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強くなる腱。仕組みは量より『質』

📖 文献情報 と 抄録和訳

健康な下肢腱の機械的負荷に対する力学的、材料的、形態学的適応。システマティックレビューとメタアナリシス

📕Lazarczuk, Stephanie L., et al. "Mechanical, Material and Morphological Adaptations of Healthy Lower Limb Tendons to Mechanical Loading: A Systematic Review and Meta-Analysis." Sports Medicine (2022): 1-25. https://doi.org/10.1007/s40279-022-01695-y
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🔑 Key points
🔹機械的負荷は、腱の硬さを中程度に、腱の弾性率を大きく増加、腱の断面積を小さく増加させた。
🔹腱の弾性率の変化は、硬さの変化の主要なモデレータであった。
🔹高強度プロトコルは低強度プロトコルよりも大きな腱の硬さの増加を誘導した。

✅ 前提知識:腱の弾性率(ヤング率)とは?
・ヤング率は縦弾性係数とも呼ばれ、「弾性」とは材料に外力を加えた際、その外力を取り去ると元の形状に戻る性質のこと。
・材料力学による「フックの法則」では、応力とひずみの間に比例関係があると定められ、ヤング率をEとして、垂直応力をσ、縦ひずみをεとすれば「σ=Eε」の関係式が成り立つため、材料の性質を調べる際に用いられる。
・ヤング率が大きいほど剛性の高い材料ということになり、変形のし難い材料の目安となる。

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[背景・目的] 身体トレーニング中に機械的負荷が増加すると、腱の硬さが増加する可能性がある。しかし、腱の適応を最大化する負荷強度や、適応が腱の材料特性や腱の形状の変化によってどの程度促進されるかは、十分に理解されていない。研究目的(1) 機械的負荷が腱の硬さ、弾性率、断面積(cross-sectional area, CSA)に及ぼす影響、(2) 硬さの適応が主にCSAまたは弾性率の変化によってもたらされるか、(3) トレーニングタイプおよび関連負荷パラメータ(相対強度、局所歪、負荷時間、負荷量、収縮モード)が硬さ、弾性率またはCSAに及ぼす影響、(4) 年齢層によって腱特性の適応度合いが異なるかどうかを明らかにすること。

[方法] 5つのデータベース(PubMed、Scopus、CINAHL、SPORTDiscus、EMBASE)を用いて、腱の形態的、材料的、力学的特性における荷重誘発性の適応を詳述した研究を検索した。標準化平均差(Standardised mean differences, SMD)と95%信頼区間(confidence intervals, CI)を算出し、ランダム効果モデルを用いてデータをプールし、分散を推定した。メタ回帰を用いて、腱のCSAと弾性率の変化が腱の硬さに及ぼす緩和効果を検討した。

[結果] 61の論文が包含基準を満たした。含まれる研究の参加者の総数は763名であった。アキレス腱(33件)および膝蓋腱(24件)が最もよく研究された部位であった。抵抗トレーニングが主な介入の種類であった(49件の研究)。機械的負荷は、剛性に中程度の増加(標準化平均差(SMD)0.74;95%信頼区間(CI)0.62~0.86)、弾性率に大きな増加(SMD 0.82;95%CI0.58~1.07)、CSAに小さな増加(SMD 0.22;95%CI0.12~0.33)を生じさせた。メタ回帰により、腱剛性増加の主なモデレーターは弾性率であることが明らかになった。

レジスタンストレーニング介入は、他のトレーニングタイプよりも弾性率の大きな増加を誘導し(SMD 0.90;95% CI 0.65-1.15)、高強度レジスタンストレーニングプロトコルは、低強度プロトコルよりも弾性率(SMD 0.82;95% CI 0.44-1.20;p = 0.009) および硬さ(SMD 1.04;95% CI 0.65-1.43;p = 0.007 )に大きな増加を誘導した。硬さと弾性率の差の大きさは、成人の参加者でより大きかった。

[結論] 機械的負荷は、下肢腱の硬さ、弾性率、およびCSAにプラスの適応をもたらす。これまでの研究から、身体トレーニングによる腱の硬度増加の主なメカニズムは腱の弾性率の増加であり、低強度と比較して高い負荷で行うレジスタンストレーニングが、最もポジティブな腱の適応に関連することが示されている。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

『寡をもって衆を制す』、という言葉がある。
古来より、日本人はこの言葉の意味するところが好きである。
寡とは少人数、
衆とは多人数、
制す、とは勝つ、抑える、といった意味。
つまり、少人数で大勢に勝つこと。
戦国時代の代表例でいえば、信長の桶狭間などが当てはまる。
ジャイアントキリング、に近い印象を持つ言葉だ。
少数精鋭という言葉の響きは、誰の耳にもよく響くだろう。
だって、かっこいいから。痛快だから。

そして、まだ歴史話が続くのだが『赤備(あかぞなえ)』という言葉がある。
これは、武田家臣軍の筆頭の一人である『真田虎昌』が甲冑(鎧兜)を赤で統一して戦ったことに由来する言葉で、とにかく、この赤備の一人一人が強かったらしい。
軍の全体の威力を増すには、人数を増やす『人海戦術』のほかに、一人一人が強くなる『精錬強化戦術』がある。

さて、ようやく今回の研究の話だが、どうやら腱は「精錬強化戦術」をとっている。
介入によって強度が増した腱は、あまり太くなっておらず、その弾性率の増加が腱の剛性と相関した(図を参照)。
レビューの結果は、腱が量を増やすというよりは、今あるものの精錬強化によって強くなることを示している。
そして、この強化の仕方は、骨格筋とは異なる。
骨格筋は、どちらかといえば人海戦術を得意とする。
その強化の大部分を、量によって賄う(筋断面積の増大によって)。

でも、それはなぜなのだろう。
なぜ、細いまま強くなる「精錬強化戦術」をとる必要があるのだろう。
以下の考察は、まったくの勘。
太くすると弱い弾性領域がなくなるか、極端に狭くなってしまうのではないか?
イメージして欲しいのだが、めっちゃ太く大きなバネが、強く引っ張っても容易に変形しないような感じで。
だがそうなると、日常生活で必要になる比較的弱めの負荷に弾性を提供できず、筋腱移行部損傷など害を及ぼすことになってしまう。細いままで弾性率を上げた場合、その問題が起こりにくい?
ここは、さらに勉強したい。仕組みは面白そうだし、なんとなく人生哲学にも通ずるものになりそうな気がする。
その勉強の歩みは、もちろん平坦ではないだろうと思う。
でも、大丈夫だ。
ぼくらの両の踵の上には、いつだって、赤備えの武田軍がいるのだから。
一歩一歩に耳をすませば、甲冑が揺れ軋む音が、聞こえてくるようだ。

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