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リーナとバイロンの奇妙な関係 〜フォークナー『八月の光』 13〜

父の日は華麗にスルーされ、単純に奉仕活動の一日費やした週末は、ほとんどPCやタブレットに触れずにいたため、逆に眼精疲労から回復した気がする。やはり、強制的に目を休める日というのをつくらないといけない、と感じた48歳の6月。これからPTAの資源物の仕分けと梱包に向かわなければならない隙間時間に、この前説部分をかんがえてをるわけですよ。

無理にフォークナーと絡める必要はないんだけれども、奉仕活動として参加した例のネズミのいる夢の国、あれはあれで、アメリカンドリームの一つなんだと思いながら、アメリカという国の不思議さを思い起こしていました。フォークナーの世界もアメリカ、ウォルトの世界もアメリカ、幻惑と悪夢がないまぜの国であるアメリカ。

アメリカ文学が取り立てて好きなわけではないけれども、比較的読み書きができる(と思っているだけの)英語で書かれているので、原文との対照もしやすいし、という理由で読む場面が多い。高校生くらいまでは欧米の違いなど全然わからなかったけれども、大人になるとさすがに、欧と米をひとくくりにしてしまうのは難しいと悟る。

欧は欧、米は米。私はそういう意味では英文学の方に親しみがあるほうだし、米文学を読むと、そのプリミティブさに圧倒される場合もある。そのプリミティブかつイノセントな空気に慣れてくると、逆にそれが癖になってくる。フォークナーもしかり。

あらすじ

土曜日。ミス・バーデンの屋敷が火事になったと、野次馬が集まってきていた。火事は消され、死体は運び出され、現場検証がはじまった。野次馬たちは、犯人は誰かと噂しあった。

保安官も途方に暮れていた。しかし、屋敷の奥には小屋があり、そこに男が住んでいたという証言を受け、さらに中に男が一人いたがどこかにいってしまったという報告を受けたところで、やおら緊張が走る。

この周辺に住んでいる「黒人」を保安官は呼びつけ、事情聴取をする。その「黒人」に野次馬たちは好奇の目を向け、興奮は次第に高まる。口は重いが、次第に、その小屋には白人が二人住んでいたことを語る。

保安官はミス・バーデンの遺言書をみる。犯人に1000ドルの賞金が出るという。小屋に住んでいた男の一人が、ブラウンという名前の製板所で働いている人物だということも知る。そのブラウンを事情聴取すると、あることないことペラペラとしゃべろうとする。

日曜日。自警団が列車で到着し、現場検証を行った。その夜、若者がジョー・クリスマスを車に乗せたことを証言にしにくる。1000ドルを目当てに。そして、その降ろした場所に保安官が行って、周囲を調べていると拳銃が見つかる。

雷管がひとつ爆発してるけど、火薬に火がついてない。何を撃とうとしたんですかね
No.5027

しかし、ジョー・クリスマスの行方は杳として知れなかった。

月曜日、火曜日。バイロン・バンチはハイタワーのもとに出かけた。バイロンは、ハイタワーに、リーナに新たな小屋を世話してやったと告げる。その小屋は、あのクリスマスたちが潜伏していた小屋だった。

ハイタワーは、なぜわざわざそこなのだ、とバイロンに問う。するとバイロンは、リーナがバーチではないかと疑っているブラウンという男が、その小屋に住んでいたと言ったことを明らかにした。リーナは、その小屋でブラウンを待ちたいと願い、それをバイロンは受け入れてしまったのだ。

要するに、バイロンは、その小屋でリーナを無事に出産させてやりたい、と思っているようなのだ。ハイタワーは、バイロンの意向が、恋からだと理解した。ハイタワーは、女がお前を追っかけてきて小屋で待っていることをブラウンに言うのだなと、バイロンに言った。

「あの男は逃げるでしょうがね」とバイロンは言う。眼はあげない。が、全身を歓喜と勝利感の波がつらぬいたように見える。抑えたり隠したりする暇はない。もう遅すぎる。今のバイロンはそれを抑えようとしない。
No.5187

バイロンは、すでに気持ちが決まっているにも関わらず、どうすればいいのかをハイタワーに問う。

ハイタワーは、買い物に行った際、クリスマスがまだ捕まっていないことを噂話から聞き取る。すでに、クリスマスが混血であることが噂にのぼり、人々はいけにえを求めて血眼になっていることを。ハイタワーは、厄介事に巻き込まれつつあることを予感する。そしてまた夕方にバイロンが訪ねて来たのだった。

バイロンは、リーナを小屋に案内したという。そして、外にテントを張って、自分が番人をしているという。ハイタワーは、バイロンの想いを危惧する。しかし、バイロンの想いは揺るがない。

ハイタワーは、祈る習慣をやめたことを後悔する。いったい、どこへ神は我々を連れて行こうとしているのか。

感想

逃げた婚約者(バーチ)を追いかけてアラバマ州からミシシッピ州まで歩いて(馬車のヒッチハイクをしながら)きた20歳前後の身重のリーナ。

真面目な労働者で、週末に聖歌隊の指揮をとるのが唯一の趣味である30代のバイロン。

このリーナにバイロンは恋をしている。正直、ハイタワーでなくとも、バイロンの恋は成就しきれないと思われる。ブラウンがバーチであれば、バーチは逃げるだろうし、リーナも追いかけるだろうから、その決着がつくまではバイロンの願いは成就されない。

一方で、リーナが諦めたのちにバイロンの説得によって、バイロンとリーナが結婚したとしてもそれは果たしてバイロンにとって幸せなのかどうかとハイタワーは疑っている。そこには、時代の価値観もある。今なら、それもありか、と思う気持ちはあるものの、そういう結婚は不幸になるからやめとけ、という人もいるだろうなあ、とも思う。

私はといえば、愛の物語は、二人の相手の心象の一致(という錯覚)によって愛が成就する物語はあまり好みではなく、徹底的な偶然が二人のミッションを一致させ、その一致という非合理な偶然に敢えて身を委ねていくという物語が好きだ。バイロンの愛は、後者に近いのではないかと思う。ただ、非合理ゆえに一歩も引けない/引かないという怖さもあると思う。

バイロンの愛は、推しへの愛に近いところがあって、強固である。ハイタワーの説得は、要するに社会生活の再生産のための常識的なアドバイスに留まっていて、バイロンの非合理な感情にはとどかない。合理的な選択は、より合理的な代替案によって覆されることはあるが、そもそもが非合理な選択に対して、合理を重ねてきても、響かない。信念とは、そういうものなのかもしれない。

愛と信念が癒合したとき、人は困った状態に陥る。ただ、ここで相手からの見返りのなさで怒るのであれば、それは癒合というカードを見せて、相手を愛に引き込もうとする心象の一致状況だろう。一見、ストーカーのようにみえるバイロンは、相手からの見返りを全く求めていないという点で、ストーカーではないと思う。ヤバいにはヤバい人ですが。

何を言いたいかわからなくなっちゃったので、閉じます。

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