「旧大正通り」を歩こうとしてみた 〜両国・東神田・神保町〜
全然気分が乗らないまま、しかし、一度やり始めたことはやらねばならぬ、それがあのいい歳になったアイドルが口走った「Show must go on」の本義であろうと、動かぬ足を引き摺りながら、両国へと立ち戻った。
横網横丁かと思いきや横綱横丁だし、勘違いさせること甚だしいのだけれども、平日はいつもお弁当とばかり、昨日の残りのおかずを詰め込んで、最近はすっかり乱歩も読んでいないから、ポール・オースターの『ミスター・ヴァーティゴ』も一緒に、お昼近くに家を出た。
まあ涼しいから、今日は弁当を隅田川沿いで食べる50オヤジの一人ピクニックだな、と中敷きを敷いてさえぺちゃんこになったソールの900円スニーカーで歩き始めた。
正直、この辺りまで来ると、再開発できるところは完了して、ずいぶんとモダンな顔へと変貌している。徐々に錦糸町もそうなるのかもしれないけれど、昭和後期のパラノキッズたちのイリュージョンを、いつまでも湛えておいてほしい。スキゾもパラノも、みんなもう還暦なのだから。動ポモだって、もうアラ還さ。
両国3、2、1とカウントダウンのように歩んできたら、もうそこは両国橋だった。橋の袂で昼飯を食おう、誰もいなきゃいいな、と思って、少しだけ登りの道をトボトボと歩いて行った。今にも身投げする人に見えたんじゃないか。
人がいないところを探してウロウロしていると、怪訝な目で見てくるランナーたち。だから、俺は違うぞ、飛び込むわけじゃないぞ、とアピールをするために、インスタグラマー味を、かろうじて出してみた。
不安定極まりない場所に、お弁当の入った鞄を置く。今、これ川に落ちたら、俺、発狂するな、と手を離す。こういう時に、落とすのが今までの俺。手術で生まれ変わった俺だから、落とすはずないと思いながらも、バランスをとって、アルキメデス信じたぞ、とカメラを立ち上げる。今、ユーレカ!とか言って、目覚めるなよ。いつまでも寝てていいからな、アルキメデス。
なんとか、アルキメデスを冥府で眠らせ続けた俺は、行き交う船に向けて、ぬるいスープで乾杯した。熟年離婚されてもなんとかやっていけるかも俺。そして、あっという間に弁当を食い尽くした。いつもどれだけランチを貪っていたのやら。
さあ戻って橋を渡るぞ。ここを越えれば、靖国通りになる。
芥川の「大川の水」は、やっぱり幼少期に住んでいたわけではないから、わからなかったけれど、その懶い水の匂いは、船が通ると香ってくるね。
向こう側に来た。江戸通り、明治通り、昭和通り、そして今や平成ナントカ通りなんてのもできてる。じゃあ、大正通りも設定してあげなよ。どこでもいいよ。なんで一人だけ仲間外れなんだよ、と思いながら、喫茶店を探した。
とりあえず清洲橋の方へ行く道と交差するところにあったここで。スクエアカフェ。
涼しいから今日は外で。疲れて休んでるおじさん、みたいな風情で見えてるようです。絵にならないね。
少し歩いたら、こういうお店も。こっちの方がオシャレだったな。
途中で歩道は無理矢理別の道へと誘導される。ハイハイ、戻りますよ。というか、俺、ただ「旧大正通り」を歩いてるだけじゃん。江戸川乱歩の蘊蓄はどうなったんだよ。いや、もうほらショーマストゴーオンだから、何にも用意してきてねーんだよ。何にも用意するつもりもなかったし。
ほら、神田平成通り。てか、まだご存命なんだから、平成、元号としてメモリアルにするの良くないぞ。
二つの電車の鉄橋を潜っていくと、もう見慣れた通りになっていく。
中央通りとの交差点。
ここの喫茶店が今一番俺に似つかわしいな。そうでもないか。
本郷通りまできた。アッ、あれは仮店舗の三省堂。あの青春の三省堂が、こんなにちっちゃく…仮店舗だっちゅうの。
通りそっちのけで、せっかくなんで地元にはないオースターでも買いますよ。オースター全部並んでないの、ほんと、どうにもならないね。でもさすが三省堂、仮店舗でも、並んでた。全部は買わない。分散して、金、落としてこ。
ここまでくると、旧大正通りも、靖国通りも、頭になくて、ただ古本、ワゴンセールだけだけど、見て回ったよ。Amazonより全然安いじゃん!最近、もったいない本舗も、バリューブックスも、まともな値付けするようになっちゃって、あの頃の価格破壊の無軌道ぶりはどうなんだと。2冊、買いました。
ところで、今日は神保町でやめて、本でも見て帰ろうと。
そう、いつか行ってみようと思ってたパッサージュ。
複数店舗があるのね。ソリダの方を、舐めるように見て、パッサージュの一階を舐めるように見て、友人の棚もあるな、と興味深く眺めて、でも、吉穂堂さん、どこにあるの?と迷子になって、HPで調べたら、あ、、ここの3階なんだ、と上がって行ったら、ありました。奥には瀟洒なカフェが。購入。
全編いい感じの選書で、面白いなと思いました。裏テーマで柴田元幸棚に、オースターの『サンセット・パーク』があったら買いたいなと思っていたんだけど、見事に空。一期一会ってことですかね、こと本に関しては。もう。
地下鉄神保町駅の入り口の交差点にある本屋、吾が予備校生の頃からある本屋で、あの辺にしては普通の品揃えだから、あんまり当時は買わなかったけど、ここでもオースターの文庫を。細かくお金を落として、次はここから市ヶ谷まで行こうと、決意しましたとさ。