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やる気スイッチはおひさまの香り。

晴れた日の、よく乾いた洗濯物の香り。
幼いころから、私はそれを「おひさまの香り」と呼んできた。

幼いころ、「おひさまの香りは、干した物がカラッと乾いた合図だよ」と母に教えられた。

洗濯物を畳むのは好きではないが、おひさまの香りが部屋いっぱいに広がる瞬間は、今も昔も変わらず大好きだ。柔軟剤の香りよりも安心できる。
洗濯物だけでなく、布団を干した後もおひさまの香りに包まれる。布団を干した日の夜は、私は幸せな気分になれた。

大人になった今でも、洗濯物は外でパリッと干したい。
乾燥機も悪くはないけど、物足りない。

だから、天気が悪いと私の心は少し沈む。
洗濯物を取り込むときの、おひさまの香りが嗅げないからだ。

もともと、洗濯物を畳む作業は、家事全般苦手な私にとって苦行でしかない。それでも子どものころから手伝わされてきているので、人並みにできるようになった。新婚当時、高速で洗濯物を畳みながら「家事が苦手」と言うと、説得力がないと夫から言われたこともあったっけ。

誰が何と言おうと、苦手な家事に変わりはない。
でも、子どものころに見つけたおひさまの香りのおかげで、晴れた日の洗濯物だけは気分よく畳めるようになった。気持ちよく洗濯物が畳める日は、いい1日だ。

それほどまで気分が左右される。
もしかしたら私、おひさまの香り依存症かもしれない。
おひさまの香りがなければ、洗濯物を取り込んで畳むのは、彩りのないただの作業と化す。できれば誰かが代わりにやっておいてくれると助かる、苦手な作業。テンションはダダ下がり。

雨の日だって必要だから仕方ないけど、やっぱり洗濯物は晴れた日に干したい。そして、おひさまの香りに包まれて幸せを味わいたい。

ここまで考えて、我に返った。
時間がない。早く畳まないと。
洗濯物に視線を戻した。

そこに長男がやってきた。
バスタオルを手に取り、顔に近づける。

「どうしたの?」
「香りを嗅いでるの。いい香りがするよね」
「いい香りって、柔軟剤の香り?」
「ううん、ちがうよ。晴れの日の洗濯物から香るよ」

あら。気づいたのね。

「それね、おひさまの香りだよ。洗濯物がカラッと乾いた合図だよ」

あの日の母のように、私は長男に告げた。
長男は不思議そうに私を見た後、再びバスタオルの香りを嗅ぐ。

「おひさまの香りかあ。いいね」

長男は、にっこり微笑んだ。
そして、2人でせっせと洗濯物を畳む。

おひさまの香りが、私たちをやさしく包み込んでくれた。

(1,000字)


※メンバーシップ 書く部のお題「1000字ちょーどで書いてみよう」で書きました。


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