寝たきり患者への介入。関節可動域(ROM)練習が血流量を増大させる
📖 文献情報 と 抄録和訳
慢性的に寝たきりの高齢者における血管機能を刺激するための反復受動モビライゼーション。無作為化比較試験
Pedrinolla, Anna, et al. "Repeated Passive Mobilization to Stimulate Vascular Function in Individuals of Advanced Age Who Are Chronically Bedridden: A Randomized Controlled Trial." The Journals of Gerontology: Series A 77.3 (2022): 588-596.
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar
[背景・目的] 慢性的なベッドレストによる副作用として、血管機能障害とそれに伴う障害が挙げられるが、その治療法として受動モビライゼーションはこれまで理論的にしか説明されていない。本研究では、高齢の慢性寝たきり患者を対象に、受動的モビライゼーション治療が血管機能に及ぼす影響について検討した。
[方法] 研究対象者は高齢の慢性寝たきり45人(平均年齢87歳、女性56%、平均寝たきり期間4年)で、治療群(n=23)と対照群(CTRL、n=22)に無作為に割り付けた。治療群には1日2回(30分、5回/週)の受動的モビライゼーションを4週間実施した。キネシオロジストが片方の脚に1Hzで膝の屈伸を行う受動的モビライゼーションを行った(治療脚[T-leg] vs 対照脚[Ctrl-leg])。CTRL群にはルーチンの治療を行った。主要アウトカムは、総大腿動脈での単回受動脚動作試験で測定したピーク血流量の変化(△ピーク)であった。
✅ 受動的モビライゼーションの具体的内容
- 経験豊富なセラピストが、1日2回、毎日、週5日(月~金)、4週間、受動的動員を実施
- 受動モビライゼーションは片脚に行われ、1分間の運動と1分間の休息からなり、合計30分間(15分間の受動モビライゼーションと15分間の休息)
- 被験者は、背中が支持された状態の端座位
- 非治療側の脚はまっすぐ伸ばし、足を柔らかい支持体の上に置いた
- 受動運動は、1Hzの周波数で90°の可動域(0°から始まり、90°になり、0°に戻る)で受動的に膝を屈曲-伸展させるもの
- モビライゼーションは膝の屈曲-伸展のみで、大腿部は静止したまま
[結果] 治療群では両脚で∆Peakが増加した(T-legで+90.9 mL/min、p < .001、Ctrl-legで+25.7 mL/min、p = .039)。CTRL群ではルーチン治療後のピーク血流に差は認められなかった。
[結論] 4週間の受動的モビライゼーションによる血管機能の改善は、治療群で記録された。受動的モビライゼーションは、重度の運動制限者の血管機能障害を治療する効果的な戦略として、標準的な臨床診療に有利に組み入れられる可能性がある。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
リハビリテーション介入には、極論、2つの方向性に分かれる。
創造的介入効果と、維持的介入効果の2つ。
創造的介入効果は、リハ介入によって現在できないもの、ないものをつくりだす効果。たとえば、歩けなかった患者が歩行自立することなど。
一方、維持的介入効果は、現在あるもの、できているものを失わない効果。たとえば、寝たきり患者の関節可動域の維持、褥瘡をつくらないなど。
何かを得る介入は、分かりやすいし、目に見えるし、素晴らしい。
同じように、何かを無くさない介入だって、尊いはず。
だが、軽視されていないか。目に見えないからといって、何も変わっていないからといって。
今回の抄読論文は、1日15分×2回の関節可動域練習が下肢血流量を増大することを明らかにした。
今回の論文で重要だと思っているのは、量と質を明らかにしたことだ。
膝関節の屈伸ROMを15分間×1日2回やれば、血流量の増大を見込めるという手応え。
この明らかな手応えを持てることが、維持的介入にとっては重要だ。
なにしろ、効果自体は目に見えにくいものだから。
そして、下肢の血流は、下肢を構成するすべての組織にとって兵糧だ。
新たな細胞を作り、代謝物を除去し、免疫を供給する。
その血流は、筋の同化、関節可動域の維持、褥瘡や壊死の予防に支流するだろう。
当たり前にあるものの継続は、効果として認識されにくい。
いま、この生活や、この平和が、驚くほど空気的であるように。
だが、失われてからでは、遅いこともある。
失われる前に知り、失わないこと。
そのために、実験やシミュレーションや研究がある。
知は力なり。
プロメテウスになろう。
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