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村上春樹の短編集「一人称単数」のレビュー

まず表紙に驚いた。
何度も村上春樹の本だよな、と確認してしまった。
マンガ家豊田徹也の絵だ。彼のユニークなコメントがここで読める。

読んだ短編について感想を書く。
村上春樹の作品について、あらすじを書くなんてバカだと思うので書かない。あらすじを読むこともおすすめしない。そういう小説ではないからだ。

石のまくらに

短歌を読む女の子の話。

文章のリズムがとんでもないことになっている。
特に後半。文字を追う速度が上がる。言葉が入ってくるスピードが上がる。短歌を読ませるスピードと地の文を読ませるスピードの緩急がえげつない。
文字の密度が高いところはすらすらと読めて、密度が低いところはじっくり読まされる。意味が分からない体験だった。

これだけでも当たりだ。

私小説的

村上春樹のインタビューを読んでいると、私小説って好きじゃないみたいなことを言っていた。この短編集を書くモチベーションの一つとして、死ぬ前にこれは書いておかなくちゃいけないよなという義務感みたいなものがあったと思う。村上春樹が初めて父について腰を据えて語った「猫を棄てる」もそうだ。
「一人称単数」は彼であり、この本を書くことは彼にとって毒出しのような作業だったのかもしれない。
実際にあった村上春樹の体験をかなり直接的に反映していると思った。
ウィズ・ザ・ビートルズも謝肉祭も実体験が強く反映されているとしか思えなかった。

次の長編が出るならば、いままで以上にサラッとした身軽なものになる気がする。

収録作品

石のまくらに
クリーム 
チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ 
ウィズ・ザ・ビートルズ
「ヤクルト・スワローズ詩集」
謝肉祭(Carnaval)
品川猿の告白
一人称単数(書き下ろし)


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