環境を操る。認知症患者への環境介入
📖 文献情報 と 抄録和訳
認知症の人に対する物理的環境手がかりの影響。スコープレビュー
Wang, Wenjin, and Zhipeng Lu. "Influences of Physical Environmental Cues on People With Dementia: A Scoping Review." Journal of Applied Gerontology 41.4 (2022): 1209-1221. https://doi.org/10.1177/07334648211050376
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar
[背景・目的] 認知症患者(PwD)にとって、物理的な環境的手がかりは重要な支援となりうる。工事を伴う介入に比べ、より簡単に、より少ない費用で、そしてより少なく認知症の人の日常生活に支障をきたすことなく実現できるキューがある。このレビューでは、認知症患者の行動に対するキューの影響について、既存の経験的証拠を検証することを目的としている。
[方法] PRISMAのスコープレビューの手法を採用し、32の論文を同定した。
[結果-結論] その結果、視覚的手がかりは頻繁に研究されていることがわかった。
✅ 認知症患者に対する視覚的手がかりの例
・標識はPwDの道案内を容易にする。
・ドアを隠す(ドアノブを隠すなど)ことで、退出しようとすることを効果的に防ぐことができる。
・コントラストが高い色の食器や、照明の状態が良い食器は、PwDの食事をより美味しくする。
・トイレの表示がわかりやすいと、よりよいコンチネンス(排泄制御)につながる。
このように、環境手がかりを適切に用いることは、PwDの幸福度を高め、介護者の負担を軽減することにつながる。しかし、他の感覚的手がかり(触覚、嗅覚、聴覚など)の影響については、まだ知識のギャップがあり、さらなる研究が必要である。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
アフォーダンス、という。
その意味は、環境のさまざまな要素が人間や動物に影響を与え、感情や動作が生まれること。
たとえば、椅子があるから「座る or 座らない」が生まれる。
環境は、人間に選択を迫る可能性を有しているわけだ。
選択肢が生まれれば、そこには抑制性制御が必要になる。
✅ 抑制性制御とは?
- 抑制とは、一般的に、いかなるプロセスも抑止・妨害・禁止する過程を指す。
- ニューロンの振る舞いや学習過程などで広く使われる言葉であるが、行動レベルにおける抑制とは、当該の状況で不適切かつ優位な行動を意識的に抑止する過程のことを指す。
- 習慣等によって誘発されやすい行動を抑止し、セルフコントロールを可能にする。
🌍 参考サイト >>> site.
重要なことは、認知症患者は抑制性制御の能力が低下する(📕永原, 2012 >>> doi.)ことだ。
座らないほうがいい場面で椅子に座ろうとしてしまったり、
開けない方がいいドアを開けようとしてしまったりする。
では、そのような認知症患者において、適切な行動を取ってもらうためにどうしたらいいだろうか?
・・・。
選択肢を無くす(or 減らす)
これである。
選択肢が与えられた時に、適切な選択が難しくなる。
だったら、不適切な選択肢を人間に迫らないような環境にしておけばよい。
今回の抄読研究は、その具体的な方法と効果についてレビューを提供してくれた。
この視点は、健常者でも重要だ。
器が大きいから、グラスが大きいから、暴飲暴食に走ってしまうのだ。
グラスを小さくすることは飲酒量を低下させ(📕Attwood, 2012 >>> doi. )、
ご飯を盛るお皿を小さく薄くすることは、過食を防いだ(以下note参照)。
生活環境の多くは、自分達の手で操作できる。
そうして自分たちが作った環境に、自分たちがつくられていく。
操作した環境に、その後、操作される。その視点を忘れない方がいいと思った。
私たちが建物をつくる。その後は建物が私たちをつくる
チャーチル
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