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頂点が好きな男 陸伍伍参漆 (ショートショート)
ある男は頂点が好きだった。
頂点を愛し追い続けた。
男は金にしか興味がなかったが、お金には全く興味がなかった。むしろ嫌いだった。
家に帰るときは、なるべく曲がる回数を多くした。
曲がるとそこが頂点になるから
石は山の上でしか拾わなかった。
でも、山の天辺よりも街角が好きだった。
雑煮は東でしか食べなかったし、前方後円墳は前にしか興味がなかった。
帝を敬い、王を蔑んだ。
そんな日々を、男は幸せに暮らしていた。
彼の大好きな三角形の家で。一つの頂点を住処として。四角い食べ物をたくさん食べた。
あるとき男が石を探しに山へ登っていくと、見たことないくらいゴツゴツとした岩が、川の中で、水の勢いをものともせず半身浴していた。
それに見惚れた男は、その岩を家へ持ち帰り、壁際に飾ろうとした。
男が生活をする頂点からよく見えるように、対辺の中心に岩を下ろそうとしたその時、底が安定しなかったのか、岩はごろりと音を立てながら壁の方へ転がった。
壁にぶつかる瞬間、男は反射的に目を瞑り、耳を塞いだ。
何が起こったのかわからない。
男が目を開けると、岩は、2つの壁がなす角にあたかもそこにあったかのように収まっていた。
男は大喜びした。
それからの日々を、男はもっと幸せに暮らした。
彼の大好きな四角形の家で。正面の岩をずうっと眺めながら。
ある日男は、その岩がなんだか物寂しげにしているのに気がついた。といっても、その岩に意思はないのだが。
岩の仲間を探すため、もう一度山へ登った。
男は山の中で、2頭のツノのある動物に出会った。
連れて帰った。
家へ帰ると、2頭の動物は、どちらのツノが強いかを試すかのように、ぶつかり合った。
片方の動物が吹っ飛んだ。男は目を瞑り、耳を塞いだ。
男が目を開けると、倒れた動物と、その衝撃を受け止めたかのように2つに割れた壁が目に入った。
それから男は、もっと幸せに暮らした。彼の大好きな歪な五角形の家で。動物たちは毎日ぶつかり合ったが、あの時以降、勝敗が決することはなかった。
あるとき男は、動物たちの勝負がつまらなく感じ、初日に飛ばされた方の動物に応戦した。すると、相手の動物が吹っ飛び、男が目を開けると、壁が増えていた。
家は、綺麗な六角形になった。
力関係が崩れた動物たちの戯れにより、壁が少しずつ増え、家は九角形になった。
男はさらに幸せになった。沢山の頂点と、大好きな家族に囲まれて。家族はちょっと獣臭いけど。
その臭さも含めて男にとっては好きな匂いだった。寝る時も、2頭と一緒に寝た。
それからも、毎日少しずつ、頂点は増えていった。
増えていく頂点の中で、男は毎日が幸せだった。百角形、千二十四角形、一億角形、…
一兆角形
壁が割れる際、男は未だに反射的に目を瞑ってしまうが、耳を塞がなくなった。その音を心地良くさえ感じた。家族の鳴き声と、バコッともバキッとも表せぬ音の中で、幸せに暮らした。
一億角形、一京角形、一澗かっか…角形、一恒河沙角形、恒河沙ってかっけー、、、
男は四角の餅なんて食べなくなったし、わざわざ山の上まで石を拾いにいくことも無くなった。
家に帰ればたくさんの頂点がある。
毎日毎日、頂点を増やすのに費やした。
ある日、男たちがいつものように頂点を増やすと、いつも響くはずの音がしなかった。
不思議に思いながら男が目を開けると、増やしたはずの頂点がない。
周りを見渡すと、無数にあった角が一つ残らず無くなっており、家は一つの壁で囲まれていた。
男はえんえんと泣き喚いた。太って動けなくなった身体で、いつの間にか1人になり。ずーーーっと泣き続けた。永遠に