入群(n=32、年齢9.5±0.7歳)と対照群(n=23、年齢9.2±0.5歳)のいずれかに割り付けた。介入群の参加者は、8週間にわたり、毎日(1日2セッション×1セッション3分)、歯磨きをしながら漸進的なバランス運動を実施した。介入期間前後に静的バランス(タイムド片足立ちテスト[OLS])および動的バランス(下半身Yバランステスト[YBT-LQ])のテストを行った。
✅ 歯磨き時のバランス練習の具体的内容と注意点
- 運動時間は 336 分(1 回 3 分×1 日 2 回×週 7 日×8 週間)であった
- 最初の4週間は二足歩行によるバランス運動(第1週:固い地面で目を開けてのステップ立位、第2週:丸めたタオルを用いたコンプライアントな表面で目を開けてのステップ立位、第3週:固い地面で目を開けてのタンデム立位、第4週:丸めたタオルを用いたコンプライアントな表面で目を開けてのタンデム立位)
- 後半4週間は片脚立位運動(第5週:目を開けての片脚立位)を実施した。第 5 週:固い地面で目を開けた片脚立位、第 6 週:固い地面で目を閉じた片脚立位、第 7 週:丸めたタオルを使用したコンプライアントな表面で目を開けた片脚立位、第 8 週:丸めたタオルを使用したコンプライアントな表面で目を閉じた片脚立位) の運動で、片脚立位を行った。
- すべてのバランス運動は靴を履かずに行った。
- 介入期間前に、INT群の参加者は、バランス運動の正しい実施方法について絵と説明が書かれたカードを受け取った。
- さらに、保護者には、3分間の運動や歯磨きの時間に立ち会うことと、この時間をあらかじめ設定すること(例:砂時計、携帯電話のストップウォッチ、デフォルトの電動歯ブラシ)を求めるとともに、研究手順についての情報を記載した手紙を渡した。
[結果] 介入群の参加者の運動継続率は98%であった。OLSの4つの立脚条件のうち3つ、およびYBT-LQのすべての到達方向で、介入群に有利な有意なテスト×群間交互作用が検出された。
[結論] 8週間にわたる歯磨き中のバランス練習は、実行可能であり(すなわち、高いアドヒアランス率)、効果的であることが証明された(すなわち、静的および動的バランスパフォーマンスの向上)ので、健康な子供の姿勢制御を改善するために推奨される。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
まず、習慣レバレッジについておさらいしておく。
✅ 週間レバレッジの概要とその方法(関連エビデンスなど詳細はnote参照)
- 既に習慣となっている行動とセットにして新習慣を行うことで定着が望める
- 方法は以下の通り
①既に習慣となっている行動を一つ選ぶ。
②足がかりの習慣の直前(直後)に新しい習慣を行う。
- ポイントは、食事のように、毎日必ず同じ時間に行うADLとセットにすること
今回の研究の場合には、かなり徹底して歯磨き時のバランス練習を行っている。
そして、しっかりと結果も出している。
1日約10分間(1日3分×3回→9分)運動できたら、結果も出るであろう。
これを足がかりに考えたいのは、「入院中の患者群に習慣レバレッジをいかに活用するか?」だ。
まず、入院中の患者群が有する、既存の習慣リストを考えてみる。
- 起床(好都合にも、病院の起床時間は大抵の場合、決まっている)
- 3度の食事
- 3度の歯磨き
- エレベータ待ち時間
- リハビリ
- 入浴
これに、何を組み合わせることができるだろうか。
3つ、考えてみた。
①歯磨き時の下肢筋力トレーニング:座位でできる膝伸展、股関節屈曲、地面踏ん張り(等尺性)etc
②エレベータ待ち時間に筋力トレーニング:肩甲帯周囲の運動 etc
③食事前のテイスティングタイム:毎度の食事の直前に「テイスティングタイム(匂いを嗅ぐ時間)」を3分間くらい設けるのだ。それによって、「うつ、注意、記憶、言語機能」の改善を見込める。
考えてみて思ったのだが、入院中の生活というものは「習慣」だらけである。
決まった時間に何かをする、ということで集団生活が成り立っている。
言い換えれば、「習慣レバレッジの足がかりの宝庫」といえる。
既存の習慣という資源を、どのように活用していけるだろう?
さらに知見を集め、アイデアを創出し、現実を変えてみたい。
○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪
↓↓↓
‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●○
#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス