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ハイタワー牧師の憂鬱 ~フォークナー『八月の光』3~

ハイタワーっていったら、あの部屋が上から落っこちるタワーオブテラーに出てくる呪物収集家のおっさんだよね、と衆目一致するに違いありません。「ハイタワー3世です!」と、子どもには言われてしまいそうだけれども、大人になってから初めて入ったタワーオブテラー、ハイタワーってどっかで聞いたことあったなと思っていたら、そうだった『八月の光』のこの牧師。

アラフィフのサレ夫、しかも、牧師業もできなくなって、街はずれで使用人も持たずに一人で暮しているハイタワー。これだけ見ると、どこのSNSで見たものですか?と問いかけたくなるようなプロフで、フォークナーの現代性マジハンパない。これからはタワテラに並んでいるときには、必ず『八月の光』の話してやろ。

意外とペース早く章が進む。一日一章じゃなくても、全然平気かも。でも、調子に乗ってるとすぐにやる気が失われてしまう、嗚呼更年期。私はバセドー病持ちなので、余計に気持ちに左右されやすい。言い訳とか言われるけど、こればっかりはホルモンの乱れって言わせてよ。甲状腺の異常って、結構たいへんなのですから。最近、疲れやすいのは、もしかして再発?

というわけで『八月の光』もはや三章。がんばって、ハイタワー牧師の章のあらすじをつづっていきたいと思います。

あらすじ

ハイタワー元牧師は、街はずれに住んでいる50を過ぎた奇妙な中年男だ。牧師だが、なぜか家の前に建てられた看板には「絵画教室、手製クリスマスカード等各種グリーティングカード、写真現像」と、関係ない仕事を請け負おうとしている。しかし、それも風雨にさらされ、崩れ落ちようとしている。

ハイタワー牧師は、25年前にジェファソンに若い妻と一緒に移り住んできた長老派教会の牧師である。しかし、牧師の説教にしてはいささか熱のこもりすぎたものになるのは、ハイタワー牧師が南北戦争で南軍の騎兵として戦死した自分の祖父のイメージを説教の中に混ぜ込むからだ。

そんなハイタワーは家庭でも、様々な区別をつけられなかった。そのためか、ハイタワーの妻の姿がしばしば見えなくなった。ハイタワーはそのことを気にしていないかのように、祖父の戦死と説教の混じった演説を繰り返した。そして、あるときハイタワーの妻が帰ってきて、教会に来たかと思えば、ブチ切れて取り押さえられた。

ハイタワーは妻を病院に入れた。しばらくして妻が戻ってきた。最初は、治って普通にしていた。しかし、すぐにまた妻は行方をくらますようになった。そして、メンフィス(テネシー州の州都)のあるホテルから落ちて亡くなった。その部屋に一緒にいた男が逮捕された。

その事件は新聞記者を呼んだ。あるメディアに記事や顔写真が掲載され、ハイタワーの信頼は地に落ちた。ハイタワーの牧師館を訪れる人はいなくなった。みんな街を出て行ってほしいと思い、圧力をかけた。牧師も罷免されそうになった。ハイタワーも辞任を申し出た。

しかし、ハイタワーは街を出ようとはしなかった。街はずれに家を買い、そこに例の看板を立てていた。このとき一人だけ家政人をやとっていた。アフロ・アメリカンの女性だった。街の人々は、辞めるようこの女性を脅した。結果、辞めていった。その後、アフロ・アメリカンの男性が雇われた。そして、暴力を受け、追い出された。ハイタワーも木に縛られ、殴られて気を失っていた。

それでもハイタワーは、街を出ようとはしなくなった。身の回りのことは全部自分でやるようになった。街の人々も、ハイタワーをそっとしておくようになった。

ハイタワーの家にある日、アフロアメリカンの男性が助けを求めて駆け込んだ。妻が産気づいたというのだ。ハイタワーは、お産を達成したが、子どもは亡くなった。あとから来た医者は、ハイタワーの処置は適切だったと述べ、赤ん坊は不運だったと認定した。しかし、昔ハイタワーの子どもが亡くなったときの状況に酷似していたため、噂された。

そんなハイタワーとバイロンは話をする間柄だった。

「きみはどうして土曜日の午後も製板所で働くんだね。ほかの人たちは町で愉しんでいるのに」ハイタワーは逆にそう訊き返した。「どうしてかなあ」とバイロンは言った。「それが俺の人生だから、ですかね」「わたしも、これがわたしの人生だと思っているんだ」とハイタワーは言った。
『八月の光』No.1234

ハイタワーは書斎から、外を眺めている。変わらぬ風景だ。しかし、そこはバイロン・バンチがいた。

「バイロン・バンチだ」とハイタワーは言う。「日曜日の夜に、町にいる。バイロン・バンチが、日曜日に町にいる」
『八月の光』No.1256

規則正しい生活の男バイロン・バンチが、その規則を破っている。ハイタワーは、このことに何かの予兆を感じる。

感想

バンチもハイタワーも、自分の人生が少しでも分岐が逸れていたら、似たような立場になってしまっただろうと思い、感慨深い。そして、ハイタワーの人生もまた、今のSNSの中で進行形に見られる事象の一つだろうと思われる。ハイタワーの性格を考えると、自分も今後そうなってもおかしくないだろう。多少は反省しているのだが、三つ子の魂百までというか、直せない。

すでに、なんどもチャレンジしているので、あらすじや結末はほぼ知っている。なので、展開についてどうこう感じることはないが、バンチのような独身の小男やハイタワーのような離人癖のある独居人に対する昨今の目線は厳しい。だいたい、こういうタイプの人間は、小説の中では損な役回りをやらせられる。

この小説は、ギブアンドテイクで善行を行う動機がないアラサー、アラフィフたちの名誉の物語である。バンチとハイタワーの活躍が待たれる。





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