命令を聞かせるのではなく、意義/目的と行動指針を見せよう
📖 文献情報 と 抄録和訳
プロソーシャルなナッジと視覚的指標は社会的距離を増加させるが、権威的なナッジは増加させない
📕Banker, Mohin, et al. "Prosocial nudges and visual indicators increase social distancing, but authoritative nudges do not." Proceedings of the National Academy of Sciences 119.33 (2022): e2116156119. https://doi.org/10.1073/pnas.2116156119
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✅ 前提知識:ナッジとは何か?
・ナッジとは、行動科学の知見から、望ましい行動をとれるよう人を後押しするアプローチのこと。
・多額の経済的インセンティブや罰則といった手段を用いるのではなく、「人が意思決定する際の環境をデザインすることで、自発的な行動変容を促す」のが特徴
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💡 Science誌の論文評
🔹COVID-19パンデミック時の公衆衛生コミュニケーションでは、社会的距離の取り方、マスク、手洗いを実践するよう医療当局からの指導が強調された。
🔹しかし、これらの権威あるメッセージ(すなわち、「COVID-19の公式ガイドラインを破るな」)は、心理的リアクタンスのため、コンプライアンスを動機付ける最も効果的な方法ではない可能性がある。
🔹2021年1月中の実地調査において、Bankerらは、混雑度に関する色分けされた視覚指標を提示した米国の主要空港で、57,000人以上の旅行者のデータを分析した。
🔹視覚指標には、短いメッセージが添えられていた(例:「自分の身を守ろう。 混雑していないエリアは緑の方に行こう」等)。
🔹疾病管理予防センター(CDC)による権威的なナッジと比較して、非公式なナッジを伴う視覚指標は空港内でより社会的距離を置く動機付けとなり、より権威的なメッセージよりも病原体の感染予防に効果的である可能性が示された。
[背景] 社会的距離をとることで、COVID-19やその他の空気感染する病気の感染を減らすことができる。社会的距離感を高めるさまざまな方法を検証するため、米国の主要空港で、混雑度を色分けして視覚的に表示するシステムを用いてフィールド実験を実施した。
[方法-結果] この視覚的指標を、COVID-19の予防行動を高めるためによく使われるナッジで補完した。57,146人の旅行者のデータを分析した結果、視覚的指標とナッジが社会的距離に有意に影響することがわかった。視覚的な指標を導入することで、社会的距離をとる旅行者の割合が増加し、この正の効果は、個人的利益(「自分を守る」)と公共的利益(「他人を守る」)に焦点を当てたナッジを導入することで強化された。逆に、疾病管理予防センターに言及した権威的なナッジ(「CDC COVID-19ガイドラインを破るな」)は、社会的距離を置く行動を変化させなかった。
[結論] この結果は、視覚的な指標と情報に基づくナッジが社会的距離を押し上げ、伝染病の蔓延を抑制する可能性があることを示している。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
僕たちにできることは、堀をほっておくことだけだ。
水(他人の感情)の流れを外的に操作しようとしても役立たない。
水は、どこまでも自由で、それ自体にしか行き先は選択できない。
だから、できることは『したい気』を起こさせる環境や外的刺激を与えることだけだ。
『ソーシャルディスタンス取ってください。それが国や県や病院の指針なので』
こう言われたとき、ギュッと心を握り込まれたような感覚になる。
縮こまる。
それは、「意味がわからない」からだ。
「あなた方がそうした方が良い理由」が権威とだけ結びつき、真の利得や意義と分断されているとき、人は大きな違和感、嫌悪感を感じるのではないだろうか。
権威的なナッジの場合、結果として起こるのは「監視下でなければその行動を取らない職員」の産生。
なぜなら、その行動を取る意義が『恐怖からの逃走』でしかなく、真の利得や意義と結びついていないから。
一方で、視覚指標ナッジは、他人の心身を権威によって鷲掴みにして動かそうとするものではない。
それは、その行動を取ることでのあなたにとっての利得・意義と、そのための環境・行動指針を掲示するだけだ。
その情報は、積極的に攻めてこない、攻撃してこない。
ただ、そこにある。
だから、自分自身で得にいける中立的な情報だ。
そしてこれが大事なことだと思うのだが、自分自身で『選択』できる。
僕たちは、買わされるのは大嫌いだが、自分で選んで買うのは大好きだ。
自分で選びたいのだ、だから、必要なことはそのための「理由」と「方法」を提示すること。
以下、これまでの文献抄読から、2つの例が視覚指標ナッジの好例として示された。
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