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睡眠不足による全身持久力、脳波への影響
📖 文献情報 と 抄録和訳
睡眠不足が身体能力に及ぼす影響の調査:高強度持久力コンテキストにおけるEEG研究
📕Zhao, S., Alhumaid, M.M., Li, H. et al. Exploring the Effects of Sleep Deprivation on Physical Performance: An EEG Study in the Context of High-Intensity Endurance. Sports Med - Open 11, 4 (2025). https://doi.org/10.1186/s40798-024-00807-4
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[背景・目的] 睡眠不足が認知機能に及ぼす影響については十分に立証されているが、高強度持久力パフォーマンスやその根底にある神経メカニズムへの影響については、特に身体能力と精神能力の両方が不可欠な捜索・救助活動の文脈においては、まだ十分に解明されていない。
[方法] 本研究では、高強度持久力における睡眠不足の神経生理学的基礎を、脳波(EEG)を用いて調査した。このクロスオーバー研究では、20人の消防士を対象に、睡眠不足(SD)と通常の睡眠状態の両方を課し、各参加者はそれぞれの状態の後、翌朝に持久力トレッドミル運動を実施した。
✅ 運動耐久時間(Duration of exercise, min)
・被験者がトレッドミルで高強度持久力運動を行い、身体的疲労によって運動を継続できなくなるまでの時間を測定したものである。
・この運動時間は、被験者の持久力および運動パフォーマンスの指標として評価されている。
高強度持久運動の前後で脳波信号を記録し、δ(0.5~4 Hz)およびθ(4~8 Hz)の睡眠関連周波数帯域のリズムについて、パワースペクトル分析と機能的結合解析を行った。脳波のパワースペクトルと機能的結合は、反復測定分散分析によって測定された。
✅ 脳ネットワークの同期性とは?
・特定の脳領域間での相互作用や情報伝達の強度(同期性)が、睡眠不足(SD)や運動後の疲労によってどのように変化するかを指している。
・この同期性は、脳が効率的に機能するために重要であり、フェーズロッキング値(Phase Locking Value, PLV)やネットワークベース統計(Network-Based Statistics, NBS)といった指標を使って評価されている。
[結果]
■ 睡眠不足による身体的疲労への影響
・SD条件では平均睡眠時間が3.78±0.69時間であったのに対し、通常の睡眠時間は7.63±0.52時間であった。
・睡眠不足は持久力に悪影響を与え、運動を持続できる時間が短縮された(睡眠不足: 16.55±1.07分, 正常睡眠: 17.15±1.15分, p < 0.05)。
・高強度持久運動後、SD条件では通常の睡眠よりも最大心拍数が高く(p < 0.05)、運動時間が短かった(p < 0.05)。
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■ 運動前後のEEG(脳波)の比較
<睡眠不足(SD)条件の特徴>
・運動前(Pre-exhaustion):δ波: O1、Oz、P7で正常睡眠よりも有意に低い。θ波: Cz、P7、P8でも低下。
・運動後(Post-exhaustion):δ波とθ波は全般的にさらに減少しており、特にO1、P7、TP7で顕著。
・これは、睡眠不足が脳のニューロン活動を抑制し、運動後の疲労回復能力を低下させる可能性を示唆している。
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■ 睡眠不足と脳ネットワ−ク同期性
睡眠不足状態では、
・脳が高強度運動後の疲労に対処するため、特定のノード間の接続を強化している可能性。
・特に頭頂部(Pz, P4)や運動関連領域(C3, CPz)の接続強化が観察されたことは、疲労時の運動制御に関連する補償的な活動を示唆する。
・左右半球間の接続(例: T7-TP8, O1-FT8)の増加は、睡眠不足が運動後の脳の相互通信を再構築しようとする適応反応を反映している可能性がある。
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[結論] 睡眠不足は、中枢および頭頂葉の脳領域における神経活動の低下を示し、最大持久力を著しく低下させた。δおよびθ周波数帯域のパワーの変化と接続性の混乱は、この低下の神経生理学的基礎を明らかにする可能性がある。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
これまでも、睡眠に関する文献抄読はいくつかしてきた。
・睡眠不足が疼痛感度を上げる
・睡眠改善にはストレッチや自然曝露が良い
・十分な睡眠は好奇心を賦活する
今回の抄読研究は、睡眠不足が全身持久力に与える影響、そしてその際の脳波を調査した。
その結果として、睡眠不足は、最大持久力を著しく低下させた。
さらに、δおよびθ周波数帯域のパワーの変化と接続性の混乱が、この低下の神経生理学的基礎の一端である可能性が示唆された。
これは、特にアスリートにとって重要な結果ではないだろうか。
睡眠は重要だよ、と言われても、それは概念上の話であって、「それは、もう分かっているよ」と感じてしまう。
しかし、今回のような具体的なデータが示されることで、「あっ、確かにこんなに持久力下がっちゃうんだ。脳波にも影響があるんだ!」という実感を伴った教訓になるだろう。
「睡眠は大切だよ」と選手に伝える声が、少し力強くなりそうだ。
⬇︎ 関連 note & 𝕏での投稿✨
📕睡眠不足による全身持久力, 脳波への影響
— 理学療法士_海津陽一 Ph.D. (@copellist) January 28, 2025
・20人の消防士
・通常睡眠, 睡眠不足の2条件
・全身持久力, 脳波を調査
睡眠不足 / 通常
🔹睡眠時間:3.78時間 / 7.63時間
🔹運動耐久時間:16.55±1.07分 / 17.15±1.15分
🔹脳波:全般的に睡眠不足条件で低下
睡眠不足は全身持久力に悪影響を与えます😲 pic.twitter.com/JelKX6rJNB
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