eスポーツライターなんてやらないほうがいい
ゲーム業界は巣ごもり需要で絶好調。eスポーツ業界には大手企業が次々と参入。このご時世で、景気のいいニュースばかりが目に入る。
しかしその実、eスポーツ界隈では、解散するチームや閑古鳥が鳴くイベントも多い。最近はこうしたeスポーツの影の部分も取り沙汰されるようになってきたが、問題視すらされない不遇の存在がいる。
eスポーツライターだ。
実際、eスポーツ専門のライターとして生計を立てている人間など、全国でも数名いるかいないかだろう。話題に挙がらないのも当然だ。
なぜeスポーツライターは少ないのか。この話題は、たまにwebメディアのあいだで「書き手不足」として叫ばれ、その多くは書き手側の実力不足などに帰結する。
はっきり言って、これは責任転嫁だ。こうした言説が跋扈する限り、eスポーツライターなど目指すべきではない。
1.クラウドソーシングライター以下の薄給
もう各eスポーツメディアに気を遣う間柄でもないので、オブラートには包まない。eスポーツメディアの原稿料の相場は、1万円前後だ。
ゲームライターからすると、この報酬は決して低くないと思うかもしれない。
しかし、ゲームライターとeスポーツライターは似て非なる仕事だ。eスポーツライターの仕事は、大会のレポートや選手インタビューなどの取材が中心。少なくとも、攻略系サイトのライターのように「こたつ記事」では完結しない。
にも関わらず、eスポーツメディアの多くは交通費を出さない。eスポーツ系のイベントはビッグサイトなどのお台場エリアで行われることが多く、都内に住んでいても往復1,000円以上の交通費がかかることもザラだ。昼食などを考慮すれば、手取りはどんどん下がっていく。
半日以上拘束されるイベント取材、原稿作成、交通費はなし。それで長文なんか書いた日には、報酬は文字単価1円を余裕で下回る。
手前味噌だが、僕はインタビューの質問案もきっちり作り込む。そうした下準備から時給換算したら、計算したくないほど割に合わない仕事だ。
冒頭で「eスポーツ専門のライターとして生計を立てている人間など全国でも数名」と書いたが、純粋に「eスポーツライター」のみで生計を立てるのは困難なのだ。
「たくさん仕事があるのに、若手のeスポーツライターが育たない」という意見もあるが、ちゃんちゃらおかしい。メディアが雑草も育たないような報酬しか支払わないのだ。
余談だが、僕の知る限りでは一人だけ某webメディアと月額契約を結び、かなり高額の報酬をもらうライターがいた。だが、それも編集長とのコネで結ばれたもの。上がってくる記事はお粗末なものらしく、編集者は不満をこぼしていた。案の定というべきか、そのメディアはすでに閉鎖している。
2.ライターを育てられる編集者がいない
いくつかのeスポーツメディアに出入りしてきたが、編集部に「編集者」として専門的に経験を積んだ人間は極めて少ない。eスポーツメディアは、素人によって運営されていると言っても過言ではない。
ここでもぶっちゃけると、編集者に付け足された文章が壊滅的な駄文だったことは、一度や二度ではない。あるメディアに寄稿したときには、選手・運営から名指しで「対応が酷すぎる」とクレームが来た。
ただ、これはeスポーツだけでなく、多くのwebメディアでも共通する話だ。僕も会社員時代はwebメディアの編集として仕事をしていたが、「編集」を名乗る人間の多くがずぶの素人。不要な赤字を入れて仕事をした気分に浸るクソ編集も少なくなかった。
もちろん「電ファミ」のように凄腕の編集者が運営し、猛烈な修正が入るメディアもあるだろうが、そんな「ライターが育つ環境」があるのはごく一部だ。
eスポーツメディア最大手の「SHIBUYA GAME」が閉鎖したときには多くの惜しむ声が上がっていたが、正直なところ一人のライターとして、激しい違和感を覚えた。メディアとしての運営能力を疑う場面が多く、「ちゃんとしろよ、クソが」と思うことばかりだったからだ。※一応フォローしておくと、いまも某eスポーツメディアで編集長をしている彼は奮闘していた。
3.「eスポーツ専門」にはなれない
純粋に「eスポーツライター」という括りも、現実に即していない。一口に「eスポーツ」といっても、数多くのジャンル・タイトルが存在するからだ。eスポーツという呼び名には否定的見解も多いが、少なくとも「様々な競技の集合体」として「スポーツ」と総称する点は的を射た表現だ。
