漫画みたいな毎日「あのさ、なんか、ありがとね。」
先日、二男が10歳の誕生日を迎えた。
数日前から、いや、もっと前から、彼は自分の誕生日を楽しみにしているようだった。
そこまで自分の誕生日を楽しみにしていただろうか?と自分の子どもの頃を振り返る。誕生日に買ってもらえるプレゼントや商店街のパン屋さんで売っている甘すぎるケーキとか、そういったものを楽しみにしていた記憶がある。
二男の楽しみにしている姿を目にして、可愛いなぁと思いながら、彼の期待にできるだけ応えたくて、前日からケーキのためのクリームを作ったり、ケーキを焼くための米粉を製粉する。当日の夕飯は、二男が大好きな餃子にすることにした。
誕生日当日。幼稚園に出掛ける前に、ケーキのスポンジを焼こうと早起きする。スポンジは3台焼く。1台は、誕生日ケーキ用。あとの2台はおやつに食べる用。何も乗せていないスポンジを我が家では「カステラ」と呼んでいる。
二男は誕生日前日から自分の机スペースに籠もり、周りに布を吊るして周りから見えないようにして、なにやら秘密の活動をしているようだった。明らかに見られたくないようだったので、近づかないようにする。
末娘は大きな声で本人にも聞こえるくらいの感じで、「二男にプレゼントする」と色々な絵を描いている。そして、一緒に買い物に行った時に、小さなスポンジ・ボブを二男に選んだ。そして、誕生日の夜までは待てなくて、朝一番でプレゼントを渡す。
「わぁ、すごく嬉しいよ!」とスポンジ・ボブ大好き男子は喜んでいる。
そして、相変わらず、涼しい顔の長男。誕生日だとわかっているけど、まったくそれに触れない。何か考えているのかなぁ、と思うけど敢えて聞かない。
スポンジ台を無事に焼き上げ、お弁当を作り、近所で熊の目撃情報があったので、幼稚園バスで幼稚園に向かう。今日は二男も一緒に行くと言うので、バトミントンでもやろうかと用意して出掛ける。
二男の足取りは弾むみたいに嬉しそうだ。誕生日ってそんなにも嬉しいものなのかと眺める。
赤ちゃんの頃から通っている幼稚園では、「誕生日だね!おめでとう!」と声を掛けられることもあり、その度に恥ずかしそうに笑って応える。
3時前には家に帰り着くだろうから、そこから餃子の準備とケーキの準備だ。我が家では、誕生日を迎える本人がケーキをデコレーションすることがいつの間にか恒例となっている。
玄関を入ると、慌てて長男が玄関に出てきた。そして、何か弟妹たちを外に誘い出している・・・はて?
「まだ、飾り付け出来てないからさ。」
なるほど。
長男は、私たちが留守の間に自分でバスで買い物に出て、二男の誕生日の飾りを選び、飾り付けていたようだった。私も慌てて飾り付けに参加するが、
二男と末娘もわらわらと部屋に入ってきて、「わぁ!いいね!」とまだ途中の飾り付けをみて盛り上がり、そこから皆で飾り付けをする。こうして皆でやるのもいいよね。
二男は時計を見ながら、「お父さんが帰ってくるのは8時過ぎだけど、もうケーキの飾り付けをしたほうがいいかな?」と自分なりに時間の計画を立てて動く。二男はのんびりしているように見えるが、先を見越して準備をする部分がある。
「じゃ、お母さんは餃子の準備するね。」
二男がケーキのデコレーションをする傍で餃子の具をせっせと包んでいく。二男はスポンジにクリームを塗り、苺やバナナを並べていく。
「あのさ、なんか、ありがとね。」
二男がぽそっと呟いた。
「え?何が?」
「お母さんと、お父さんがいるから、自分がいるんだよね。
だから、なんか、ありがとね。」
それは、おそらく、産んでくれてありがとう、ということなのだろう。
「こちこらそ、ありがとうだよ!あなたが産まれてきてくれて、みんな幸せだよ。ありがとう。そんな嬉しいこと言われたら泣いちゃうじゃないか~!」
私は嬉しさのあまり、ちょっと泣いているのを誤魔化すように笑って言った。
「そうなの?」とチラリとこちらを見ながら、彼は作業を続けていた。
二男の誕生日に大きなプレゼントを受け取ったのは私の方だ。
先日も思ったけれど、いつだって、私が受け取ってばかりな気がしている。
私たちのところに生まれてきてくれてありがとう。
あなたのお母さんにしてくれてありがとう。
とてもとても幸せです。