【短歌】筑波山|文語の定型短歌を詠む39
筑波山夜間ハイクの帰路に逢ふ十九の我は未来の夫と
イザナギとイザナミ祀る双峰に夫婦で帰る感傷旅行
名ばかりの学園都市は数十年経て都市となり隔世の感
来年は還暦となる夫なれど「中西君」と恩師は呼びぬ
山頂のホテルは展望素晴らしく遥か遠くに富士の嶺も見ゆ
2014年8月詠 『橄欖』2014年11月号 初出
夫との出会いは大学祭の企画のひとつだった筑波山夜間ハイクだった。
懐中電灯を持って大学の本部棟前から出発、古い集落をつなぐ旧道を歩き、山頂までは登らず、筑波山神社で休憩して折り返して戻るというコース。
夫も私も大学祭の実行委員だったのだが、2人だけで長い時間語り合ったのはこのハイクの帰路が初めてだった。
会話の内容は憶えていないが、私が行きに土産店で買って持っていた巨大サイズの「がませんべい」を「これ、食べる?」と袋ごと渡すと、夫は「おう」と言ってバリバリと食べ始め、2枚入りだったのにひとりで2枚とも一気に食べてしまったのが強烈に印象に残った。
「本をたくさん読んでいて、知識が豊富で、話はものすごく面白いのに、なんて下品な人なんだろう・・・」
この印象はその後ずっと変わらず、結婚して40年後の今も変わらない。
夜間ハイクの5年後にプロポーズされた時になぜ「はい」と言ったのかもよくわからないが、なんとなくわかるような気もしている。
2014年の夏、夫の恩師K先生を訪ねるために久しぶりにこの地に戻った。
K先生は退職後に霞ヶ浦の湖畔の村に住み、地域の教育長を務めておられた。
私たちの初めての出会いの場所である筑波山の山頂近くのホテルに宿泊し、学生時代からの友人夫婦とも旧交を温めた。土産店であの巨大サイズのがませんべいも買い、初めて分け合って食べた。
先日、つくばを訪ねる機会がまたあり、9年前と同じホテルに泊まった。
土産店にはがませんべいもあったが、サイズが小さくなっていた。