妻のサプライズ。
その日は午前中に用事があったので、半休を取って午後から出勤だった。休職中の妻は、午前中は休職プログラムのため職場へ出かけている。
それぞれに予定があるし、妻から何も連絡がなかったので、普通に出勤しようと家を出て、いつも通り電車に乗った。
出社前に昼食を取ろうと、乗換え駅で改札を出た時。
後ろから肩をたたかれた。
振り向くと、妻がいた。
ニヤニヤしながら、妻が話しかけてきた。
「ふふふ。びっくりした?」
「うん。どうしたの?」
「帰るときにちょうどタイミング良さそうだったから、驚かせようと思ってこっちまで来たの。お昼一緒に食べようと思って」
「そうなの?タイミング合わなかったらどうするつもりだったの?」
「その時は、一人でお昼済ませるつもりだったよ」
そういうと、妻はまたニカッと笑った。
いたずらっぽく笑う顔は、長男に似ている。
「いいよ、一緒に食べに行こう」
私はそう言うと、妻と連れ立って駅のレストラン街へ向かった。
◇
妻は昔から、人にサプライズを仕掛けるのが好きだ。結婚前も、旅先のお土産を届けに、職場近くまで突然来たことがある。
ただ、いつも急なのになぜかあまり迷惑じゃないタイミングで現れる。
なにか配慮しているのか?
不思議に思った私は、妻に聞いてみた。
「いつもさ。サプライズする時って何か考えてる?」
すると、妻が答えた。
「一応、ずいぶん前から探りを入れてるよ。で、良さそうな日を見つけて、この日に仕掛けよう!とは結構前から決めてる。」
「え、そうなの?」
「バレたら面白くないから、あなたが忘れたころにやってるけどね」
妻は楽しそうに笑いながら、コップの水を飲む。
(そうやってサプライズを仕掛けてたのか。わかんなかったな)
サプライズのことを聞き出したけど、多分また妻は仕掛けてくるだろう。そして私も引っかかるだろう。何せ、私が忘れたころに妻は仕掛けてくるのだから。
でもそれが面白い。妻が面白がっているなら、それで良い。
妻が笑っていると、家が明るくてホッとする。