網膜写真から生体年齢を知る
📖 文献情報 と 抄録和訳
網膜写真に基づくディープラーニングで生体年齢を予測し、罹患・死亡リスクを層別化
Nusinovici, Simon, et al. "Retinal photograph-based deep learning predicts biological age, and stratifies morbidity and mortality risk." Age and ageing 51.4 (2022): afac065.
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar
📗 ミニレビュー:生物学的年齢(Biological age:BA)について
- BAは、加齢に伴う生体の「真のグローバルな状態」を表す量として定義することができる。
- BAを測定することで、加齢に伴う生理学的変化を年代測定と比較してよりよく捉えることができるため、BAのバイオマーカーは特に注目されている。
- したがって、BAは、同じ実年齢(chronological age:CA)を持つ個人の一般的な健康状態を評価するために使用することができる。
- BAの推定には、臨床バイオマーカー(総コレステロールや血圧、複数の臨床バイオマーカーの組み合わせ;iAge ※ 以下noteリンク参照)(📕Bae, 2013 >>> doi.)、テロメア長(📕Belsky, 2018 >>> doi.)、DNAメチル化(📕Jones, 2015 >>> doi.)など、様々な測定方法が報告されている
- 以上の方法は侵襲的で、コストが高く、かつ/または時間がかかるため、BAの臨床的に有用なバイオマーカーとしての価値は限定的であった。
🔑 Key points
- 網膜写真を用いて訓練した深層学習アルゴリズムに基づき、網膜ベースの生物学的年齢(RetiAGEと呼ぶ)を開発した。
- RetiAGEは、年代や表現型バイオマーカーとは独立して、全死因、心血管疾患、がん死亡率、および心血管イベントやがんイベントと関連していた。
- さらに、RetiAGEを追加することで、年代や表現型バイオマーカーを超えたモデルの識別能力が向上した。
- このアプローチは、網膜写真を用いた生物学的年齢の測定に代わる新たな方法を提供するものです。
[背景・目的] 加齢は様々な疾患の重要なリスクファクターである。生物学的年齢(BA)は、年代(CA)と比較して、加齢に関連した生理学的変化をよりよく捉えることができるかもしれない。目的:我々は、網膜写真に基づいてBAを予測する深層学習(DL)アルゴリズムを開発し、一般集団における死亡率および主要な病的状態のリスク層別化における我々の新しい加齢マーカーの性能を評価した。
[方法][ 我々はまず、韓国健康診断研究40,480人の参加者の129,236枚の網膜写真を用いて、年齢が65歳以上である確率を予測するDLアルゴリズム(「RetiAGE」)を学習し、次に英国バイオバンクの56,301人の参加者の死亡率と主要な病的状態のリスクを層別化するRetiAGEの機能を評価した。ハザード比(HR)の推定にはCox比例ハザードモデルを使用した。
✅ 図. RetiAGEの例
[結果] UK Biobankでは、10年間の追跡で2,236人(4.0%)が死亡し、そのうち636人(28.4%)が心疾患(CVD)、1,276人(57.1%)ががんによるものであった。RetiAGE第1四分位の参加者と比較して、RetiAGE第4四分位の参加者は、10年全死亡のリスクが67%高く(HR = 1.67 [1.42-1.95] )、CVD死亡のリスクが142%高く(HR = 2.42 [1.69-3.48] )、がん死亡のリスクが60%高かった(HR = 1.60 [1.31-1.96] )、CAや確立した老化表現型バイオマーカーとは無関係であった。同様に、第一四分位群と比較して、第四四分位群ではCVDおよび癌イベントのリスクがそれぞれ39%(HR = 1.39 [1.14-1.69])および18%(HR = 1.18 [1.10-1.26])増加した。RetiAGE単独では,CVD死亡率で最も優れた識別能力が認められた(c-index=0.70,感度=0.76,特異度=0.55)。さらに、RetiAGEの追加により、CAや表現型バイオマーカー以外の識別能力も向上した(c-indexの増加幅は1~2%)。
✅ 図. UK Biobank研究におけるRetiAGE四分位群別の死亡、CVDおよび癌リスクのKaplan-Meier推定値。
[結論] 加齢計測のための新たなアプローチとして、DL由来のRetiAGEが有効である。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
「いよいよ、実用可能性の高いものが出てきたな」と感じた。
僕たち理学療法士が知りたいのは、たとえば以下のような情報だ。
・筋力向上の度合い、またその速度
・骨癒合の度合い、またその速度
・創傷治癒の度合い、またその速度
すなわち、その患者の「同化/異化」の特徴を知りたいのだ。
だが、その情報は容易には得られない。
最近、膝OA患者の組織回転について、3つのクラスターが明らかになった。
しかしながら、これも生化学マーカーを用いたもので、血液採取などの侵襲的なプロセスが必要だ。
一方、今回抄読論文が提唱した「RetiAGE」は、網膜の写真を撮るだけ。
以下のような実装ができたらいい。
・入院してきたその日に、必ず網膜写真を撮影
・アルゴリズムに通して、生体年齢を推測
・生体年齢から同化可能性(※この部分を研究で明らかにする必要がある)を推測
・同化可能性と現状の重症度から、ゴールレベル、時期を予測
・介入の負荷量や頻度にも示唆が得られるか
以前は、髪の毛の伸びの速さ、爪の伸びの速さなど、提案した(上記 noteリンク参照)が、「RetiAGE」の方が明らかに早いし、スマートだし、正確そうである。
「RetiAGE」と筋力トレーニングの効果や骨癒合への影響など、重要なアウトカムとの関連にとても興味がある。
「RetiAGE」、注目すべきバイオマーカだ❗️
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