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高齢者サロン参加の効果 ~介護費用負担の視点から~


📖 文献情報 と 抄録和訳

社会参加の促進による介護予防を目的としたサロンへの参加と、その後の介護費用との関係についての調査:JAGESにおける3年間の前向き追跡研究

📕Hirai, Hiroshi, et al. "Examination of the relationship between participation in salons aimed at care prevention through the promotion of social participation and the subsequent cost of care: A 3-year prospective follow-up study in JAGES." Archives of gerontology and geriatrics 129 (2025): 105688. https://doi.org/10.1016/j.archger.2024.105688
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> Not applicable

✅ 前提知識:高齢者サロンとは?
・平成6年(1994年)から、全国社会福祉協議会が中心となり、高齢者がいきいきと暮らすための地域の活動の場として「ふれあい・いきいきサロン」事業が全国的に推進されている。
・高齢者の集い・通いの場である高齢者サロンは、地域住民が主体となって運営・参加を行い、高齢者であればだれでも参加できる地域交流の場。
・サロンでは、以下のような活動を通じて参加者の交流や身体的活動を促している:軽度な運動(エクササイズ)、音楽パフォーマンス、手工芸(クラフト制作)
・これらの活動を通じて参加者間のネットワークを構築し、孤立感を軽減することが目指されている。

🌍 参考サイト >>> site.

[背景・目的] これまでの多くの研究で、社会参加が高齢者の健康や機能維持を改善することが明らかにされている。しかし、社会参加の促進が高齢者の機能低下を予防できるかどうかを明らかにするためには、社会活動に参加している人と参加していない人の予後を比較するだけでなく、社会参加を促進する介入が有効であったことを示す必要がある。社会参加が介護予防に効果があることは示されているが、社会参加による機能低下の予防が介護費用を削減できるかが重要な問題である。本研究では、社会参加の促進による介護予防を目的としたサロンへの参加と、その後の介護費用との関係を検討することを目的とする。

[方法] 日本老年学的評価研究(JAGES)のデータセットを用いて、縦断的かつ個人レベルの分析を行う。武豊町における障害のない65歳以上の全住民に焦点を当て、3つの回帰分析を行った。まず、従属変数を推定するために、ツイーディー分布とログリンク関数を用いた一般化線形モデル(GLM)と、分散成分の頑健推定値を用いた。次に、選択バイアスを最小化するために、逆確率重み付け(IPW)モデルを用いた。最後に、IV分析を実施した。

[結果]

・1年目では、参加者の平均費用は511.2ドル、非参加者は513.7ドルで、ほぼ同じである。
・2年目では、参加者は540.1ドル、非参加者は553.9ドルと差が広がり始める。
・3年目では、参加者は577.9ドル、非参加者は617.1ドルと、差がさらに大きくなる。
・追跡調査の3年間における参加者と非参加者の介護費用平均差の推定値は40ドルであった。

[結論] 本研究では、IPWとIVモデルを組み合わせたGLMにより、サロン参加者と介護費用の低減との関連性が明らかになりました。参加と介護費用との関連性は、単純なGLMモデルではなく、選択バイアスを低減させたモデルで確認されました。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

昨今、医療や介護の領域で特に求められてきているのは『実績』である。
医療費の逼迫などの背景もあり、ただやった方が良いことではなく、「それをやることで実際にどのくらいの効果が出たのですか?」が求められてきている。
そして、その部分はあくまでも『数字』として出していく必要がある。

今回の抄読研究は、現在日本で行われている高齢者サロン事業の効果を費用面から明らかにした。
その結果としては、3年間で一人あたり4000円の介護費用負担の減少が見込めるという。
では、高齢者サロンの運営費を加味した考察はどのようになってくるだろうか。

■ サロンの実施費用
・1サロンあたりの年間コスト: 約2500ドル(約25万円)。
・3年間の累計コスト: 1サロンあたり7500ドル(約75万円)。
・3箇所のサロンの総コスト: 2万2500ドル(約225万円)。
サロンでは130人が参加しており、1人あたりの参加コストは約173ドル(3年間)となる。

■ 介護費用の軽減効果
・研究結果では、サロン参加者の平均累積介護費用は非参加者よりも3年間で40ドル(約4000円)低い。
・130人の参加者全員で計算すると、130人 × 40ドル = 5200ドルの介護費用軽減が期待される。

■ 費用対効果の評価
・サロンの実施コスト(2万2500ドル)に対して、介護費用軽減効果(5200ドル)は約4分の1に留まる。
・現時点では、介護費用軽減の効果だけではサロン運営コストを完全に相殺することは難しい。

費用対効果という観点から、国にとって高齢者サロンは黒字にはなりにくい実体があるようだ。
数字にしていくと、ズバッと事実が目の前に出てくるので少し怖いが、現実を直視することなしに現実の改善はないと思うので、恐れずに向き合っていきたい。

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