基本チェックリストで高齢者の認知症を予測
📖 文献情報 と 抄録和訳
地域在住高齢者におけるキホンチェックリストの個別項目を用いた認知症予測のための新しいスクリーニングモデルの開発
[背景・目的] 認知症は世界的な課題であり、今後、わが国でも認知症高齢者が増加すると推計されている。各地方自治体において、要介護状態のリスクが高い高齢者を抽出するために基本チェックリストが用いられている。基本チェックリストの認知機能項目への該当状況は、認知症の発症に有用であることが報告されている。しかし、認知症の初期症状は記憶障害だけでなく、日常生活のあらゆる場面に問題が生じることが多く、基本チェックリストの認知機能項目だけでは、ハイリスク者を十分に抽出できていない可能性がある。
[方法] A市在住の要介護認定を受けていない65~80歳の高齢者を1年間追跡し、死亡者を除外した6,476名を対象に、新規認知症発症(認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱa以上)に関連する基本チェックリストの個別項目を検討した。
[結果] 1年間の認知症発症は40名(0.6%)であった。年齢、性別、家族構成、主観的健康感、ウォーカビリティ、身体活動、近所づきあい、社会参加を調整しても、基本チェックリストの#2買い物、#5相談、#6階段昇降、#18物忘れ、#20時間的方向性の5項目が新規認知症発症に関連することが明らかとなった。
また、5項目の合計スコアは、感度55.0%、特異度84.1%、AUC 0.76(カットオフ値 2点)と認知機能項目や基本チェックリスト合計スコアよりも有意に精度が高いことが示された。
[結論] 本研究は基本チェックリストの個別項目と認知症発症との関連性を示した数少ない研究である。基本チェックリストの認知機能項目以外の項目であっても1年間の認知症発症の予測に有用であることが示唆された。本研究で示した5項目の合計スコアは、介護予防に関わる地域包括支援センター、保健師等の専門職、介護事業所等においても簡便で一般臨床で活用しやすく、効果的なハイリスク者の抽出や認知症に対する予防的介入の一助となると考えられる。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
基本チェックリストを眺めていて感じたこと。
近年、評価指標を使用することや、状態のモニタリングの重要性が認識され、実践されてもいる。
その中で、臨床現場では深刻な1つの問題が生じていると感じる。
それが、『重複』の問題である。
回復期病棟に入棟した患者をイメージしてみよう。
その患者の入棟初日のこと。
看護師:「この1年間に転んだことがありますか」
患者:「2回くらいあります」(1ヶ月前基本チェックリストで答えたのに・・・)
ソーシャルワーカー:「この1年間に転んだことがありますか」
患者:「2回くらいあります」(さっき聞かれたのに)
理学療法士:「この1年間に転んだことがありますか」
患者:「2回くらいあります」『さっきも聞かれました!!!』
上の例は、職員間連携が不足している極端な例を描写した。
だが、多かれ少なかれ、どの病院にとってもあるあるではなかろうか。
しっかりと評価しようとすることは、間違いなく「善」である。
しかし、その重複は患者自身の精神に負担をかけるし、職員の貴重な労働時間を同一の評価に費やすという非効率な事態を生んでいる。
これを解決するためには、①評価指標の共通使用・共通理解、②結果の共有可能性を高めるが有効と思われる。
①評価指標の共通使用・共通理解
・類似/同一項目を含む違った評価指標の使用をやめる
・メジャーな評価指標ツールを職種横断的に理解する
・例. 基本チェックリストを保健師だけでなくPT/OT/ST、看護師、ソーシャルワーカーが把握していて、 包含されている転倒恐怖心、病前身体活動量、IADL評価の別個の評価をやめる
②結果の共有可能性を高める
・マイナンバー制度とリンクし基本チェックリストなど医療関連情報の閲覧を可能にする
・この場合、個人情報保護との兼ね合いなど倫理的問題がありそう
・閲覧者を医療職などに限定するシステムができれば実践できるか
業務には重複はない方がいい。
だが、コミュニケーションには理解の重複がある程いいと思う。
今回抄読した研究によって、基本チェックリストが認知症リスクの予測にも使えることが明らかとなった。
全員が知っている、スタンダードな評価指標ができれば、業務の重複を避け、コミュニケーションの理解の重複が進む。
基本チェックリストを用いた、更なる研究が期待される。
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