マッケカーン、死す ~フォークナー『八月の光』9~
先日、朝起きると、メガネのフレームが異常な角度で曲がっていた。慌てて直したが、どこか歪んでいるような気がしてならない。その日の夕方、メガネ屋に寄って、フレームの調整をしてもらった。
しかし、翌日も、どこか視野がおかしい。集中しているときには、あまり気にならないが、目が疲れてくると、とてつもなく眠くなり、挙句の果てには、微妙な影のようなものが見え始めた。
加齢、飛蚊症、偏頭痛の予兆。こういうことはときにあって、偏頭痛が起こる直前に、視野に一部光彩が見えだし、そこだけ、見えなくなる。それがどんどん広がって、だんだん狭まっていくと、頭痛が始まる。それかと、思った。
けれども、今回のは、三日月形の影のようなものが常時ではなく、眼をグッとつぶったときに残像のように残る。すわ、白内障、緑内障、糖尿病。最悪のケースばかり考えて、そこから逆算していく心配性の私は、とりあえず、子どもたちの習い事を迎えて、家に帰ってくるなり、汚い自室を片付けつつ、スペアのメガネを探し出し、かけてみると、いや快適。例の残像のような影は、あのようには現れない。やはり、フレームが曲がったときに、レンズもこすって、何か問題が生じているのだろうと推測された。
このように、メガネをかけている者にとって、レンズの表面の曇りや、フレームの歪みは、自身のパフォーマンスに跳ね返る。メガネの取り扱いには、今後くれぐれも気をつけようと誓った、強い夕立の降った午後であった。
とうとうジョーが、牙をむき出す。養父サイモン・マッケカーンを殺してしまうのだ。ただ、このときのサイモンの登場シーンは、ほとんど『地獄の黙示録』のビル・キルゴア中佐さながらだった。時間がとまってみえる。そんなサイモンはジョーに頭を割られる。
あらすじ
サイモン・マッケカーンは、ジョーが家を脱出して、どこかに行っていることがわかった。おそらくは色欲。外に出ると、ジョーが出発しているところだった。サイモンは馬を用意し、ゆっくりと現場に向かった。
ダンスパーティが行われていた。そこで、ジョーとボビーが踊っていた。ボビーに「立ち去れ!淫売!」というや否や、ジョーに殴りかかる。ジョーはそれをかわし、椅子をサイモンの頭に振り下ろした。サイモンは倒れた。
ボビーは、ジョーが殺人したことにおびえ、怒る。まず、サイモンの暴言に怒り、こうした親子のトラブルに巻き込んだジョーに怒った。仲間が、女を街まで連れて帰った。
ジョーは、ボビーを迎えに行かなければいけないと思った。サイモンの乗ってきた馬で家までいき、養母であるミセス・マッケカーンにへそくりを盗むことを宣言し、サイモンはダンス会場で倒れていることを告げた。そして、また馬で、街へ向かった。
街へ行くと、馬はへばってしまった。馬を乗り捨てて、マックスとメイムの店にボビーを迎えに行った。しかし、そこにいたのはマックスともう一人の男。メイムも奥にいた。マックスは、ジョーに父を殺したのか、と聞く。押し問答が続くが、ジョーも混乱して、サイモンが死んだかどうかの確認はしていない。
ジョーは、金を見せて、ボビーを身請けすることを念じた。
ジョーはショックを受ける。
マックスたちは、早くトンズラしようとしている。
ジョーは見知らぬ男にとびかかったが、逆にのされてしまった。マックスらは、逃げた。ジョーのことを殴り、血を出させ、その血が黒いかどうか、確認しようとしたりして。
感想
「所詮は、男性中心主義の世界観」と断じられそうでもある。確かに、フォークナーの世界の登場人物たちは、どんなに傷ついていようと、男性的なものの見方に拘泥している。そう、言われる可能性は大いにある。
ただ、やはり、ここでのジョーは痛切である。ジョーはジョーなりに、自分の愛情に忠実に行為している。邪魔するサイモンを殺し、そして、愛するボビーと一緒になろうとしていたのだ。
意識の流れがここで「なんだ、俺はこの女のために人を殺したのに。盗みもしたのに」と使われるのはにくい。よくあるよね、こういうこと。
私も、レポートの手伝いをしてあげたときに、2万円もする洋書を図書館で借り、又貸しまでした女が、レポート執筆中だというのに、ボディボード行ってるから早く寝るので、夜10:00から昼12:00までは電話できないよと言われ、忠実にそれにしたがっていたら、普通に浮気されて捨てられたことがある。しかも、その2万円の洋書は返してくれなかった。なぜなら、それを返してくれと言っても、ないの一点張りだったから。
私は、その本を、8年間探し、見つけ、8年後に弁済した。そのときに見つけてくれた本屋は、もう潰れた。あのときは、世話になった。ジョーと一緒に私は言いたい。「なんだ、俺はこの女のために高価で貴重な本を又貸ししたのに。平身低頭謝って弁済もしたのに」と。
ジョーはその後、やさぐれる。そして、ジェファソンに流れ着くまでの長い旅に出る。
わかる。私もまた、強く傷つき、おのれのことしか考えなくなった。が、その女は逆になぜかモラハラめいた言動で責め続けてきた。その言動によって、私もかなり壊れた。恋愛なるものは、人生のハイリスク・ローリターンでしかないことを痛感し、それは今もそう思っている。まあ、私は人に愛されたことなど、それまでにもほとんどなかったが。
というわけで「ジョー・クリスマス」へと戻ったジョーは、歪んだまま人格形成を追える。そして、どうなるのか。ジョー、お前の気持ちよくわかるぞ。
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