美容師さんの名前を、私は知らない。
毛量が多い私は、頻繁にカットに行く。
その度にストレスを感じていた。
どの店舗も気に入らず
ホットペッパーで毎回違う美容院に行っていた。
わたしは人よりも、
【心地よく感じる距離】
が必要な人間なのだ。
*
「お住まいは近くなんですか?」
ーえ、なんでそんなこと聞くの?こわ
「何のお仕事されてるんですか?」
ー仕事のこと、今は忘れたいんすけど~!
「休日は何されてるんですか?」
ー休日は…何もしてません。はい、つまらない人間ですみません。会話盛り上がらずすみません。
「このあとはどこか出掛けられるんですか?」
ーいや、家に直帰です。デートではないですけど、いい感じに仕上げて頂けますでしょうか?
と、まあこんな感じだ笑
(私、かなりひねくれているなぁ)
いつもテキトーに話を合わせていたが、
たまに2回目来店することがあると、
自分がどんな嘘をついていたか忘れて、
何度が冷や汗を書いたこともある。
「一人っ子です」(嘘)
「あれ?お兄さんが近所にいるって言われてましたよね?」
「え。あ、義理の兄ですね!(汗)」(嘘)
自分でついた嘘だらけの会話に
意味を見いだせなくなり、美容院探しの旅は続く。
*
そんな私も、
心地よく感じる美容院をやっと見つけた!
ようやく美容院放浪の旅が終わったのだ。
一ヶ所に留まれない遊牧民だと思っていたが、
なるほど、私は安心と安住を求めていたことに
気づかされる。
美容師さん一人
客席もひとつ
2階だから道行く人の視線を気にしなくてよい
家から徒歩30秒という近さ
腕がいい!毎回周りに褒められる
そして、何より、
その美容師さんの纏う雰囲気がなんとも心地よい。
なんかオーガニックっぽい見た目
整っている顔立ちではないが、全体に清潔感がある
自分の意見を話してくれるが押し付けではない
会話に私への余白を残してくれる
終始ローテンションだが、たまに私の話でめっちゃ笑ってくれる
他のお客さんのネタもでるが、絶対に悪く言わない
たぶん話すのは上手くないが、その分こちらもハードル低くおしゃべりできる
以前私が言ったことを忘れていることもあり、そんなゆるさもかわいい
*
初回で私はすっかり心開いた。
あ、もうずっとここに通うだろうな。
何度か通う中で、
お互いの恋愛事情も話すようになった。
(私が言うのも生意気だが、この人もなかなかのこじらせ具合でおもしろい)
毎月行くので、お互いの進捗状況を報告しあった。
異姓の友人が少ない私にとって貴重な恋愛相談者。
ぽつりぽつりとアドバイスしてくれる言葉が
すーと私の心に落ちてくる。
そう、もうすっかり人として信頼している。
*
そんな美容師さんの名前を、私は知らない。
今さら聞けない。
向こうは、登録した私の名前を知っている。
その名前を呼んでくれる。
でも、私は知らない。
名前を知らないから、いつも名前を呼べない。
名前を呼べないと、ある一定から距離が縮まらない気がする。
だけど、所詮、美容師とお客の関係だ。
これでいい。寂しくなんかはない。
名前を知らない人だから話せる話しもあるんだと思う。
名前も知らない人だけど心開きたくなる美容師さんは不思議で素敵なお仕事だと思う。
こんな距離感もなんだかエモいなと
にやにやしながら、今月も予約した。
*おしまい
みなさんは絶妙な距離感のお知り合いはいますか?
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