運動性認知リスク症候群。前兆マーカとしての歩行速度
📖 文献情報 と 抄録和訳
加齢に伴う歩行と認知機能低下の相対的な軌跡
[背景] 歩行と認知機能は加齢とともに低下し、認知症の発症を早める。しかし、加齢に伴う歩行と認知機能の低下の相対的な軌跡は、特に運動性認知リスク(motoric cognitive risk: MCR)症候群の患者においては、十分に理解されていない。本研究では、年齢およびMCRの機能として、単純歩行および複雑歩行のパフォーマンスと認知機能の変化を比較した。
[方法] LonGenity研究参加者1095名(平均年齢75.4±6.7歳)の歩行と認知機能を、最長12年間の年次追跡調査により検討した。参加者はアシュケナージ・ユダヤ系で、認知症がなく、歩行が可能であり、ベースライン時のMCR有病率は12.2%であった。歩行速度は、通常のペースでの歩行(単一タスク歩行、STW速度)および話しながらの歩行(WWT速度)で測定した。11項目の神経心理学的検査スコアを個別に、またグローバルな認知機能合成値として検討した。ベースラインの性別、教育、親の長寿、認知障害、グローバルヘルスを調整した線形混合効果モデルを用いて、年齢とMCRの関数として、歩行と認知の変化を推定した。
[結果] STW速度、WWT速度、および認知検査能力は年齢とともに非線形に(加速的に)低下した。STW速度はWWT速度および認知テストのスコアよりも速く低下した。MCRのある人は、図形のコピーと音素の流暢さにおいて、より速い減少率を示した。
[結論] 加齢に伴い、歩行は認知よりも速い速度で低下する。MCRの人は、視空間機能、遂行機能、言語機能において、より速い速度で低下する可能性がある。本研究は、加齢に伴う歩行と認知機能の低下の軌跡に関する重要な知見を追加し、MCRが認知機能低下を加速させる危険因子であることを明らかにした。
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物事には、しばしば『前兆』がある。
それは、人間に起こるネガティブなイベントも例外ではない。
たとえば、高齢者の死亡について見ると、死亡の10年前から歩行速度の減少がじわじわ始まり、死亡直前にADLや立ち上がりがガクッと落ちる。
今回抄読した研究は、高齢者の加齢において、認知機能より歩行速度の低下率が大きく、その歩行速度が低下した被験者は、認知機能低下リスクが高い、ということを明らかにした。
すなわち、歩行速度は「認知機能低下」の前兆マーカとしても有用と思われる。
ものごとには、移り変わりがある。
いきなりネガティブイベント「赤信号」に切り替わるのではなく、歩行速度の低下という、青信号の点滅や黄色信号にあたるグラデーション期間・前兆が存在する。
その前兆を感じとり、事前から動いておく、予防しておく、準備しておく。
つまり、前兆を知ると、やれることの時間軸が前倒しになって、やれることが増える。
予め知り、予め動く。
そのためのマーカとして、『歩行速度』は有力だ。
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