
生皮 あるセクシャルハラスメントの光景 井上荒野 読書感想
今更訴えるとか売名行為じゃねえのとか、ホテルに付いて行ったから同意とか。
そんなわけない!
生皮は小説講座の講師・月島光一が七年前に生徒だった九重咲歩に性的関係を強要したエピソードを軸に他の人達がどう思っているか、また他のセクシャルハラスメントの現場ではどうなっているか描かれている。
咲歩は講座を辞め、書くこともやめて、別の男性と結婚をした。
七年経過してからも月島光一からされたことは忘れていなかった。
月島が講座の生徒が文学で受賞したのでカリスマ講師的な扱いでメディアにも露出し、関わろうとしなくても目に入って来る日がある。
咲歩は7年前の件を告発し、それによって月島は九弾されていく。
加害者と被害者、そしてとりまく人達に、全く関係ない人達の感想。
視点は目まぐるしく変わるので飽きることなく次へ次へと読み進めてしまう。
月島は元編集者でたしかに文学への情熱は持っているし、実際講座に来ている人で男性でも受賞出来るレベルに上げているから有能な部分はある。
しかし若い女性、気に入った容姿の子には個人的に呼び出し、講座の飲み会でも必ず隣をキープさせて、少しずつ触れていくという気持ちの悪い60歳である。
今、この場所で一番体力と能力があるのは自分だろう。ジャグジーにいる男たちなど、相手にもならない。
実にナルシストで気持ち悪い。これを読んだ時は笑えたけどこんな60歳がいると思うと笑えない。
注入したかったんだ。俺の力を。力を、愛と言い換えることも出来るだろう。それが伝わったからこそ、彼女は抵抗をやめたんじゃなかったのか。
いい文章を書く為にしたんだと自分を正当化。抵抗をやめたんじゃなく出来なかったとも想像出来ない。救えない存在である。
月島は娘から「私が同じように上の立場の男から暴行されても我慢してたって言ったらどう」と詰問される。
返事すら出来ずに逃げるしかなかった。
月島は他の女性達にも同じことをしていて、立場を追われる。
これで被害者は救われた、わけではない。
まだまだ癒えない傷を抱えて生きてしていくしかない。
この話で怖かったは咲歩が訴えた時に、講座での顔見知りのおばさんがなんでそんなことするんだ、月島に捨てられたから逆恨みしたんだろとか、直接電話を掛けてきたり、いつの間にか講座全体の人に(咲歩は7年前に辞めているから当時の知り合いは少ない)連絡先を知られて、勤務先に嫌がらせをする人がいるということ。
勘違いの正義から、傷付いている人を追い込む。
また顔も知らない人達がSNSで「今更」「ホテルまで来たんだから訴えられた月島こそ被害者」と言う人がいること。
この辺りも生々しい。
セクハラってなかなか言い辛いので、はっきり被害があったのならともかく、毎回隣に座ってくるの、程度では騒ぐのも変と思われそうと黙ってしまう部分がある。
でも変だと思ったら声を上げるべき。
取り返しのつかなくなる前に。傷つけられる前に。
セクハラをする人(男でも女でも)が世界からいなくなるように。