例えば「スポーツライター」を名乗っていたとしても、すべてのスポーツを網羅的に請け負う人はいないだろう。野球やプロレス、サッカーといった専門分野を持ち、活動しているはずだ。
eスポーツライターも同様で、広義に「格闘ゲーム」や「FPS」といったジャンルごとに守備範囲を持つ場合が多いが、大抵は『ストリートファイター』や『スプラトゥーン』といったゲームタイトルごとに専門分野を持つ。同じジャンルであっても、タイトルによってルールやプレイ方法は異なるからだ。
野球ライターに格闘技の記事を書けといっても、ろくなクオリティにならないだろう。eスポーツも同様で、カードゲーム専門のライターに格ゲーの記事を依頼しても、ろくなクオリティにはならないわけだ。
もう少し「スポーツ」の部分で比較すると、eスポーツのタイトルは廃れれば消えるというリスクがある。特定のゲームでライターとしての地位を確立したとしても、そのタイトルが下火になれば需要はなくなるのだ。
僕がメインで活動していたeBASEBALL(『実況パワフルプロ野球』のプロリーグ)も、2020シーズンを最後に休止となった。※現在のeBASEBALLは『プロスピA』のプロリーグとして継続中。
その点でスポーツは、大会やリーグが消滅しても競技自体が消えることはない(ライターとして稼ぎになるかは別として)。
そうしたリスクの一方で、ゲーマーというコアな人々を読者に相手取る以上、生半可な記事は書けないため、求められるハードルは高い。
守備範囲は狭くならざる得ないうえに、消滅のリスクがあり、ハードルは高く賃金も安い。eスポーツライターがどれだけ夢のない仕事か、お分かりいただけただろうか。
4.eスポーツライターなんてやらないほうがいい
以前、興味深い指摘があった。
「大手ゲームニュースサイトのeスポーツレポート記事掲載が減っているのではないかと思ったので5媒体・10大会の掲載状況を調べた」
コロナの影響は大きいだろうが、現実としてeスポーツのレポート記事が減っているようだ。
この記事の関連ツイートで原因がいくつも推察されていたが、一つも「ライターの待遇」を指摘する声はなかった。挙がっていた推察はいずれも的を射ていたと思うが、ライターの待遇については危機感すら持たれないのが現実だ。
最後に、やりがい的なことも書いてみよう。
僕が出会ったプロ選手やeスポーツチームの運営は、皆いい人たちばかりだった。なかには人生をかけて挑戦する選手もいて、彼らにファンが増えてほしいという思いで記事を作った。手前味噌ながら、僕の記事はNPBの方にも好評だったと耳にした。
ただ残念ながら、そうした記事を書き続けられる環境はない。正直、他にもクソみたいな話はいくらでもある。
例えば、直近まで付き合いのあった「NASEF JAPAN」も、半年以上も仕事をしていたのに前触れもなく連絡が途絶え、納品した原稿も公開されぬままとなっている。
「子どもの教育を〜」と謳う団体ですら、フリーランス軽視という有様。また、運営にゲーマーを理解する人間がいない点も「なんだかなぁ(cv.安野希世乃)」と思うばかりだ。
知り合いの某eスポーツメディアの編集も業界から離れた後に、「他の業界に行って、改めてeスポーツ業界の異常さに気づいた」としみじみ話していた。
※フォローを入れておくと、読売新聞社(GxG)の運営さんだけは、本当に素晴らしい方々だった。
現状でライターとして携わりたいのであれば、「好きなことをしてお小遣いがもらえる」程度の感覚で手を出すのが正解だ。大会やイベントにはメディアとして自由度高く参加できるし、プロ選手とも知り合いになれる。こうした恩恵に大きな意義を感じるのであれば、安い原稿料も気にならないだろう。
eスポーツは世界規模で発展しているから、いつか努力が大きく実を結ぶかもしれない。実際、eスポーツメディアの編集者は海外取材へ行っている。ライターには安い原稿料しか払わないくせに、どこからそんな金を出しているか甚だ疑問だが……。
正直、この記事で「業界を良くしたい」とか「ライターの待遇を改善したい」といった美辞麗句を並び立てるつもりはない。メインで請け負っている業界と比べて、あまりにもムカつくことが多かったから文句を言っておきたかっただけだ。
ただ、これを読んで一人でもeスポーツ業界で不快な思いをする人が減ってくれれば、この駄文も浮かばれる。
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