漫画みたいな毎日。「免許と、自動車教習所と、私。」
1ヶ月程前、運転免許証更新のお知らせの葉書が届いた。
免許をお持ちの方はご存知かと思うが、更新期限は、誕生日の1ヶ月前から、誕生日の1ヶ月後まで。うかうかしていると、免許更新期限が過ぎてしまう!と、平日で幼稚園が休園である今日がチャンス!と、慌てて更新に向かった。
運良く?ゴールド免許となっていた私は5年更新、30分の優良運転者講習だ。えっへん。ちなみに、この〈えっへん〉は夫に対してのわかりやすいマウントである。
私が免許を取ったのは、北海道に来てからで、かれこれ10年以上前になる。
関東に住んでいた頃は、地下鉄やJR、バスで何処にでも行けるし、不便を感じることはなかった。車での移動の際は、夫が運転をしてくれるし、車の運転の必要性を感じることは無かった。
私自身、車の運転には向かないであろうと思ってもいたので、ハンドルを握ること無く一生を終える予定であった。
しかし、予定とは、予定でしかない。
そして、予定は未定。
未来は予測不能なものだ。
長男の通う幼稚園を目指し、北海道に移住を決め、最初に住むことになったマンションのお隣は偶然か必然か教習所だった。それでも、必要性はない!と思っていた。夫も運転できるんだし、と。
そんなある日のこと、夫が免停になった。期間は2ヶ月だっただろうか。
運転できる人はいなくても車はある。移住してから買った新品の軽自動車だった。
「けいちゃん、これは、免許を取るチャンスだ・・・。」
夫は呟いた。
お隣は教習所、夫は移住したばかりで仕事も忙しくない。
長男とは、夫が過ごすことができる状況だ。
「今しかないよ!」
えぇぇぇ・・・嫌だなぁ・・・と思った。
怖いし、事故とか起こしたくないし、そもそも、教習所ってイメージがよろしくない。教官にいじめられたら嫌だ。(誰がいじめられるって?と夫は思ったことだろう。)
しかし、車はあるのに、使えないのはもったいない。
そして、夫が免停期間を終える2ヶ月後に免許を返してもらいにいく運転免許試験場は、遠かった。バスと電車とさらにまたバスを乗り継ぐことになる。おそらく片道1時間半以上かかるだろう。車なら1時間もかからない。
「免許を取って、車で僕の免許を取り返しに行こう大作成だ!」
このようなことで、なんだか夫の掌で転がされいる感もあったが、知人の紹介のおかげで、教習料金も割引していただき、もう通うしかない状況が整った。
物事が、スムーズにいくというときは、抗わない主義だ。川の流れのように、というか、流れてみるものアリだと思っている。
こうして私の30代後半教習所通いがスタートしたのだった。目標は2ヶ月後の免許ゲットだぜ!って・・・ダイジョウブか?自分・・・。
教習所通いは、スムーズであった。なんてったって、歩いて3分、走れば1分の場所にあるのだから。ガンガンと座学を入れ、あっという間に教習車に乗れることになった。
教習所は担当教官制で、毎回、同じ教官が車に同乗することになっていた。
担当の教官は、私よりも少し若い男性教官だった。
教習中、別に話をする必要もないかとは思ったが、密室で無言でずっと過ごすことは、私にとって苦痛であった。しかもたいして良い雰囲気でもない。で、あれば、ちょっとでもコミュニケーションを取って、この時間が和やかになれば、と試みることにした。
話をしていくと、教官は奈良県出身で、住んでいるアパートは1階で寒いこと、羽毛布団に興味を示していることなどがわかった。そして、教習中にわかってきたこと・・・それは、教官が北海道民に対して物申したい気持ちが多々あるということだった。
私は東京出身。奈良県出身の教官は、それを知ると、「北海道は運転マナーが悪いんです。」「大体ね、こんなに道路が広かったら運転うまくなるわけないんですよ。上手くなりたいなら、東京で免許とった方がいいですよ。」と北海道ディスりを始めるのだった。
あの・・・教官、私、北海道で運転を取得しようとしている真っ最中でございます。
他にも色々、北海道で辛い目にあったのか、北海道ディスりは続いた。
私の予測では、きっと、北海道生まれの可愛い彼女に振られたに違いない。だから、北海道そのものを憎んでいるのでは?!と勝手に色々と妄想し、先生の話に耳を傾けた。
教官が、あまりにも、北海道に対して嫌悪感を示すので、だんだん面白くさえ思えて来て、教官と北海道の間に一体何があったんだろう?!ということに興味を持ってしまい、すっかり聞き上手になっていたようで、教習が終わる頃には、最初はクールな様子だった教官もフレンドリーな様子になっていた。我が家で購入したと話した羽毛布団を、教官も買ってみました、と報告してくれた。
奈良県仕込の厳しい教習のおかげで、私は、2ヶ月後には無事に免許を取得し、クリスマスには、雪道をこわごわ運転しながら、夫の免許奪還返却の務めを果たしたのだった。
3回目の免許更新を無事に終え、新しくなった免許証を眺めながら、思い出した教官とのやりとり。
奈良県からやって来た教官は、今は何処にいるのか、もう奈良に帰っただろうか。それとも、紹介し購入した羽毛布団に温められながら、まだ北海道にいるのだろうか。もしかしたら、北海道生まれ北海道育ちの素敵なパートナーをみつけ、北海道に根を下ろしていたりして。北海道が少しは好きになっているといいなぁ。
〈先生、北海道は、なかなかいいところですよ~!〉
更新された免許を手に、そっと心の中で呼びかけるのだった。
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