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病者の経験を知る


📖 文献情報 と 抄録和訳

運動および感覚機能障害を持つ人々の経験とはどのようなものだろうか? 質的研究の系統的レビューとテーマ別統合

📕Bailey, Cate, et al. "What are the experiences of people with motor and sensory functional neurological disorder? A systematic review and thematic synthesis of qualitative studies." Disability and Rehabilitation (2024): 1-15. https://doi.org/10.1080/09638288.2024.2333491
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[背景・目的] 機能性神経疾患は一般的であり、強いスティグマを伴い、重大な障害と関連している。本レビューは、運動および/または感覚障害(functional neurological disorder, FDN)を抱える人々の経験を探る質的研究を統合することを目的とした。彼らのニーズを特定することで、サービス開発や医療従事者への教育に役立て、今後の研究質問を生み出すことができる。

[方法] 2022年11月に5つのデータベース(Medline、PsychInfo、Web of Science、Embase、Cinahl)を系統的に検索し、2023年6月に更新した。 2名の著者が対象論文のデータを抽出し、Critical Appraisal Skills Programme(CASP)を用いて研究を批判的に評価した。 データをテーマごとに分析し、統合した。

✅ FND(Functional Neurological Disorders)の定義
・FNDは、神経学的疾患によらないが、運動・感覚麻痺、ジストニア、震え、感覚障害、言語障害、発作などの症状を引き起こし、重大な疾患や障害をもたらす状態である。
<症状の例>
・麻痺や脱力(paralysis or weakness)
・歩行障害(gait disorders)
・震えや不随意運動(tremors, myoclonus, tics)
・感覚障害(altered or absent sensation)
・話す、飲み込む、咳をする機能の障害(functional communication, swallowing, and cough disorders)

[結果] 12件の論文が、FND患者156人の見解を記述した統合に含まれた。全体的なテーマは「不確実性」であり、FNDの原因と、それとどう向き合っていくかについてであった。不確実性は、5つの分析テーマによって裏付けられた。

1. 原因は誰または何なのか?
・患者は、自分の症状の原因を理解しようとする中で、自分自身、身体、または外部要因に責任を帰属させることが多い。
・この過程では自己責任の感覚や罪悪感が生じることもある。
2. 医療者との困難な関係
・診断に至るまでの医療者とのやり取りが、患者にとってストレスや挫折感の原因となることが多い。
・否定的な診断や症状の心理的説明は、患者に不信感を抱かせる。
3. 目に見える障害と目に見えない病気
・FNDの症状は時に目に見える形で現れる(例:歩行障害、痙攣)一方で、社会や医療の中でその病気自体が理解されていないことから、「見えない病気」として扱われることが多い。
・この二重性が患者の孤立感を深める。
4. 診断までの長い道のり
・多くの患者は診断に至るまでに複数の専門家を訪れる必要があり、しばしば誤診や治療の失敗を経験する。
・これが患者にさらなる不確実性と混乱をもたらす。
5. 力とコントロールの喪失
・ 症状により日常生活や身体の制御が困難になることが、患者の自己効力感や未来に対する期待を損なう。
・これにより、患者は不安や無力感を抱えることがある。

[結論] FNDの早期かつ明確な診断、検証、およびFNDとともに生きるための支援は、多分野にわたるケアの一部として行われるべきである。臨床医、患者、および一般の人々を対象とした共同開発サービス、研究課題、および教育は、スティグマを軽減し、FNDを持つ人々の経験を改善するだろう。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

「これから、どうなっちゃうんだろうね。本当に不安だよ。今後のことが分からないんだから・・・」

患者さんは、コミュニケーションの中で、こんな言葉を漏らすことがある。
未来に対する不確定要素の多さ、不安。
これは、常々患者さんと関わっている中で、メンタルストレスの大きな要因となっていると感じていた。
今回の抄読研究は、これまでの患者さんの経験をシステマティックレビューによって網羅的に統合し、主題、関連する5テーマとしてまとめてくれた。
その中の最も中心的な議題こそ、『不確実性(Uncertainty)』であった。

僕たち人間は、今を生きているようでいて、少し先の未来を見て動いている、常に。
(今日は仕事がありそうだから)朝7時までに準備をして、出勤する。
(1ヶ月後に勉強会を主催するから)今日は、その勉強会の準備をする。
(少し先に電柱があるように見えるから)右に避けるように歩く。

意識せずとも、このように少し先の未来に対して、今の行動がある、という場合がほとんどだ。
じゃあ、その少し先の未来が見えなくなったら・・・?
おそらく、これまでの行動決定パターンとはまったく違ったプロセスを見出さなければならなくなるだろう。
これまでやってきた思考様式、行動様式では、対処できないのだ。
そこに訪れるのは、『パニック』ではないだろうか。
「どうすればいいんだ!!!!?」という。
その谷を乗り越えて、今日1日のリハビリに従事しているのだ、患者さんは。
その不確実な未来を、少しでも明るい、少しでも善いと思える方へ、そこに向かえるように一緒に歩け。
不確実ということは、もちろん負の方向もある、だが正の方向もあることを強く信じて歩け。
患者さんに訪れている精神的なパニックの1%でも受け持って、危機感をもって1日に臨め。
自戒を強めてくれた、そんな論文であった。

僕もそのことに昨日気づいたばかりだ。
ここは可能性の世界だってね。
ここには何もかもがあるし、何もかもがない。

【世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド】

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